のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

GoGoモンスター/松本大洋

2006年06月19日 22時35分30秒 | 読書歴
■ストーリ
 小学生の立花雪は、見えぬものを見、聞こえない音を聞く少年。
 一年生の時から全く周囲に理解されず、友達もいない。
 彼は少子化で空き、立入禁止になっている学校の4階が
 「かれら」の居場所だという。用務員の老人ガンツが唯一の理解者だ。
 3年生の新学期、廃校になった近くの小学校から4人の転校生が来る。
 その中の一人鈴木誠が雪の隣になり、少しずつ心の交流を持つが
 邪悪なものに世界も自分も次第に侵されていくと感じている雪は・・・。

■感想 ☆☆☆☆☆
 深い。ものすごく深い。
 一度読んだぐらいでは理解できたとは到底思えない作品世界が
 目の前に繰り広げられる。詩的で幻想的で現実的な世界。
 読後に広がるこの想いが「幸福」なのか「寂しさ」なのか
 自分の気持ちすら掴めない不思議な感覚に襲われた。

 主人公・雪が見る「スーパースター」や「彼ら」は
 「穢れない子ども」の象徴なのか。
 それとも危うさ漂う「狂気」の世界の象徴なのか、
 それすら私には分からない。大きくなるにつれて、
 彼らを感じなくなってしまう雪は徐々に追い詰められていく。
 「脳味噌がカチカチに固まって、内蔵はぐずぐずに腐ってしまう」
 大人に自分もなっているのかもしれないと恐れる。

 追い詰められ、追い込まれた雪を誘い込む闇の世界。
 闇に取り込まれる雪に聞えるハーモニカの音。
 それは、雪にとってただひとりの同年代の友人、誠が
 彼のために吹くハーモニカの音。
 誠は「スーパースター」も「やつら」も信じていない。
 そういった話をする雪を薄気味悪く思っている。
 けれども、雪の純粋さ、穢れない部分に惹かれていく。
 それは「スーパースター」が見えてしまう雪。
 通俗的で大人が好む「いい子」の他の同級生たちとは
 一線を画す雪だ。誠には雪には見える世界は見えないけれど、
 本能で感じ取るのだ。
 彼が立っているところがどんなに危ういところなのか。

 誠のハーモニカの音に闇から抜け出すことができた雪は
 世界からメッセージを受け取る。

 「聞えるかい、ユキ。 今度は君の番だよ。
  咲く時間が来た。  そのときがきた。
  君の花が咲くよ。  その時が来たよ。」

 大人の世界の入り口に立つ雪はこれからどんどん
 こちらの世界になじんでいくだろう。
 きっと、彼は以前ほどの孤独を感じない。
 自分が異世界の人間のように感じることもない。
 けれど、彼はきっともう「大勢の友人」を感じることもない。

 私には分からない。私が読み終わった今、
 雪に対して抱いている感情が「寂しさ」なのか「安堵」なのか。
 けれど、私は雪も誠もIQもガンツも愛しいと思う。
 彼らのように不器用に生きていきたいと思う。


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