私的図書館

本好き人の365日

四月の本棚 2 『魔女の宅急便』

2004-04-26 22:05:00 | 日々の出来事
桜がキレイに咲いていますね。
先日はナデシコの花を買ってきました。
春らしくていいでしょ*(桜)*
庭に植えようと思って♪

誰に教えてもらうわけでもなく、春になると草が芽吹き、花が咲くって不思議ですね。
きっと草は草の中に、花は花の中に、そうした力がもともと眠っているのでしょう。

人間にだって、その人が「本来持っている力」というものがあります。
例えば、そう、SMAPの『世界に一つだけの花』で歌われているみたいに。
その人がその人であるための、もともと特別なその人だけの力(個性)。

さて今回は、そんな持って生まれた「魔女の血」によって、ほうきに乗って空を飛ぶことのできる女の子の物語。

魔女のキキと黒猫ジジが活躍する、角野栄子さんの『魔女の宅急便』の登場です☆

映画化のおかげで、ご存知の方も多いかと思います。
でも、原作本だって、負けず劣らず面白いんですから!

主人公のキキは、本物の魔女のお母さんと、妖精や魔女についての昔話や伝説を研究している民俗学者のお父さんとの間に生まれた女の子。
十歳の時、お母さんの跡を継いで魔女になることを決めたキキですが、上手にできるのは、ほうきに乗って空を飛ぶことだけ。

そんなキキにも、魔女のひとり立ちの時期がやってきます。
十三歳になった魔女の女の子は、自分の家を離れ、魔女のいない町を探して、たったひとりで暮らさなければならないのです。

ほうきの先に赤いラジオをぶらさげて、黒猫のジジといっしょにひとり立ちの旅に飛び立つキキ。

四月に入って、キキみたいに新しい生活を始めた人も多いのではありませんか?
新しい町。
新しい環境。
新しい人間関係。
希望に胸を膨らませながらも、ちょっぴり不安を抱えて迎える新生活。

魔女といってもキキだって普通の(空は飛べますけどね☆)十三歳の女の子。
海辺の町でグーチョキパン屋さんをやっているおソノさん夫婦に助けられ、空を飛ぶことをいかした宅急便の仕事を始めたキキも、様々なことで悩み、いじけ、イライラし、カラッと晴れたかと思うと、すぐまた落ち込む日々。

このキキの急上昇、急降下、くるくる旋回する感情の変化、表現が読んでいてとっても魅力的☆
本の世界は映画よりもメルヘンの香りが強めですが、それがより素直に人が成長する時にくぐり抜ける、大切な大切な「何か」を私達の心に届けてくれます。
ほんと、魔法の力が込められているかのように。

「魔女の宅急便は見えないものも運ぶの。人の願いや優しさを…」

魔女のもっとうは「もちつもたれつ」☆
お礼はほんの少しの”おすそわけ”

キキを取り巻く登場人物もとってもユニークです♪
まにあわせ屋のすみれさん。
何にでも腹まきをはかせてしまうぽんぽん船の船長のお母さん。
個人的には第二巻から登場する、ゴムのパチンコでキキを打ち落としたいたずらっ子のヤアくんや、第三巻でジジを助けてくれるキャベツばかり食べているノラオさんが大好き☆
あ、もちろん、絵描きのお姉さんや、トンボさんも登場しますよ。

「お正月」や「春の音」を運んだり、色々な人と出会ううちに、キキの心情もしだいに変化していきます。
そんな自分にとまどいながらも、愛すること、愛されること、大切な人たち、大切な「自分」に、傷つきながらも気が付いていくキキの姿がいたいたしくも共感を呼びます。

映画は映画として、本の中のキキの物語も、ぜひご覧になって下さい。
十三歳の旅立ちから始まった『魔女の宅急便』も、今は十七歳になったキキの物語『魔女の宅急便 その4』までが発売されています。(副題は「キキの恋」*(ハート3つ)*)
特にこの『~その4』は絶対お薦めです☆

それから第三巻から挿絵を描いてみえる佐竹美保さんの絵も必見ですよ。
生き生きと描かれたキキやジジの姿はまさにイメージ通りです♪



自分が 自分に 出会うとき

あなたにも いつかある

自分が 自分に 出会うとき

あなたにも きっとある





角野 栄子  著
福音館書店

四月の本棚 4 『風の谷のナウシカ』

2004-04-26 21:57:00 | 日々の出来事
いったい日本テレビは何回再放送したら気が済むんだ?

と、おもわず突っ込みたくなるほどTVで何度も放送されたこの作品。

アニメのことはまったく知らないうちの父親が、初めてビデオデッキを買った時に子供用に持ってきたのも実はこの作品でした。
会社の部下に命じてダビングさせたそうです。(職権乱用?)

今回は、そんな映画版ではなくて、その原作となった作品。
雑誌「アニメージュ」に1982年~1994年まで(途中何度も中断)連載された宮崎駿作、漫画版『風の谷のナウシカ』をご紹介します☆

漫画版があるって知っていました?
実は漫画家になるつもりだったという宮崎監督。
大学生の時には出版社に持ち込みをしたこともあるんだとか。
初の劇場用監督作品、「カリオストロの城」が興行的に失敗し、次の仕事が決まらず暇だったので描き始めたそうです。

この翌年に、映画化の話が動き出します。

当然、原作は映画とは大きくストーリーが違います。

「腐海」と呼ばれる有毒な瘴気に包まれた森が存在する遠い未来。
辺境の小国、「風の谷」の族長の娘として生まれたナウシカは、古い盟約に従い、大国トルメキアの第四皇女クシャナの戦列に、父の代わりにガンシップ(戦闘機のようなもの)の戦士として加わることとなります。
目的は、腐海を南下し、トルメキアが戦っている敵「土鬼(ドルク)」の後方を突くというもの。

マスクなしでは五分で肺が腐るという森、蟲たちが支配するこの「腐海」こそが『ナウシカ』の物語世界を決定づけています。

水も空気も土も、人間が毒に変えてしまった未来の世界で、木々や草花を愛し、動物を愛し、世界を愛するナウシカは、腐海の植物や蟲たちでさえ、この世界の一部として受け入れていきます。
それなのに、人間達は、こんな世界になっても戦いをやめようとはしません。

クシャナの命を狙う王族の罠。
骨肉の争い。
宗教に権力。
やがて土鬼(ドルク)軍は、封印されていた墓所の扉を開け、古の技を使ってトルメキア軍に攻勢をかけてきます。

不死の体を持つヒドラ。
火の七日間で世界を焼き尽くしたという巨神兵。
蟲を、そして腐海さえも兵器として使う土鬼(ドルク)軍。

死と悲しみが支配し、滅びゆく世界の中で、腐海の生まれた理由、この世界の生い立ちにせまっていくナウシカ。

戦争は人々の憎しみを産み、憎しみは新たな悲しみを広げ、そんなナウシカ達の思いさえ飲み込もうとします。

「だめだ、みんなとてもナウシカのようにはなれない」

戦いを止めることの出来ない土鬼(ドルク)の少女、ケチャの言葉が胸に迫ります。

「ナウシカにはなれずとも、同じ道はいける」

ナウシカの師であり、腐海の謎、この世界の謎を追い求めてきた剣士、ユパさまの死。

この場面は何度読んでも涙があふれます。

以前、憲法記念日の特集で、高校生の女の子がこんなことをTVで言っていました。

「世界中の人が、もう戦争なんてしたくないと思えば、その瞬間、この世界から戦争はなくなるんじゃないんですか」

ナウシカは言います。

「悲しみや悲劇やおろかさは、清浄な世界でもなくなりはしない。それは人間の一部だから…」

「だからこそ、苦界にあっても喜びやかがやきもまたあるのに」

「その人達はなぜ気づかなかったのだろう、清浄と汚濁こそ生命だということに」

理想や信念は、時として人を許す寛容さに欠けることがあります。
歴史や過去が、今を生きる人々を苦しめ、押しつぶす連鎖を、私達は断ち切らなければなりません。
それでも人は過ちを繰り返すでしょうが、その過ちを、繰り返し繰り返し乗り越えていくのです。

巨神兵を従え、ケチャの用意してくれた服に、クシャナのマントを羽織ったナウシカは、真実の扉を開けるために、土鬼(ドルク)の聖都、シュワにある墓所へと向かいます。

映画版とは全然違うストーリー展開ですが、不思議と気になりません。

戦闘場面が残酷で、ちょっとお子様向けではありません。
画風も変わっているので、普通のマンガに慣れている人には読みづらいかも。
女の子(?)もあまりかわいくないし、というかほとんど三人しか出ないので、サービスは悪いです。(何の?)

だけど、「漫画」としての魅力はいっぱい!
これだけは保証できます☆

ちなみに「ナウシカ」の名前の由来はギリシヤの叙事詩オデュッセイアに登場するパイアキアの王女様の名前からだそうです。
一応オデュッセイアも読みました。
トロイ戦争の後、苦労してオデュッセイアが故郷に帰るお話です。

何千年も昔から、戦争は多くの物語で語られ、多くの詩人の言葉によって伝えられてきました。
人はそこから何を学んだのでしょう?
ただやみくもに、「戦争反対」を叫ぶ前に、その行為自体が、争いの原因になってやしないか考えて欲しいです。

『ナウシカ』自体は、そんなに堅苦しく考えなくても、十分楽しめるマンガです。
どうぞ、映画を観て興味を持たれた方。
ジブリ作品の好きな方。
マンガの『ナウシカ』も、一見の価値ありですよ☆



宮崎 駿  著
徳間書店