私的図書館

本好き人の365日

五月の本棚 『旅人タラン』

2005-05-10 00:51:00 | プリデイン物語
わたしは、だれだろう?

そんな疑問に誰でも一度はぶつかるんじゃないですか。

私は何者で、何が出来て、何のために生きているのか?

もしかして、私には大きな使命があるんじぁないのか?

本当は、とっても大切な存在で、誰にでも愛される日が訪れるのではないのか?

私がこの世界に生きている答えが、きっとどこかに…

そんな思いに駆られて、思い切ってその答えを見つけに旅立てたら、どんなに「生きてる」って思えるだろう。

でも、現実は、そんな余裕を私達に許してはくれない。

―――いえ、諦めるのはまだ早い!!

そういう時のために、私達人間には、秘められた能力があるじゃないですか♪

想像力と、古の経験を伝える「文字」を頼りに、冒険と探求の旅に出る。物語の主人公の姿を借りて、自分の心の奥底に眠る光を求め、”現実”の体験をするために本のページをめくる。そう、本の中で起こることは空想だけれど、それを読んで感じたことはあなた自身の本物の感情。そこからもらうことの出来る経験は、確実に私達の中で、何かを変えていく。

今回は、そんな驚きと感動をあたえてくれる物語の中から、一冊の本を紹介してみたいと思います。

先月から読み続けている、アメリカの作家。
ロイド・アリグザンダーが豚飼育補佐の少年を主人公に作り上げた新たな世界「プリデイン物語」。

その第四巻にあたる

『旅人タラン』

です☆

死の国の王アローンの魔の手を撃退し、思いを寄せるリール王家の王女様、おしゃべり好きな金髪の乙女、エイロヌイの危機をなんとか救った主人公のタラン。
モーナ島にエイロヌイを置いて、故郷のカー・ダルベンに戻ってきたタランでしたが、考えるのは、エイロヌイと自分のことばかり。

かたや古き血に連なる王家の王女様と、かたや生まれも定かではない豚飼育補佐の今の自分。

あまりに違いすぎる二人の立場に、自分はもしや高貴な血の生まれなのでは…と、かすかな希望にすがるタラン。
我慢できなくなった彼は、老予言者ダルベンに頼みこみ、自分の両親を探す旅に出る許しをもらうのでした。

最初は、自分の氏素性を明らかにして、晴れてエイロヌイに結婚を申し込むつもりのタランでしたが、この旅は、そんな単純な探索行にはなりません!

荒れた土地を守り、耕す農民の夫婦。
多くの富と兵士を持ち、つまらないことで互いに争う領主達。
人間を軽蔑して、不死を願うあまり、死そのもののようになってしまった魔法使い。
他人を利用し、良心のかけらも持たない野武士。
必要な物はすべていつか流れてくると信じて、川に網をしかけ続ける家族。
鍛冶屋に機織り、技を磨くことにすべてをそそぐ陶工。

たくさんの人との出会いの中で、タランは悩み、苦しみ、学びながら、自分は何者なのかと問い続けていきます。

「ほんとうに、それを、おまえはのぞむかの?」

高貴な血の生まれ。
見も知らぬ両親とのつながり。
田畑を耕し、家畜の世話をし、鍛冶場で鉄を打ち、羊の毛をすいて機を織る。

自ら鍛えた剣を持ち、自ら織ったマントを身につけ、さすらい人となったタランは、やがて、自分の真の姿をうつすといわれる、フルーネットの鏡にたどり着きます。

その鏡にうつる、タランの真の姿とは?

読み終わってビックリ!!
まるで自分自身が、タランと同じように試されているような気になってしまいました☆

「お前は何者なのか?」と。

自分の生まれた過去には、確かに血縁や、家、祖先たちの恩恵が働いています。でも、今、自分が自分であるのは、自分がこれまで生きて、出会って、体験して、人々と作ってきた関係があるからではないのでしょうか。過去を土台に、しっかりとその上に立ち、積み上げて来た自分という”今”。それはひとりひとり違っていて、だからこそ、自分が生きてきたことの証。

タランの周りには、多くの仲間がいます。
老預言者ダルベン。良き指導者コル。放浪クセのある王様、吟遊詩人のフルダー・フラム。妖精族の頑固者ドーリ。かた時もそばを離れない毛むくじゃらのガーギ。スモイト王に、ドン一族の王子ギディオン。そして、いつも明るく、けっしておしゃべりの途切れない元気な王女さま、エイロヌイ。

彼らはタランが高貴な血筋だから、彼が好きなのではありません。

彼が彼だから、みんなタランが大好きなのです☆

本の魅力は、自分が知っているのに思い出せない秘密を明らかにしてくれること。自分の中に、こんな感情や思いがあったと気付かされることもしばしば。その度に、自分の経験値が上がっていくようです☆

そうそう、今回忘れてならないのは、フルダー・フラムを乗せて活躍する見事な愛馬。
…いや、愛猫かな(笑)

巨大猫、リーアンの活躍にも、期待して下さい☆









ロイド・アリグザンダー  著
神宮 輝夫  訳
評論社


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