私的図書館

本好き人の365日

十一月の本棚 『あしながおじさん』

2006-11-21 01:42:00 | 家庭小説

人が喜んだり悲しんだり、驚いたり、感動したり、人を愛したりするのはなぜでしょう?

感じたり、考えたり、感謝したり、癇癪(かんしゃく)をおこしたり、生きるってとっても忙しい。

時には辛いこともあるけれど、想像力を働かせれば、立ち向うこともできる。
この本の主人公みたいに☆

 あしながおじ様

 ついにお返事をくださいませんでしたのね、とても重要な質問でしたのに!
 あなた様は禿げ頭でいらっしゃいますか?

今回は、とっても愉快で、とっても愛すべき作品♪

ジーン・ウェブスターの『あしながおじさん』をご紹介します☆

主人公のジュディ(本名はジルーシャ・アボット。ジョン・グリア孤児院のリペット院長が苗字は電話帳から、名前は墓石からつけた。本人は気に入っていない)は17才。

親の顔も知らず、孤児院で小さな子供たちの面倒を見る彼女は、その境遇にも関わらず、とっても明るく、前向きな少女。

少々批評家気味で、ついつい大胆なことも口にするけれど、どんなことからでも面白いことみつけることができるユーモアの持ち主。

そんな彼女がジョン・グリア孤児院のことを書いた、リペット院長に言わせると「無遠慮な作文」が一人の評議員の紳士の目に留り、そこから彼女の人生に思わぬ幸運が舞い降ります。

その紳士は、なんとジュデイを大学に通わせてくれるというのです!

しかもジュディに課せられた条件はたった一つ、毎月その紳士に手紙を書くというもの。

こうして、名前を明かさないその紳士のことを「あしながおじさん」と名づけたジュディは、憧れの大学生活での出来事を持ち前のユーモアにあふれた手紙として、まだ見ぬ「あしながおじさん」に送り続けるのでした。

とにかくジュディの書く手紙が面白くって、一緒になって笑ったり泣いたりしてしまいました♪

ただの食事や授業風景、体操の様子がジュディの手にかかるととっても楽しいことみたい!

孤児院で育ったジュディが出会う、初めての”外の世界”。

孤児院にいる時は、どんなに想像してそのドアの外側しか思い浮かべることのできなかった世界が目の前にある。

友達、学業、本、洋服。

学友の身に着けている絹のくつしたがどうしても欲しくて(ジュディは一度もはいたことがありません)、ついつい買ってしまったことをおじ様に告白するジュディが可笑しい♪

時にはまったく返事をくれないおじ様に腹立ちまぎれにひどいことを書いたり、病気になった時に送られたバラの花束に嬉しくて泣き伏したり、素直に感情を表すジュディ。

そんな彼女も自分が孤児院出身であることだけは誰にも言いません。

あくまで名前を明かさない「あしながおじさん」も、ジュディが夏休みに友達の別荘でその子のお兄さん達と一緒に過ごすのを邪魔してみたり(そうとしか思えない!)、ヨーロッパ旅行を強くすすめたり、カヌーの漕ぎ方を男の子から教わろうとするのも邪魔してみたり、なかなか怪しい!

そんなおじ様に反抗し、さっさと手紙が来る前に目的地に行ってしまうジュディも楽しい♪

携帯電話はないし、名前も伏せているので手紙でしかやりとりできないおじ様のまどろっこしさが伝わってきそう。

時々とる行動がなんだか子供っぽくてなんだか笑えます☆

大学に通わせてもらっているとはいえ、おじ様にただ甘えるだけでなく、援助してもらったお金もいつかは返すつもりのジュディ。

友達が値段を気にせずいくつも帽子を買う様子をつい手紙に書いてしまい、おじ様から帽子代にと、50ドルの小切手が送られて来ますが(この辺が子供っぽい!)、ジュディはそれを送り返します。

この小説は1912年に発表され、舞台もアメリカなので、私たちが知っている学園生活とはちょっと違いますが、そこで生きる少年少女、考えたり悩んだり、日常のちょっとしたことに喜んだり悲しんだりする様子は、時代を越えて共感できました☆

個人的にはジュディが読む本が「若草物語」だったり、「嵐が丘」だったり、「白鯨」だったりするのがお気に入りです♪

やがて大学を卒業するジュディ。
でも相変わらず「あしながおじさん」の正体はさっぱり(彼女には)わかりません。

そして、ある男性からの結婚の申し出。

そのことについても、正直に手紙に書いて、胸の内の悩みをおじ様に告白するジュディ。

そしてついに、おじ様から返事が来て、ジュディは「あしながおじさん」に会いに行きます!

果たして、「あしながおじさん」の正体は?

喜んだり悲しんだり、驚いたり、感動したり、人を愛したりと、ジュディの生活はとっても生き生きしています。

それはまさに生きているって証。

作者のジーン・ウェブスターの人柄が、このジュディという少女に命を与え、これほど長く人々に読まれる作品を創り出したんでしょうね。

作者自身は、結婚の翌年。長女を出産した二日後に40歳という若さで惜しまれつつも亡くなりました。
法律家の夫と二人でアヒルのヒナを卵から孵したり、ニューヨークの自宅で創作にいそしんだりと、短いとはいえ、幸福な結婚生活だったといいます。

ジュディと「あしながおじさん」の愉快な物語。

コタツに入りながら、秋の夜長にこんな素敵な物語はいかかでしょう?
きっと、心もあたためてくれると思いますよ♪



…もしかして、「あしながおじさん」って実はとってもヤキモチ焼きなのかも☆










ジーン・ウェブスター  著
松本 恵子  訳
新潮文庫