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「壺石文」 中 11 (旧)八月十四日、十五日

(散歩道のアジサイ6)

午後、静岡から大学の先輩、O氏が趣味の自転車で来訪。久し振りに、お互いに近況を話す。どうも、古文書の話をこちらから話すことが多すぎたようであった。興味のない人に、そんな話を聞かせるのは苦行だったかもしれない。少し反省する。

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「壺石文 中」の解読を続ける。

十四日、音主が書ける塩竈ノ日記と云うものを見て、筆加えて返すとて、読みておくに書き付けける歌、

   たどり行く 道の隅々(くまぐま) くまも落ちず
        標結いてける 言の葉ぞこれ

※ くまも落ちず - すみずみまで欠けることなく。
※ 標結う(しめゆう)- 草などをむすんで目印をつける。


   この文(ふみ)を 見ればまだ見ぬ 塩釜の
        浦の煙
(けぶり)も 面影に立つ

夕かけて雨激し。稲村の真達に招かれて行く。真さきも来て、ともに歌詠み、物語す。夜になりて、いよ/\激しかりけり。

   折りこそあれ 君待つ宵の 雨づつみ
        空だのめせし 月の桂

※ 雨づつみ - 五月忌(さつきいみ)。陰暦五月を婚姻をさけるべき月とすること。
※ 空だのめ - あてにならないことに期待させること。から約束。
※ 月の桂(つきのかつら)- 古代中国の伝説で、月の中に生えているという カツラの木。


また題を出だして、浦ノ月というを探り得て、

   人知れず 忍ぶの浦の 月見れば
        三穂も清見も 面影に立つ

※ 忍ぶの浦(しのぶのうら)- 信夫の浦。陸奥信夫郡信達盆地にあったという浦。歌枕。
※ 三穂も清見も(みほもきよみも)- 三保の松原、清見寺と、いずれも駿河の景勝地。


宵過ぐる頃帰るに、いと甚(いと)う風吹き荒れて雨降る。

(十五日)今宵は十五夜なりければとて、笹ノ屋にて月の宴す。題を予(あらかじ)め定め置かれて、人々に詠ませける。朝ノ霧という事を、

   阿武隈の 霧にぞ見ゆる 明けぬとて
        疾く立ち出でし 人の後ろで


夜になりて、月の顔ほのかに見ゆ。いろ/\の御肴、調ぜさせて、主志(こころざ)し給う。盃のついでに、

   思いきや 露の玉散る 笹の屋の
        月の団居
(まどい)に 入りて見んとは

題を探りて、月前ノ書と云うを、

   窓に入れて 見ながら文(ふみ)に 明きらけき
        月の光を やさしとぞ想う


また月前ノ車、

   光ある 月の宮居を 誰ならん
        指して車の 音ぞ聞こゆる

※ 宮居(みやい)- 神が鎮座すること。また、その場所。神社。

宵過ぐる頃、人々上がれ罷る。我もつぼねに帰りて、独りつれづれと眺め居るに、やゝ更くるまゝに、雲晴れて、月影いと清し。
※ 上がれ罷る(あがれまかる)- 終って帰る。
※ つぼね(局)- 大きな建物の中を臨時に仕切ってつくった部屋。


読書:「奪還の日 刑事の挑戦・一之瀬拓真」堂場瞬一 著
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