私的図書館

本好き人の365日

十二月の本棚 2 『銀の森のパット』

2008-12-30 23:58:00 | モンゴメリ

今回は、ルーシー・モード・モンゴメリの、

『銀の森のパット』

を紹介したいと思います☆

モンゴメリの作品で有名なのは、なんといっても『赤毛のアン』ですね♪

カナダにある、プリンス・エドワード島に住む、マシューとマリラの老兄妹のもとに引き取られた、にんじんみたいな赤い髪をした少女、アン・シャーリーの物語。

この『銀の森のパット』の舞台も、プリンス・エドワード島です。

物語の主人公は、七歳になるパトリシャ・ガーディナー(愛称パット)。

彼女が生まれた”銀の森屋敷”は、屋敷の裏の丘に大きな白樺の林があるため、その名が付きました。

想像してみて下さい…

冬の夜のすきとおった空気。
周りが黒い影におおわれた中で、
月の光に浮かび上がる、雪の結晶をまとって銀色に輝く白樺の林…

家族が暮す、この美しい”銀の森屋敷”を愛してやまないパット。

もちろん、そこで暮す家族も、犬や猫たちも、周りの木々や花や、草や墓地さえ、彼女が愛さないものは何ひとつありません。

パットは庭の木が切られただけで涙を流し、
叔母がお嫁に行ってこの家からいなくなると知って嘆き悲しみます。

彼女は小さいながらに、この愛すべき世界がずっとこのまま続けばいい…そう思っているのです。

でも、木々が成長するように、人もまた変わっていくもの。

「あの子は、人でも、ものでも、なみはずれて好きになるだ。それだけ喜びも大きいかわりに、胸を痛めることも多いのさ。」

一緒に暮らすジュディはパットのことをこう心配します。

食事を作り、洗濯をし、畑で働き、寝て起きる。

TVもパソコンもない。

繰り返される平凡な毎日。

世界をゆるがす事件も、陰謀も、殺人事件も起こりません。

それなのに、どうしてモンゴメリの作品はこんなに魅力的なんでしょう。

猫がたくさん登場します♪
主人と悲しみも喜びも分かち合う忠実な犬も登場します♪
高慢ちきないとことケンカしたり、裸で森で踊ったといって怒られたり、近所のイジワルなおばさんの悪口も言います。

パーティーに着るドレスで悩んでみたり、髪を短く切ったら似合うかしらと迷ったり。

夜の景色を見て感動したり、お腹が空いて卵のバター揚げにかじりついたり♪

親戚との付き合い。
素敵な出会い。
失望と落胆。

結婚。
新居。
新しい命の誕生。
死という別れ。

ここに書かれているのは、時代も場所も違いますが、人間の生活そのもの。

そして、人間の魅力そのもののような気がします。

”銀の森屋敷”を愛し、家族を愛し、木々を愛するパット。

その魅力がこの物語のひとつの読みどころなのは間違いありません。

でも、もうひとつの魅力が、パットが生まれるずっと以前から、ガーディナー家で働く、ジュディおばさん。

この人が、とっても魅力的♪

体の弱いパットの母親に代わり、台所を取り仕切り、子供たちにとってはよき理解者であるこのジュディは、アイルランド生まれでその昔はお城にも奉公にあがったことがあると語り、パットたちに妖精や幽霊の話をしてくれます☆

その上、うわさ話が大好きで、どの家で昔こんなことがあったとか、あそこのじいさんはこんな人だったとか、まるで土地の生き字引!

パットもジュディのゾクゾクするような怖い話を聞くのが大好きです♪

少し大きくなって恋愛にうつつを抜かすような年代にパットがなった時は、そうした熱がすぐに冷めるのを知っていて、自慢のパットがこの時期を見事に乗り切るかどうかを眺めていたりします☆

「これで二度目だて。もしパットが三度目も切り抜けられさえすれば…」

アイルランドなまりのジュディはパットが大好き。
パットが病気になった時は、献身的に看病しますが、決して甘やかすことはなく、時に好きにさせ、必要な時には抱きしめてやり、彼女が気が付くまで見守っています。

幼い頃は、兄のシドとどこへでも一緒に出かけていたパット。

しかし、兄はそのうち妹から離れ、近所に住むジングル(ヒラリー)という少年や、引越して来たベッツ(エリザベス)という少女とパットは友達になります。

ジングルは貧しく、遠くで暮す母親には一度も会ったことがありません。

ベッツは大変美しい少女ですが、体が弱く、時々、その瞳にこの世のものでないような美しい輝きが宿ることをジュディは心配します。

二人とも、パットと同じ世界、木々や草や花の美しさを感じることができ、パットの無二の親友となります。

建築に興味があり、パットに夢の家を建ててあげると約束するジングルがとっても健気♪

まだ9歳のパットに、せいいっぱいの自分の気持ちとして、勇気を出して

「大人になったら…ぼくのひとになってくれない」

と告白するジングル。

ところが、他の女の子と違って、「誰かのもの」なんて呼ばれることが大嫌いなパットは怒り出します!
「ぼくのこと嫌いなの?」と聞くジングルに

「もちろん、好きよ。でも、わたしは決して誰かの人なんてものにはならないの。」

と言い放つパット。

しかもしょげかえっているジングルを見てますます腹が立ってきたパットは、もっと残酷なことを言ってやりたくなって…

ジングルかわいそう(笑)

やがて、成長したパットに崇拝者が現れますが、彼女と同じ世界を見ることができるのは、やっぱりジングルだけ。

いつもそばにいてくれるジングルを、しかしパットは大切な友達としてしか見ようとしません。

この『銀の森のパット』では、7歳から18歳までのパットが語られます。

18歳からの物語は、『パットお嬢さん』という続編に描かれます。

自分の家の灯りを見て、ホッとするパットが好きです。

ジングルと共に木々や小川を見て、美しさに喜ぶパットが好きです。

夜のしじまが静かに降りてくる丘で、詩の言葉にベッツと二人、美しさに涙を流すパットが好きです。

寒さにこごえる子供たちを優しく迎え入れ、温かい飲み物を出してくれるジュディの台所が大好きです♪

冬の寒さも本格的になって来ましたね。

大晦日とお正月を前に、どこの家庭でも台所は大忙しなのではないでしょうか。

どんなに忙しくても、ジュディの台所ではいつも食べ物の甘い香りがただよい、お気に入りの猫たちに囲まれて、キラキラした瞳で椅子にちょこんと座ったパットが、今日一日あったことをおしゃべりしています。

あなたも、そんな銀の森屋敷の温かな台所で、ジュディの身も凍るような話に耳を傾けに来ませんか☆








ルーシー・モード・モンゴメリ  著
田中 とき子  訳
篠崎書林



最新の画像もっと見る

コメントを投稿