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「壺石文」 中 30 (旧)九月十三日

(散歩道のカンナ)

ムサシの散歩道、先の大雨で流れが戻った大代川に、カジカカエルが鳴いていた。遠くにはウグイスの声も聞こえる。カワセミにも時々出会う。国一と新東名に挟まった日本の大動脈に近い当地であるが、だんだん野生の勢いが増してきたような気がする。日本の田舎では、人口減に伴い野生の逆襲が始まっているのかもしれない。

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「壺石文 中」の解読を続ける。

(十三日)、明るを遅しと待ち取りて立出づ。海沿いの松の林の中なる真砂路を行き/\て、渡ノ波(ワタノハ)という浦に出で、江を渡りて、岩井田という処より山路に入る。小笹、真柴のみ生しげりて、松、杉などはなくて、岩角こゞしき道なり。
※ 待ち取る(まちとる)- 待ち構える。
※ 渡ノ波(わたのは)- 現、宮城県石巻市渡波。
※ 岩井田(いわいだ)- 現、石巻市渡波祝田。
※ 真柴(ましば)- 柴の美称。
※ こごし -(岩が)ごつごつと重なって険しい。


行き交う人目も見えず寂しげなれど、みぎり(右)に、左に、前に、後(しりえ)に海を見下ろして、景色こよなし。いと甚(いと)高じぬれば、とある岩陰に憩いて煙(けぶ)り吹きつゝ、うつぶし臥して微睡(まどろ)みぬ。驚きて日影を見れば、時移りぬ。心慌ただしくなりぬ。急ぎて往ぬ
※ 人目(ひとめ)- 人の出入り。人の 往来。
※ 高じぬ(こうじぬ)- 程度がはなはだしくなる。
※ 驚く(おどろく)- 目がさめる。
※ 往ぬ(いぬ)- 去る。


往ぬるほどに、蛤濱より桃ノ浦と云う所に出でぬ。幼けなかりし時、宵団居の添い寝に、乳母(めのと)らが物語りける猿ヶ嶋の敵討ちとか云いし、古言に似通いたる処かなと、ふと思い出られてをかしかし。
※ 蛤濱(はまぐりはま)- 現、石巻市桃浦蛤浜。
※ 桃ノ浦(もものうら)- 現、石巻市桃浦。
※ 幼けなし(いわけなし)- 幼い。子供っぽい。あどけない。
※ 宵団居(よいまどい)- 夜の団らん。
※ 猿ヶ嶋の敵討ち(さるがしまのかたきうち)-「猿蟹合戦」の異伝。
※ 古言(ふること)- 昔話。


荻ノ濱小積濱と云うを経て、小網倉という濱に宿りぬ。海士(あま)ならんかし、辺り(ほとり)むくつけ(おのこ)入り来て、酒乞うめり。主の女(おむな)しわぶきを先に立てゝ、しぶ/\にすのこに降りて、汲み持て与うれば、かの男(おのこ)嬉しげに片笑みて、大なるかなまりに注(つ)ぎてかかのむ
※ 荻ノ濱(おぎのはま)- 現、石巻市荻浜。
※ 小積濱(こづみはま)- 現、石巻市小積浜。
※ 小網倉(こあみくら)という濱 - 現、石巻市小網倉浜。
※ むくつけ - 無骨 (ぶこつ) で荒々しいさま。
※ しわぶき - わざとせきをすること。せきばらい。
※ かなまり(金椀)- 金属製の椀 (わん) 。
※ かかのむ - ごくごくと音を立てて飲む。


読書:「希望荘」宮部みゆき 著
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