私には一人の友人がいます。
学生の頃からこの齢になるまで、会うとバカなことばっかりしています。
互いのアパートに泊まったり、徹夜で話し込んだり、車で無計画に海を目指したり☆
時にはひどい言葉を投げつけたこともあります。
相手のダメなところも、苦手にしていることも、いいところも、面白いところも、話し出したらきりがありません。
今はそれぞれに生活を持ち、一年に一回会うか会わないか。
メールも月に一度くらい、思い立った時に交わすくらい。
それでも変わらぬ友人です。
「…友よ。」
さて、今回ご紹介する本は、梨木香歩さんのトルコはスタンブールを舞台にした小説、『村田エフェンディ滞土録』です☆
「エフェンディ」というのはおもに学問を修めた人物に対する一種の敬称みたいなもの。
この物語の主人公村田は、トル皇帝の招きを受けて、日本から考古学を学ぶためにやってきた留学生です。
時は19世紀末。
招かれたといっても、決して優秀だからではなく、たまたま名前の発音がしやすかったから♪
トルコの軍艦が和歌山沖で座礁した時、地元の人々が献身的に救助、看護してくれたことにえらく感激されたトルコ皇帝は、両国にお友好がますます深まらんことを願って日本の学者を一名、トルコに招くことにしました。
そこで公募者の中から選ばれたのがこの村田エフェンディ。
彼はイギリス人の夫人が営むスタンブールの下宿屋で、寝起きすることになります。
梨木香歩さんの小説を読んでいつも感じるのですが、登場する人々がベタベタしていなくて、みんなちゃんと自分の足で立っている.
それぞれに生き方があり、感じ方があり、それを困ったなと思いながらも受け入れている。
”本当の自分”なんて探したりしない。
そういうところが彼女の小説の魅力だったりするんですよね♪
友達、家族だって、互いに何かを求め合い、しがみついて生きていたら、いつか必ずどこかで疲れちゃう。
人間って、お互い一人で生きていける者同士であって初めて対等な関係が築ける…
そんな風に個人的には思っているので☆
ま、迷惑をかけあうのも、友達、家族ならではなんですが。
村田エフェンディも、トルコの地で様々な人に出会います。
下宿の大家さん、敬虔なクリスチャンのディクソン夫人。
その使用人で、敬虔なイスラム教徒であるトルコ人のムハンマド。
考古学者で強面(こわもて)だが気のいいドイツ人のオットー。
ギリシア考古学協会の会員というギリシア人のディミィトリス。
軽羅(けいら)という薄布で顔を隠したトルコの美しい女性セヴィ。
同じくトルコの女性で、パリで教育を受け、洋装も似合うシモーヌ。
彼女は皇帝の支配する今のトルコをなんとか近代化しようと、ある運動に参加しています。
異なる人種、異なる宗教が混在し、アジアとヨーロッパの文化が流れ込むトルコ。
エザンと呼ばれる経典朗誦(イスラム教の聖典コーランを読んでいる)の声が決まった時間に流れる異国の地トルコの描写も興味深いですが、村田エフェンディの周りには、人々だけじゃなく、様々な国の神さまもやってくるので愉快です☆
忘れられた古代の人々が崇拝した力のシンボルとしての牡牛。
日本からやって来たお稲荷さんのキツネ。
エジプトのミイラ作りの神とされた犬神。
そして忍び寄る、第一次世界大戦の影…
世の中には様々な文化、様々な価値観がありますね。
物語の中で、村田が同国人のためにアジを釣り、塩焼きにして白いご飯とみそ汁でもてなすところがあるのですが、その気持すごくよくわかる♪
私たちも一人一人、日本の文化、価値観というものを背負っています。(最近はその価値観も様変わりしてきましたが)
でも、だからって争う理由にはならない。
自分と違うからって、他人を拒否してしまったら、ものすごくもったいないと思うのです。
お互い、困ってしまうこともあるけれど、違いは違いとして、わかりあえるところもあるはず。
大体、面白いじゃないですか♪
イギリスに留学され、国際的な様々な人々と出会ってこられた作者だからこそ、こういう雰囲気の作品が書けるんでしょうね。
ちょっと可笑しく、ちょっと悲しい、でも、読んでいてとてもいい本だと思いました。
私のお気に入りは、いつも抜群のタイミングで言葉をはさんでくる村田エフェンディの下宿で飼われているオウムです♪
「悪いものを喰っただろう」
「友よ!」
「いよいよ革命だ!」
「繁殖期に入ったのだな」
「もういいだろう」
このオウムのたどる運命も数奇なものになります。
古の人々と文化が折り重なるように積み上げられて形造られた大地。
男達は水煙草をふかし、女達は軽羅をすかして美しい瞳に情熱を燃やす。
そんな中を闊歩する一人の日本人。
村田エフェンディの土耳古(トルコ)滞在録、あなたもトルコの熱い風を感じてみませんか☆
ちなみに私のくだんの友人は今、一人娘にラブラブです。
写メールなんて送ってきます。
カワイイですよ。(もうすぐ幼稚園☆)カワイイけれど、これから運動会のビデオとか見せられちゃうのかな?
「友よ」「…もういいだろう」
…(笑)
梨木 香歩 著
新潮文庫
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