学恩

2020年06月17日 | 日記
博士課程の頃大変お世話になったT先生が、数年来の闘病の末、昨日お亡くなりになったとの報が届きました。
留学から帰って、次に進むべき道に迷っていた時、ふと手に取った『ケア論の射程』という論文集に収められたT先生の論文に触れ、これだ!とスイッチが入ったのがご縁の始まりでした。
T先生の研究室で1年間準備をして、音楽やドイツ文学とは畑違いの倫理学に進んだ私。T先生の研究室にはいつも数名の学生さんがいて、いろんな人が出入りして、楽しく勉強できる場所でした。哲学の下地がほぼゼロに等しい私を、博論の副査として、主査のO先生とともに温かく根気よく導いて下さいました。精力的に次々と論文を発表され、文理横断のエキサイティングな研究会をいくつも主宰され、その旺盛な研究意欲には圧倒されるばかりでした。「僕、学生を鍛えるのが好きなんだよ」と仰って、学生のために様々な哲学書の読書会を開催して下さって、そんな学びの機会がどれほど有難かったことか。
人生を愉しむ達人でもありました。どんなにお忙しくても、必ず夏休みには「海洋調査」(海釣り)に行かれましたし、連休には山登りにご一緒させて頂いたこともありました。沖縄に集中講義に行かれる時も、数人のゼミ生と一緒に連れて行って頂き、楽しい時間を過ごしました。句会にも誘って頂き、私の趣味に俳句が加わりました。
共著で『自然のスピリチュアリティ』という論文を書かせて頂いたこともありました。今年出版された『生と死をめぐるディスクール』に載せて頂いた学術エッセイは、その論文をベースにして加筆したものです。
30代も半ばを過ぎてからの学究生活は迷いと苦労の連続でしたが、今思えば何と豊かな時間だったことかと思います。師に恵まれることは、人生の最も大きな幸せの一つではないでしょうか。
仏教に造詣の深い先生でした。きっと従容と赴かれたことだろうと思います。
あの驚嘆すべき包容力、懐の深さに救われた日々を思うと、涙を抑えきれません。
心からの感謝とともにご冥福をお祈りします。

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