のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

前世(劇団 塾)

2007年05月21日 23時29分18秒 | 舞台(キャラメルボックス)
ひょんなことからお知り合いになれた「劇団 塾」の役者さんから
舞台のご案内をいただき、観劇してきました。
本当に申し訳ないことに全く聞いたことの無い劇団だったこともあって
多少侮っておりました。本当にごめんなさいっ!
キャラメルボックス以外にも大好きな劇団が増えました。
今後、この「劇団 塾」さんの舞台は
直接、ご案内いただかなくとも見に行きます。

そう決意するほど、面白く哀しく考えさせられる舞台でした。

■ストーリー
 主人公はある家庭の父親。
 仕事に忙しく、なかなか家族とコミュニケーションがとれないでいる。
 そんな父親と子供たちを持ち前の明るさでしっかりサポートする母親、
 お調子者で家庭の雰囲気を明るくする長男、
 そして、父親に対して冷たい態度を取る少し難しいお年頃の長女。
 父親はうまくいってない娘との関係を修復するため
 家族旅行を計画する。しかし、その旅行の最中、父親は娘をかばい
 交通事故でなくなってしまうのだった。
 天国で自分の家族との再会を果たす主人公は
 「生まれ変わりを希望しない限り、家族を上から見守り続ける
  ことができる」と知って、ひたすら家族と寄り添い、彼らを見守り続ける。
 しかし、突如、戦争が勃発して・・・。

■感想
 天国でのルールは以下の通り。
 ・死んだ後も家族を見守り続けることが出来る。
  但し、見守ること以外はできない。
 ・死んだ後は、自分の親族や家族とコンタクトを取ることができる。
 ・希望すれば生まれ変わることができる。
  但し、生まれ変わると、生前の記憶はすべて無くなる。
  生まれ変わりを選んだ者の家族も彼の記憶をすべて無くす。
 ・生まれ変わる時代や場所は自分で選択することはできない。

 主人公は家族と寄り添い、共にい続けることを選ぶ。
 その選択には納得がいく。いずれ家族もこちら(天国)に来るのだから。
 家族が天国に来れば、共に過ごし、会話を交わすことができるのだ。
 何より、家族を忘れたくない。家族に忘れられたくない。
 そう願う主人公の気持ちはよくわかる。

 しかし、突然起こった戦争が主人公の気持ちを変える。
 見守ることしかできない自分への絶望。
 助けられない自分への焦燥。
 見えてしまう以上、見ずにはいられない。
 家族から目をそらすことはできない。
 けれど苦しんでいる家族をどうすることもできない。
 ここにいる限り、家族を見守ることはできても
 未来永劫、彼らを救うことはできない。永久に。
 もちろん、生まれ変わったとしても、彼らを直接助けられるわけではない。
 家族の記憶すらないのだ。けれども家族を見殺しにするよりはいい。

 主人公の決意は悲壮だが、その一方で作者の「希望」でも
 あるのだと思う。こういった思いを抱えて生まれ変わってくる
 人間がいる限り、世界はぎりぎりのところできっと持ちこたえる。
 人類は平和を選択する。人は、恋人や家族をお互いに想い合い続ける。
 そして、作者の願いでもあるのだと思う。
 「前世」が存在するならば、「人が人を思う結果」であってほしい。

 ラストはいつか分からないが平和が再び戻ってきている時代の日本。
 主人公の生まれ変わりと思われる男性が自衛隊の制服姿で登場する。
 そこに野球の球を追いかけて、舞台に飛び出してくる少年。
 ボールを拾ってくれた男性に向かって、少年はひとりで居残り練習を
 していることを告げ、キャッチボールの相手をしてくれないか、頼む。
 男性は快諾し、少年に名前を尋ねる。
 少年が男性がかつて名乗っていた苗字を名乗るところで舞台は幕を閉じる。

 彼は願いどおり、愛する人たちの平和を、未来を守ることができているのだ。
 目に見える分かりやすい形で達成しているわけではないけれど。
 
 見終わった後、しみじみと余韻にひたることのできる幕切れだった。
 シリアスな内容だが、中盤まではどちらかというとコメディタッチだ。
 もちろん、家族の不和、主人公の事故死とシリアスな場面もあるが、
 コメディとシリアスの割合は7対3ぐらい。ひたすら笑い続けた。
 それが一転して重いテーマをつきつけられ、シリアスな展開のみが
 繰り広げられる。そのタイミングと割合が見事だった。
 どの役者さんの演技も好きだったが、特に主人公を演じた伏貫さんの
 迫力あふれる演技には圧倒された。
 福岡で劇団を運営し続けることは並大抵の努力では足りないと思う。
 けれども、是非、今後も上演し続けてほしい。
 次の舞台は8月。是非、また見に行きたい。