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のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

3月の読書

2010年04月01日 23時35分29秒 | 読書歴
今月は、前半の通勤時間を試験勉強に活用したため
読書おとなしめです。
おかげで本読みたいぞー!という気持ちが強まってきました。
久々に図書館行きました。
たくさんの本に囲まれて、思わず大興奮。
図書館に足を踏み入れるだけで、心が落ち着きます。

32.名前探しの放課後(上)(下)/辻村深月

   感想:☆☆☆☆
      大好きな辻村作品を見かけたため、妹のために
      借りました。前回、私が借りたときは、妹はまだ
      「凍りのくじら」も「ぼくのメジャースプーン」も
      読んでいなかったのです。
      この2作品を読んだ人にしかお勧めできない作品です。
      この2作品を読んだ人、そして、その内容をしっかり
      覚えている人しか楽しめない作品です。
      けれど、この2作品を読んだ人であれば、とてつもなく
      幸せな気持ちを味わえる作品だと思います。
      だから。
      本のタイトルは「続編」だと分かるようにしてあげた
      ほうが親切だなー、と思うのです。

34.プラスマイナスゼロ/若竹七海

   感想:☆☆*
      若竹さんの作品は2タイプに分けられます。
      ひとつは、明るくほのぼのとしたコージーミステリ。
      もうひとつは、人間のダークな部分を強調して
      書かれているハードボイルドサスペンス。
      この作品は、由緒正しいコージーミステリ。
      さらさらと読めます。
      ただ、私は若竹さんの人間に対する悪意に満ち溢れた
      作品のほうが好きです。・・・ゆがんでますけど。

35.わたしはだれ?/吉行和子、冨士真奈美、岸田今日子

   感想:☆☆☆☆
      魅力的に年を重ねている仲良し三人組のエッセイ集です。
      肩に力をいれず、無理せず、思うままに生きる3人の
      姿がかっこよく、こういうふうに年を重ねたい、と
      強く思いました。
      ちょっぴり苦手だった冨士さんも、そのおおらかさ
      明るさ、強さあふれる人柄が文章から垣間見え、
      大好きになりました。
      岸田さんが既にこの世にいないことが残念でなりません。
      年を重ねても、この3人のように遠慮なく、
      自分のペースを崩すことなく、そして、友人たちへの
      尊敬を失うことなく、友情を維持したい。そう思いました。

36.ぼんくら/宮部みゆき

   感想:☆☆☆☆
      時代劇の名手による人情もの、と思っていましたが、
      読み進めていくうちに、どんどん謎が明らかになっていきます。
      連作短編集1編目では、たいして謎と思っていなかった
      出来事が2編、3編と読み進めていくうちにつながり
      実は仕組まれた出来事だったことが見えてきます。
      伏線の張られ方のうまさに感服しました。
      
37.日暮らし(上)(下)/宮部みゆき

   感想:☆☆☆☆
      「ぼんくら」の続編。
      前作では「悪役」として描かれていた人が、視点を変えることで
      一転して、「悪い人」ではなくなります。
      読み終える頃には、まったく共感できなかったはずの登場人物に
      対して、この人も実はさびしい人だったのだ、と理解を示せる
      ようになっていました。
      一方からだけ、物事を見てはいけない。特に人間関係は。
      そう思いながら、本を置きました。

39.新釈 走れメロス 他四篇/森見登美彦

   感想:☆☆☆*
      かの有名な「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の
      満開の下」「百物語」をモチーフに、森見作品おなじみの
      腐れ大学生の友情や青春、生き様を描いた短編集。
      名作たちに臆することなく、そして、テーマからそれすぎる
      ことなく、ほどよく作品の色を変え、なおかつ、徹底的に
      自分色に染め上げているのは、森見さんならでは。
      腐れ大学生の腐れ具合は、極端にデフォルメされていますが
      その核となるものは、どこか共感できるものばかりで
      読んでいるうちにいとおしい気持ちになってきます。
      どの作品も、同じ世界の中の出来事。舞台は京都。
      時は大学の文化祭シーズン。「夜は短し歩けよ乙女」で
      書かれていたあの文化祭のサイドストーリーです。
      人が集えば集うほど、その人の数だけ、物語がある。
      森見作品を読んでいると、そういった感慨に襲われます。
      最初の頃は森見作品の腐れ大学生が苦手だったのですが
      いまやすっかりいとしい存在に。なんとなく中毒になります。

40.RURIKO/林真理子

   感想:☆☆☆☆
      林真理子さんの作品を初めて読みました。なぜか食指が
      動かなかったのです。どうもテレビでよく見かける
      「作家さん」の作品には、あまり手を出さない傾向にあるような。
      けれど、この「RURIKO」は、以前、誰かが
      絶賛していたのを聞いて以来、とても気になっていたのです。
      期待は裏切られませんでした。
      「芸能界」に生きる女優の裏話としても、
      「芸能界」で自分を貫く女性の生き方の指南としても
      とても面白い作品でした。
      単なる「添え物女優」「アイドル」だったルリ子がいつのまにか
      「女優」にやりがいを感じ、そして「女優」を天職と思い始めます。
      その変化をまぶしく感じながら読み進めました。

      また、この作品を通して、「昭和」という時代の熱気も
      肌で感じることができました。特に戦後、驚異的な復興を
      遂げる日本のエネルギーはすさまじかったのだ、と
      本を通してでさえ、感じることができました。
      その「昭和」を密度濃く過ごした「スター」たち。
      彼らの生き様を見ていると、私たちは今、多くのものを手に入れ
      便利な生活を送っているけれど、その一方で、失ったものの
      数も大きさも計り知れないな、と思うのです。
      彼らの熱気を肌で感じ、少しうらやましく感じてしまいました。

41.蛇を踏む/川上弘美

   感想:☆☆☆
      ざらざらとした違和感、不快感が襲ってくるような感覚。
      読みながら、鳥肌が立つような、生理的に不安を感じるような
      そんなむき出しの感情に教われました。
      蛇を踏んだヒロインのもとに現れる蛇の化身。
      その化身がヒロインを蛇の世界に招き入れようとする。
      その誘いに対し、「行きたいこともないかもしれない・・・」
      と迷うヒロイン。その迷いにも、ラクなほうへ流れようとする
      心の動きも共感できる気がしました。

42.父とムスメの往復書簡/松本幸四郎・松たか子

   感想:知性あふれる親子の往復書簡。松さんたちの芝居に向ける
      真摯な態度、親子間で繰り広げられる演劇論に鳥肌が
      経ちました。使われている言葉ひとつひとつが美しく
      品性や知性は言葉からにじみ出るものなのだとしみじみ。
      父親である松本さんも、娘の松さんも飾らず、驕らず
      正直に自分のことを晒していて、心から尊敬しました。
      この作品はできれば購入して手元においておきたい。
      それぐらい好きな作品でした。
   
43.あの子の考えることは変。/本谷有希子

   感想:☆☆☆☆
      ずっと気になっていた作家、本谷さんの作品を初めて
      手に取りました。
      予想通りの強烈なヒロインたちの予想以上に妄想が
      とまらない小説で、その世界観の特異さに魅せられ
      っぱなしでした。演劇畑の作家さんだからこその
      読みやすい言葉で描かれる「読み下しにくい」出来事の
      数々。その迫力がすさまじく、読み終えた後、しばらくは
      現実世界に戻ってくることができませんでした。
      特にクライマックスのスピードあふれる展開には、
      胸がざわざわしっぱなし。
      おっぱいしか自信がないヒロイン巡谷も、自分を臭いと
      思い込んでいるもうひとりのヒロイン、日田も
      どちらもおかしい。おかしいけれど、現実に存在していても
      ちっともおかしくない。そんな現実感がある。
      彼女たちの抱える孤独も性欲も、誰かと一緒にいたい
      と願う気持ちも、すべてデフォルメされているけれど、
      確かに私たちの中に存在しているもので、
      自分の中のブラックボックスから目を背けていないからこそ、
      この作品は、ざわざわと私の胸をかき乱したのだと思います。

44.地図のない島/井上靖

   感想:☆☆☆
      昭和32年の作品。井上靖さんというと、私にとっては
      「氷壁」で硬派な作品を書く人、というイメージが
      大きかったのですが、この作品は恋愛小説です。
      恋愛を主題に、人の孤独を描いています。
      さすが昭和32年・・・と感慨深く思う描写が
      いたるところに盛りだくさんで、日本はこの50年で
      恋愛や結婚に対しての考え方やそのスタイルが
      大きく変わったのだと実感できた小説でした。
      時代が異なるだけに「共感」は難しいけれど、
      彼女たちの考え方や行動はとても興味深いです。
      一箇所だけ、強く共感したところ。
      未亡人と一晩の過ちを犯した男性は、その一晩をきっかけに
      未亡人に恋愛感情を抱きます。しかし、未亡人は彼の
      恋愛感情を「愛ではなく、ただの執着だ」と言い切る場面。
      この場面に強い共感を覚えました。
      愛と執着は見極めが難しい。
      終わりかけだったり、うまくいっていなかったりする
      恋愛は特に。そして、執着は人を余計に孤独にさせるんだろうな。
      と、つれづれ思いました。

太陽の子/灰谷健次郎

2010年02月28日 01時15分41秒 | 読書歴
大好きな小説で、何度も読み返しているのに
クライマックスの印象が強すぎて
ラストの場面に関する記憶は、やや曖昧でした。

以下、今回、読み返して心に強く残った言葉。
改めて自分の記憶力に疑問を抱いたため、自分用のメモです。

・生きている人だけの世の中じゃないよ。
 生きている人の中に死んだ人もいっしょに生きているから、
 人間はやさしい気持ちを持つことができるのよ。

・人間いうたら自分ひとりのことしか考えてえへんときは不幸なもんや。

・かなしいことがあったら
 ひとをうらまないこと
 かなしいことがあったら
 しばらくひとりぼっちになること
 かなしいことがあったら
 ひっそり考えること


「太陽の子」はドラマ化、映画化されているそうです。
昭和53年にかかれたものなので、おそらくドラマもその頃で
再放送なんて望めるべくもないわけですが、
それでもぜひ見てみたい。再放送、強く強く希望です。

2月の読書

2010年02月25日 19時54分37秒 | 読書歴
ひたすら家で、というよりはベッドの中で過ごした2月。
ほとんどの時間を寝て過ごしていたわけですが
目が覚めたときは、本を読んでいました。
おかげで、今月の読書量は割りと多めです。
そして、外に出られない生活の中の読書のため
すべて、所有している本の再読です。

11.製造迷夢/若竹七海
   感想: ☆☆☆

12.依頼人は死んだ/若竹七海
   感想: ☆☆☆*

13.悪いうさぎ/若竹七海
   感想: ☆☆☆

   突如、若竹さんのダーティな世界を味わいたくなり、
   手に取りました。12、13は、女探偵「葉月晶」のシリーズ。
   ビターな味わいが更に強くなっています。
   人間に対する皮肉な目線と、それでも人間に関わりたがる
   女探偵の生き様は、ひねくれていて大好きです。味わい深いシリーズ。

14.1年1組先生あのね/鹿島和夫・灰谷健次郎
   感想: ☆☆☆☆

15.続1年1組先生あのね/鹿島和夫
   感想: ☆☆☆☆

   担任を受け持った1年1組の生徒に書かせている「あのね帳」。
   その「あのね帳」からの言葉の数々は、時に得も言われず詩的で
   時におなかをかかえて笑えるほど面白く、そして、時に
   子どもたちの感受性の鋭さが痛い。
   昭和53年から55年の小学1年生たちの言葉ですが
   時代を感じさせません。
   ただ、写真の子どもたちは「昭和」。写真を見ているだけで
   微笑ましく、ぬくい気持ちになります。

16.スロウハイツの神様(上)(下)/辻村深月
   感想: ☆☆☆☆☆

18.ぼくのメジャースプーン/辻村深月
   感想: ☆☆☆☆☆

19.凍りのくじら/辻村深月
   感想: ☆☆☆☆☆

20.子どもたちは夜と遊ぶ(上)(下)/辻村深月
   感想: ☆☆☆☆*

   文庫化された「スロウハイツ」を見かけ、即購入。
   すぐに読み返し、辻村作品の世界にどっぶり浸りました。
   そのまま辻村さんの世界から離れがたくなり、
   所有している辻村作品を順番に読み返すことに。
   張り巡らされている伏線は、その仕掛けが分かっていても
   何度読み返しても楽しめます。
   すべて好きな作品で、何度読んでも、幸せな気持ちになります。
   登場人物たちの幸せを一緒に喜びます。

   ただ、「子どもたちは夜と遊ぶ」のみ、読み返すたびに
  「何かが少し違っていれば、もっと素敵な結末があったはずなのに!」
   と思わされ、切ない気持ちにさせられます。

22.アンの青春/モンゴメリ
   感想: ☆☆☆*

23.アンの愛情/モンゴメリ
   感想: ☆☆☆*

24.炉辺荘のアン/モンゴメリ
   感想: ☆☆☆☆

25.赤毛のアン/モンゴメリ
   感想: ☆☆☆*

   いろいろと再読しているうちに、矢も盾もたまらずに
   再会したくなったのがアンでした。アンの夢見る表情
   なめらかな語り口、アボンリーの豊かな自然、
   そのどれもが私にとっても「懐かしく」「親愛なる」
   ものとなっています。
   アンシリーズの第7巻からはまだ購入していないのですが
   なんで買ってないんだろう!と後悔することしきり。
   すべて揃えなきゃ!

26.丘の家のジェーン/モンゴメリ
   感想: ☆☆☆☆

27.パット嬢さん/モンゴメリ
   感想: ☆☆☆☆

   モンゴメリの作品は「赤毛のアン」シリーズ以外も大好きです。
   どの作品の主人公も明るく清らかで、でも少しそそっかしくて
   人間も自然も大好き。生きること、生活することを楽しんで
   いて、一緒に過ごしていると、私まで姿勢を正されます。

28.一番初めにあった海/加納朋子
   感想: ☆☆☆

   久々に読み返した作品。今の私には少し甘すぎました。
   初めて読んだときは、泣くほど感動したのに。
   やはり、そのときそのときによって、抱く感想も
   異なるのだな、と思いました。

29.チルドレン/伊坂幸太郎
   感想: ☆☆☆☆☆

   伊坂作品の中で、もっとも読み返し率の高い作品。
   元気になりたいとき、爽快な気持ちを味わいたいときは
   まず間違いなく、手に取ります。
   主人公、陣内の傍迷惑で、自分勝手で、でも暖かくて
   微笑ましい生き様や言動は、何度読んでも元気になります。

30.天の瞳 少年編2/灰谷健次郎
   感想: ☆☆☆*

31.太陽の子/灰谷健次郎
   感想: ☆☆☆☆

   作品を通しての意見があまりにも極端で、好き嫌いが
   はっきり分かれる灰谷作品。私は好きです。
   灰谷作品の子どもたちは、押し付けがましくなく、
   「みんなと」「歴史と」共存していて、すがすがしい。
   自然に、真摯に生きることの難しさを突きつけられます。

1月の読書

2010年01月30日 23時01分41秒 | 読書歴
2010年の読書ライフは、2009年最後に読み始めた
宮部さんの作品とともに始まり、そのまま宮部さん祭りに突入しておりました。
ひたすら宮部さんの作品のみを読み返した1月前半。
宮部さんの作品はやはり好きです。ものすごく好きです。

1.パーフェクト・ブルー/宮部みゆき
■ストーリ
 高校野球界のスーパースターが全身にガソリンをかけられ、焼き殺された。
 俺、元警察犬のマサは、現在の飼い主であり、蓮見探偵事務所の調査員
 でもある加代ちゃんと共に落ちこぼれの少年、諸岡進也を探し当て、
 自宅に連れ帰る途中でその現場に遭遇したんだ。

■感想 ☆☆☆☆*
 宮部さんの長編デビュー作です。1989年の作品。
 ということは21年前の作品ですが、まったく古さを感じさせません。
 「犬の一人称」ということもあって、軽妙な語り口。
 けれど、そのテーマも事件の描写もどれも深刻で悲惨。
 結末もやや救いのない展開ですが、それでも暖かさ、やわらかさを
 失わないのが宮部さんのすごいところだと思うのです。

2.心とろかすような/宮部みゆき
■ストーリ
 パーフェクト・ブルーの続編。連作短編集。
 あの諸岡進也が、こともあろうに俺の糸ちゃんと朝帰りをやらかした!
 いつまでたっても帰らない二人が、あろうことかげっそりした表情で、
 怪しげなホテルから出てきたのである!
 お馴染み用心犬マサの目を通して描く五つの事件。

■感想 ☆☆☆*
 連作短編集ということもあって、前作より更に軽妙なタッチで
 軽く読める作品です。マサと加代ちゃん、糸ちゃんの関係も相変わらず
 暖かく、「家族」が押し付けがましく自然に描かれています。
 だからこそ、表題作「心とろかすような」の薄気味悪さ、後味の悪さは格別。

3.恋愛写真/市川たくじ
■ストーリ
 カメラマン志望の大学生、瀬川誠人(まこと)は、ひょんなきっかけで
 知り合った個性的で謎めいている同級生、里中静流(しずる)と知り合う。
 おくてだった誠人だが、彼女とは自然にうちとける。まことに思いを
 よせる静流。しかし、誠人には好きな人がいて、その思いを受け取れない。
 「恋をすると死んでしまう」という宿命を背負っていた静流は、
 それでも誠人に恋をしてしまい、そして姿を消した。

■感想 ☆☆☆☆
 あらすじだけを読むと、なんのこっちゃ・・・と思われるかもしれませんが。
 ファンタジーです。ファンタジーとして受け止め、その世界に入り込む
 ことができる人でなければ楽しめないのではないかと思います。
 入り込むことさえできれば、市川さんのこのファンタジックな世界観と
 その中で、不器用に生きる登場人物たちがいとしく思える作品です。
 恋をすると死んでしまう。その運命を受け止め、それでも人を好きになることを
 恐れないヒロインがとても魅力的です。自分の運命を知っていても
 好きにならずにはいられない人と出会えたヒロインが少し羨ましい。
 堤幸彦さんが監督を務めた映画「恋愛寫眞」の共作として
 書き下ろされた作品です。映画は確か広末涼子さん主演でした。
 映画のほうも見たいなぁ。
 
4.誰か/宮部みゆき
■ストーリ
 今多コンツェルンの広報室に勤める杉村三郎は、義父であり
 コンツェルンの会長でもある今多義親からある依頼を受けた。
 会長の専属運転手だった梶田信夫の娘たちが、亡くなった父についての本を
 書きたいらしいから、相談にのってほしいという。
 梶田は、石川町のマンション前で自転車に撥ねられて亡くなった。
 犯人はまだ捕まっていない。依頼を受けて、梶田の過去を辿りはじめた
 杉村が知った事実とは・・・。

■感想 ☆☆☆☆*
 亡くなった運転手さんの過去をたどる主人公。
 運転手さんが過去に遭遇した事件がつまびらやかにされるラスト。
 しかし、そこで安心していると、ラストのラストで、更に驚かされる。
 主人公を待ち受ける人間の闇が恐ろしい。
 宮部さんの作品は文章がとても暖かい。しかし、そこに描かれる
 登場人物全員が暖かく、優しいわけではない。理解できない人、
 共感できない人もきちんと描かれている。暖かくやわらかい文章だからこそ、
 人間のくらいところ、汚いところが、しっかりと見えるのだと思う。
 
5.名もなき毒/宮部みゆき
■ストーリ
 今多コンツェルンの広報室では、ひとりのアルバイトを雇った。
 しかし、編集経験があると自称して採用された原田いずみは、
 質の悪いトラブルメーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった
 杉村三郎は、極端なまでの経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。
 折しも、街では連続無差別毒殺事件が多くの注目を集めていた。

■感想 ☆☆☆☆*
 宮部作品によく出てくる「理解できない人間」「共感できない人間」に
 真正面から取り組んだ作品。「名もなき毒」を持った人間の心を
 しっかりと描いていて圧倒されます。
 宮部作品はその文章のあたたかさから受けるイメージが大きいのですが
 描かれている物語も登場人物も、「穏やか」とか「やさしさ」とか
 そんな言葉だけではあらわせないところが結構、多かったんだよね、
 ということを思い出しました。

6.火車/宮部みゆき
■ストーリ
 休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の
 行方を捜すことになった。自らの意思で失踪し、徹底的に足取りを消して
 いる彰子。なぜ彼女はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?
 いったい彼女は何者なのか?
 謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき、自己破産者の凄惨な
 人生に隠されていた。

■感想 ☆☆☆☆☆*
 何度読み返したか分からない大好きな作品。
 人生で生まれて初めて、「どうか、どうか犯人を助けてあげて」と
 心から思った作品。読み返すたびに、何がどうなって、彼女がこんな道を
 歩むことになったのか、誰が悪かったのか、どこが運命の分岐点だったのか、
 いろいろと考えるのですが、何度考えても、避けられようのない
 運命というものがあるのではないか、と思えます。
 「知識」というものの大切さ、「カード社会の恐ろしさ」を
 ひしひしと感じる作品です。

7.あやし/宮部みゆき
■ストーリ
 14歳の銀次は木綿問屋の「大黒屋」に奉公にあがることになる。
 やがて店の跡取りである藤一郎に縁談が起こり、話は順調に
 まとまりそうになるのだが、なんと女中のおはるのお腹に、
 藤一郎との子供がいることが判明する。おはるは、二度と
 藤一郎に近づかないようにと店を出される。しばらくして、銀次は
 藤一郎からおはるのところへ遣いを頼まれるのだが、
 おはるがいるはずの家で銀次が見たものは・・・。
 江戸を舞台とした怪談小説。

■感想 ☆☆☆
 舞台や時代をかえても、宮部作品の真髄は変わりません。
 「怪談小説」ではありますが、そこに描かれているのは人間の闇であり
 人間の怖さです。いるかいないかわからない「おばけ」よりも
 誰もが必ず抱えている「闇」のほうが数倍恐ろしい。そう思える作品です。

8.レベル7/宮部みゆき
■ストーリ
 レベル7まで行ったら戻れない。
 謎の言葉を残して失踪した女子高生。記憶を全て失って目覚めた若い男女。
 かれらの腕に浮かび上がる「Level7」の文字。
 少女の行方を探すカウンセラーと自分たちが何者なのかを調べる二人。
 二つの追跡行はやがて交錯し、思いもかけない凶悪な殺人事件へと導かれる。
 緊迫の四日間を描く長編小説。

■感想 ☆☆☆☆*
 初めて読んだ宮部作品。一気に物語にひきつけられ、のめりこみました。
 この作品をはじめて読んだときのドキドキと、結末を早く知りたい
 とやきもきしたあの感覚は今も忘れられません。出会えて本当によかった。
 何度も読み返しているため、作品のあらすじをほとんど覚えており
 初めて読んだころのあのドキドキはもう味わえませんが
 それでも何度読み返しても、あらすじも結末を知っていても
 それでも面白いと思える作品です。
 「推理小説」という枠組みを超えて好きな作品。

9.加茂川ホルモー/万城目学
■ストーリ
 このごろ都にはやるもの。勧誘、貧乏、一目ぼれ。
 葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚に腹を空かせた新入生が
 ノコノコと誘われ、出向いた先で見たものは、世にも華麗な女(鼻)でした。
 このごろ都にはやるもの。協定、合戦、片思い。
 祇園祭の宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。
 「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。戦いのときは訪れて、
 大路小路にときの声。恋に、戦に、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、
 魑魅魍魎は跋扈する。京都の街に巻き起こる疾風怒涛の狂乱絵巻。

■感想 ☆☆☆*
 なんでこんな作品を生み出せるのだろう、と読みながら感嘆しました。
 作者の想像力と発想力を心から尊敬した作品。
 青春小説らしく、「恋愛」と「自意識」に悩む主人公をしっかりと
 描いていますが、「青春小説」などといったカテゴリをすっかり
 忘れさせてくれます。作者の構築する作品世界にすっかり入り込んで
 しまいました。すごい、の一言。彼の想像力に圧倒されました。
 この作品、映画化されています。ぜひ、映画も見てみたいです。

10.フィッシュ・ストーリー/伊坂幸太郎
■ストーリ
 届けよ、誰かに。頼むから。
 売れないロックバンドが最後のレコーディングで叫んだ声が
 時空を越えて奇蹟を起こす。

■感想 ☆☆☆☆☆
 帯文句「届けよ、誰かに。頼むから。」という言葉にひかれて
 購入した作品。もっとも伊坂作品なので、いずれは購入していたと思うのです。
 それでも、この帯文句に期待は更に高まりました。
 その期待がまったく裏切られなかった作品。中短編4編をおさめた作品集
 ですが、やはりなんといっても表題作。
 現在、過去、未来を自由自在に行き来する場面設定。その時代時代で
 起こった出来事が徐々に徐々につながり、そして最後に大きな奇跡へと
 つながる。その過程と結末で、なんともいえない大きな幸せを味わえます。
 どこかで誰かが誰かに影響している。そんな当たり前のことに
 はっきりと気付ける作品。
 この作品だけでもいいからぜひ多くの人に読んでほしい。
 ・・・でも、ほかの作品もお勧めです。面白いです。

12月の読書

2009年12月31日 23時19分19秒 | 読書歴
118.ホワイト・クロウ「インディゴの夜 シリーズ3」/加藤実秋
■ストーリ
 スタイリッシュで、個性的なホストが集うクラブ「インディゴ」は
 オープン三年目を迎え、リニューアルを決定。ツテで有名インテリア
 デザイナーに内装を依頼した。改装工事の間、店は仮店舗で営業する
 ことになる。そんなバタバタの中、ホスト達はそれぞれトラブルに
 見舞われて。
■感想 ☆☆☆*
 シリーズ三作目になり、ジョン太、アレックス、犬マンなどの
 今までは「脇役」だったホストたちにもしっかりとスポットライトが
 あたり、ますます親近感を持てるシリーズになってきました。
 連作短編集の醍醐味で、それぞれ1編ずつは、ホストたちが
 プライベートで巻き込まれた事件とそのの顛末を描き、それぞれの
 伏線が、ラストの1編で「インディゴ」リニューアルに絡む騒動として
 見事につながります。こういう「短編集だけど、全体的に見ると
 長編」というつくりは、お得な気持ちになるので大好きです。

119.大きな熊が来る前にお休み/島本理生
■ストーリ
 徹平と暮らし始めて、もうすぐ半年になる。だけど今が手放しで幸せ、
 という気分ではあまりなくて、むしろ転覆するかも知れない船に乗って
 岸から離れようとしている。そんな気持ちがまとわりついていた。
 新しい恋を始めた3人の女性を主人公に、人を好きになること、
 誰かと暮らすことの危うさと幸福感を描く。

■感想 ☆☆☆☆
 島本さんの文章が好きです。島本さんの描く「真面目なオンナノコ」
 が好きです。不器用で、他人を信じたり甘えたりすることが苦手な
 オンナノコたち。読んでいて、ちょっぴり痛々しいけれど、
 ほほえましい気持ちにもなります。でも、痛々しいほうが大きい
 かもしれない。文章がさらりとしているので、非常に読みやすいです。
 ただ、読み終わった後に、さらりと忘れてしまう危うさもあります。
 疲れたときに、つい手にとってしまうのは、このさらりとした
 読み心地故かもしれません。
 
120.向田邦子 暮らしの楽しみ
■内容
 脚本家、エッセイスト、小説家として活躍する一方、暮らしを
 愉しむのが上手だった向田邦子さん。手軽でおいしい手料理、
 食いしん坊ならではの器えらび、終の住処での暮しぶり、
 行きつけの店、旅。そのライフスタイルには「自分らしく生きる
 とはどういうことか」を知るヒントがたくさん詰まっています。

■感想 ☆☆☆☆
 テーマが好みだった場合のどんぴしゃり率がずばぬけて高い
 「とんぼブック」です。写真がたくさん、でも文章もたくさんで
 お得な気持ちになるムック本です。ただ、お値段が少々高いのです。
 ま、写真の多さやカラー写真の質感などを考えると当然というか
 むしろ、少々お得なのかも、という値段ではありますが。
 向田さんの美人振りが際立つ写真ばかり。そして、彼女の
 センスの高さに感服しっぱなしの一冊です。つくづくかっこいい。

121.ささらさや/加納朋子
■ストーリ
 事故で夫を失ったサヤは赤ん坊のユウ坊と佐佐良の街へ移住する。
 そこで次々に起こる不思議な事件。けれど、その度に亡き夫が
 他人の姿を借りて助けに来るのだ。そんなサヤに、義姉がユウ坊を
 養子にしたいと圧力をかけてくる。
 ゴーストの夫とサヤが永遠の別れを迎えるまでの愛しく切ない日々を
 描く連作ミステリ小説。

■感想 ☆☆☆☆*
 疲れているとき、優しい気持ちになりたいときにお勧めの一冊。
 文庫本の表紙イラストも優しい一冊です。
 男性にはあまりお勧めしません。でもたういていの「オンナノコ」は
 この世界、大好きだと思うのです。

122.てるてるあした/加納朋子
■ストーリ
 親の夜逃げのために高校進学を諦めた照代。そんな彼女の元に
 差出人不明のメールが届き、女の子の幽霊が現れる。
 不思議な街「佐々良」で暮らし始めた照代の日々を、
 彼女を取り巻く人々との触れ合いと季節の移り変わりを通じて
 鮮明に描いた癒しと再生の物語。

■感想 ☆☆☆☆☆
 「ささらさや」の続編。とは言うものの、「ささらさや」のヒロイン
 さやは、今回、脇役に回ります。変わって、ヒロインを務めるのは
 素直で人を疑うことを知らなかったお人よしのさやと正反対、
 ひねくれ者で、憎まれ口ばかりたたいているてるよです。
 そんな彼女が「佐々良」町の人々に見守られ、少しずつ少しずつ
 変わっていく様子に胸がぎゅっと熱くなりました。
 何度読み返しても、毎回毎回、目頭が熱くなります。
 ヒロインとしてはさやのほうが好きですが、お話としては断然、
 こちらのほうに胸を打たれます。

123.春になったら苺を摘みに/梨木香歩
■内容
 「理解はできないが、受け容れる」それがウェスト夫人の生き方
 だった。「私」が学生時代を過ごした英国の下宿には、女主人
 ウェスト夫人と、さまざまな人種や考え方の住人たちが暮らしていた。
 ウェスト夫人の強靭な博愛精神と、時代に左右されない生き方に触れて
 「私」は日常を深く生き抜くことを、さらに自分に問い続ける。

■感想 ☆☆☆☆
 梨木さんの作品が好きです。梨木さんの選ぶ言葉が好き。
 でも、それだけでなく、梨木さんの考え方、生き様、人との関わり方
 それらが好きだと気付いた一冊。彼女のシンプルな生き方、
 ぶれのないスタンスに憧れを覚えました。

124.三谷幸喜のありふれた生活
125.大河な日々-三谷幸喜のありふれた生活3-
■内容
 女優の妻、2匹の猫と愛犬とびとの生活、締め切り破りの日々、
 松たか子など仕事で出会う様々な人たち。人気脚本家の慎ましやか
 だがエキサイティングな日々を綴った朝日新聞で人気のエッセイ。

■感想 ☆☆☆☆☆
 三谷さん大好きです。三谷さんの脚本も映画も好きですが
 何より好きなのは、三谷さんの人柄がダイレクトに伝わってくる
 エッセイです。人見知りでひきこもりなのに、なぜか表に
 出ることになる、むしろ進んで表に出てしまう使命感に燃えている
 三谷さんの呟きが大好きです。
 何より、三谷さんの文章から垣間見える奥さんや家族の猫たちへの
 暖かいまなざしが大好きなのです。

126.ピーコとサワコ
■内容
 「テレビのウラ話をめぐるホンネで爆発!」
 「テレビタレントをめぐる寄らば斬るゾ」
 「ファッション・チェックをめぐる卑しさと品格」
 口から生まれた阿川佐和子さんとピーコさんが丁丁発止とわたり合う
 対談集。

■感想 ☆☆☆*
 つくづくサワコさん、大好きです。サワコさんの聞き上手な部分が
 存分に発揮されている対談集です。私もこういうふうに人の話を
 聴ける人にならねば・・・という気持ちにさせられました。
 語り口がさばさばしているので、爽快な気持ちを味わえます。

127.僕は悪党になりたい/笹生陽子
■ストーリ
 僕の名前は兎丸エイジ、17歳。父親は不在だが、奔放な母親と
 腕白な異父弟・ヒロトと3人で平凡な生活を送ってる。
 毎日炊事、洗濯、ゴミ捨てと家事全般をこなす高校生が「平凡」か
 どうかは我ながら疑問なんだけど。
 ある日、弟のヒロトが病気で倒れ、僕の「平凡」な日常が少しずつ
 崩れ始める。

■感想 ☆☆☆
 小心者で事なかれ主義のイマドキ高校生が、「日常」を打ち破り
 「非日常」へ一歩踏み出す過程が無理なく描かれていて、
 「ありそうだなぁ」と素直に思えました。
 思春期にありがちな勘違いや「失敗したくない」「うまくやりたい」
 というイマドキの若者らしい気負いに、数年前の自分を思い出して
 いたたまれない気持ちにもなりました。

128.今夜も宇宙の片隅で/笹生 陽子
■ストーリ
 「ネットにアクセスしてる時って、無限の宇宙空間にほうりだされた
 小さな星になっている気がしない?」ぼくたちはつながっている。
 ちょっぴりの勇気があれば、いつだって誰とだってつながれる。

■感想 ☆☆☆*
 爽快な青春小説。
 話の筋だけを追うと、平凡・善良な男子中学生が興味とノリでヤバい
 クスリを買おうとしたら、その売人が過去の悪い同級生で・・・と
 まったく「爽快な」青春小説にたどり着かなさそうですが。
 そして、予想通り、ストーリーは青春小説の王道からは外れたまま
 終わりを迎えるわけですが。
 それでも、読み終わった後に爽快な気持ちを味わえます。
 「ま、いっか。」「なんとかなるさ。」そんな明るい気持ちになります。
 トモダチっていいな、と心から思える小説。

129.少女七竈と七人の可愛そうな大人/桜庭一樹
■ストーリ
 わたし、川村七竈(ななかまど)十七歳はたいへん遺憾ながら、
 美しく生まれてしまった。鉄道を愛し、孤高に生きる七竈。
 淫乱な母は、すぐに新しい恋におちて旅に出る。
 親友の雪風との静かで完成された世界。
 だが可愛そうな大人たちの騒ぎがだんだんと七竈を巻き込んでいく。

■感想 ☆☆☆☆
 痛い痛い辛い、そして熱い恋愛小説でした。
 読み終えた後、この世界観に呆然としました。今も思い返すだけで
 胸が痛い。美しい言葉で紡がれた世界と、できあがった世界観に
 圧倒されます。
 何がどう変わっていたら、彼らは幸せに向かい合えたのだろう。
 考えても仕方がないやるせない疑問が、読み終わった後に
 ぐるぐると胸を渦巻いていました。

130.モダンタイムズ/伊坂幸太郎
■ストーリ
 「実家に忘れてきました。」「何を?」「勇気を。」
 渡辺拓海は、多忙を極めるシステムエンジニア。ある日、課長から
 失踪した社員にかわってプロジェクトを継続実行するよう命じられる。
 その日から彼の周りで奇妙な事件が続く。先輩社員の失踪、同僚の
 誤認逮捕、上司の自殺、不倫相手の失踪。
 それらは、パソコンである言葉を検索した者に降りかかるようなのだ。
 この謎を解くべく、渡辺と同僚、そして彼の妻や、失踪していた
 先輩社員も加わって、一大冒険活劇が繰り広げられる。

■感想 ☆☆☆☆
 誕生日プレゼントにいただいた本。ハードカバーなので休みに
 じっくりと、と手を伸ばすのをためらっていたのですが、予想通り。
 読み始めたら手放せなくなりました。
 さすがさすがの伊坂ワールドです。圧倒。先が気になって、気になって
 物語から離れられず、この本を常に持ち歩いていた一週間。
 「魔王」「ゴールデンスランバー」に続く第三弾。
 「個人情報保護法」なるものができて、情報に過敏になっている現代で、
 本当に起こるかもしれないストーリー。
 「個人では太刀打ちできそうもない」事件に巻き込まれた
 ごくごく平凡な主人公たちが、置き忘れた勇気を取り戻し、
 底力を出す様に手に汗握りながら、読みました。
 ・・・が、それだけに、結末はほんの少し拍子抜けなのです。
 そうだよね、と主人公に共感はするのです。でも、
 「小説だからこそ!もっと他の結末が・・・」とも思ってしまうのです。

131.ピンクのバレエシューズ/L・ヒル
132.バレリーナの小さな恋/L・ヒル
■ストーリ
 イレーヌは、バレリーナになることを夢見てレッスンに励む少女。
 両親が亡くなり、住みなれた街パリと別れ、いなかに住むおじさん
 一家のもとにあずけられます。それでも夢をあきらめず、
 たったひとりでレッスンを続けていた彼女は、チャンスを掴み
 憧れのパリ・オペラ座のバレエ学校に入学します。
 ライバルたちがひしめくなか、異例の早さでバレエ団の正団員と
 なったイレーヌは・・・。

■感想 ☆☆☆☆☆
 バレエものは、漫画も小説も大好きです。しかし、小説はそんなに
 多くはなく、結果として、このお話を定期的に読み返しています。
 夢に向かって頑張っているイレーヌのまっすぐな姿が爽快。
 「ハッピーまりちゃん」も読み返すかな。
 
133.さよなら妖精/米澤穂信
■ストーリ
 1991年4月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、
 謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの
 街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。
 そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。

■感想 ☆☆☆☆
 「哲学的意味がありますか?」
 マーヤの異文化をありのまま、理解しようとする姿勢。そして
 学んだ異文化から自分たちの国を作り上げようとする未来を信じる瞳。
 その何もかもが眩しいからこそ、ラストがやるせない小説です。
 しとしとと振り続ける雨、雨にぬれる紫陽花。
 そのしっとりとした雰囲気が読後に静かな余韻を与えてくれます。
 読み終わった後、世界中の未来を信じたくなる、そんな物語。

134.1ポンドのかなしみ/石田衣良
■ストーリ
 数百キロ離れて暮らすカップル。久しぶりに再会したふたりは、
 お互いの存在を確かめ合うように幸せな時間を過ごす。しかし、
 その後には、胸の奥をえぐり取られるような悲しみが待っていた。
 16歳の年の差に悩む夫婦、禁断の恋に揺れる女性、自分が幸せに
 なれないウエディングプランナー。迷い、傷つきながらも恋をする
 女性たちを描いた10のショートストーリー。

■感想 ☆☆☆*
 クリスマス、石田さんを敬遠していた私に、石田ファンの友人が
 贈ってくれました。
 色とりどりのキャンディのようなキュートなお話ばかり。
 ハッピーエンドの恋愛小説が10編。読み終えて幸せな気持ちに
 なりました。短編小説特有の物足りなさとは無縁。
 
135.4TEEN/石田衣良
■ストーリ
 東京湾に浮かぶ月島。ぼくらは今日も自転車で、風よりも早く
 この街を駆け抜ける。ナオト、ダイ、ジュン、テツロー、中学2年の
 同級生4人組。それぞれ悩みはあるけれど、一緒ならどこまでも行ける。
 もしかしたら空だって飛べるかもしれない。

■感想 ☆☆☆*
 ありがちな青春モノ。それなのに、読み進めていくうちに、
 主人公4人組への親近感はどんどん大きくなります。
 弟たちを見守っているような気持ちになります。
 「読んだ後に思い返すとね、思っていた以上に、彼らのことが
  好きなんだよね。」と伝えてくれた友人の言葉に心から共感。
 男の子たちの友情って、なんだかいいな。


どうしても今年中に今年の本の感想をまとめたかったのです。
ようやく終えました。ええ、自己満足です。
今年もたくさんの本を読みました。
1年の終わり、そして1年の始まりは宮部さんと迎えています。
来年も読書生活を楽しみます。

さびしい王様シリーズ/北杜夫

2009年11月14日 22時52分15秒 | 読書歴
101.さびしい王様
102.さびしい乞食
103.さびしい姫君

■ストーリ
 役にも立たない帝王学だけ教え込まれて育ち、恋も政治も知らぬ
 幼児のような王様ストンコロリーン28世。オッパイを見ては、
 「あ、オレンジ!」などと呟いていた奥手の青年だ。
 そんな王様が、私腹を肥やす悪辣な総理大臣への反感からおこった
 革命の渦中で、すこしずつ人間の喜怒哀楽に目ざめ、純真な恋を
 全うするお話。ナンセンスユーモアに溢れたおとなとこどものための
 童話シリーズ。

■感想 ☆☆☆☆*
 本を読んでいる間は、何も考えずに本の世界に入り込んでしまう方だ。
 だから、私にとって、読書感想を書くことは、読んでいる間は
 漠然と感じていた気持ちを言葉で捉えることで、何を楽しいと
 思っていたのか、誰に共感していたのかを再認識する行為なのだと思う。
 書くために考える。言葉を捉えようと、自分自身と向かい合う。
 その行為が私に安心感を与えるから、私は読書感想文を
 書きたくなるのだろう。

 この「大人から子供までの童話」シリーズは読み終わった後、
 「あぁ!面白かった!!」とにこにこしながら本を閉じた。
 にも関わらず、その面白さ、楽しさを言葉で捉えるのが難しい。
 そんな作品だ。

 主人公は、穏やかで優しくて、疑うということを知らない王様だ。
 よくも悪くも、マイペースな彼は、小さいころからの
 環境のせいで世間知らずに育ち、その世間知らずさ故に
 押し寄せる苦労を飄々と受け止め、乗り越えていく。
 いつだって一生懸命だけれど、一生懸命になればなるほど、
 少しずつ、常識からずれてしまうちょっぴり滑稽な、
 でも見ているこちらが優しい気持ちになれる主人公だ。

 だからだろう。
 王様は次から次に苦難に巻き込まれるが
 巻き込まれた先々で、誰かが助けの手をさしのばしてくれる。
 出会った人たちが少しずつ優しさを発揮する。
 人は、自分のことを無条件に信じてくれる人を
 なかなか裏切ることはできない。
 優しい気持ちになって、助けてあげなくては、と思えてくる。
 この本を読んでいると、そういったことを素直に信じたくなる。
 そういった意味でも、この作品はまさしく「現代の童話」なのだと思う。

 王様は富も地位も名誉も求めない。
 王様がほしいと願うものは、
 「子供ができない」という理由で離婚させられた姫君と
 ローラと母親代わりの乳母と腹八分程度の食事。
 できれば、大好きなオレンジがごくたまに食べられるとなおうれしい。
 そんな慎ましやかな願いをシンプルに願い続ける王様は
 多くの苦難を乗り越えて、ほんの少し大人になり、
 なんとかかんとかハッピーエンドにたどり着く。
 そのえっちらおっちらとした足取りがとても愛しい。

 そして、その愛らしさが現在、NHKで放映されている
 人形劇「新三銃士」の雰囲気を思い出させる。
 どの登場人物もあの懐かしさを感じさせる木製の
 手触りやキュートな外観にぴったりと合うと思うのだ。
 長い作品だけれど、ぜひこの作品も人形劇で見てみたい。

少年少女飛行倶楽部/加納朋子

2009年11月07日 12時01分33秒 | 読書歴
100.少年少女飛行倶楽部/加納朋子

■ストーリ
 私たちは空が飛べる。きっと飛べる。かならず飛べる。
 中学1年生の海月は幼馴染の樹絵里に誘われて「飛行クラブ」
 に入部する。クラブのメンバーは2年生の変人部長・神
 (通称カミサマ)をはじめに癖あり、ワケありの部員ばかり。
 果たして、彼らは空に舞い上がれるのか。

■感想 ☆☆☆☆
 爽やかでちょっぴり甘酸っぱい読後感を味わえる青春小説。
 両親に愛され、まっすぐに健やかに育った海月だからこそ、
 この爽やかな読後感になるのだろう。
 彼女のキャラクターがとにかく魅力的。
 気が強く、部長だろうが年上だろうが、言うべきところは
 言うまっすぐさ。
 なんだかんだと文句を言いつつ、困っている人を見過ごせない温かさ。
 ちょっぴり苦手だと感じている人に対しても、自分の感情は別にして
 分け隔てなく接することができる公平さ。
 頼まれたことはしっかりとやり遂げる責任感の強さ。

 そんな海月だからこそ、クラブのメンバが信頼感を抱き
 ついつい甘えてしまったり頼ったりしてしまう描写に説得力があった。

 お互いがお互いを刺激し、海月もメンバも少しずつ成長していく。
 少しずつ素直に自分の感情と向き合えるようになっていく。
 その過程は本当にオーソドックスな「青春小説」で新鮮味はない。
 けれど、そういったことがまったく気にならない。
 「ありきたり」と思わせないのは、ひとりひとりのキャラクターが
 とても魅力的だから。そして、それぞれが抱えている孤独感や
 焦燥感に無理なく共感できるからだと思う。
 そして、そういった癖あるメンバたちを「困ったさん」だと
 思わせながらも「愛すべきキャラクター」に仕上げられるのが
 加納さんの加納さんたるところなんだよね、と憧れる。

 そして、飛行クラブのメンバではないけれど、忘れてはならないのが
 海月の母親。主要キャラクターではない。
 それなのに、彼女のおおらかさ、ポジティブなものの見方、
 人生の楽しみ方がこの作品のテイストを見事に表している。

 「男の子が欲しかった?女の子が欲しかった?」
 という海月の問いに対する
 「海月が欲しかった。」
 という彼女(とその夫、つまり海月の父親)の答えは、
 とても素敵なエピソードで、私もこんなふうに自分の子供と
 会話ができたらいいな、こういうふうに余裕をもって大きな
 愛情を注いであげられる母親になりたいな、と思った。

 こういった人との関わり方、まっすぐさが作品のあちこちに
 満ち溢れていて、爽やかな読後感に結び付くのだと思う。
 あまり難しく考えずに読んでほしいし、さらさらと読める作品。
 読んでいると、作品の中のクラブメンバーといつのまにか、
 仲良くなれる。まるで、自分の友達のように、彼女たちのことを
 見守ってしまう。そんな作品だった。

アキハバラ@DEEP/石田衣良

2009年11月07日 11時51分43秒 | 読書歴
99.アキハバラ@DEEP/石田衣良
■ストーリ
 電脳街の弱小ベンチャー「アキハバラ@DEEP」に集まった
 若者たちが、不眠不休で制作した傑作サーチエンジン「クルーク」。
 ネットの悪の帝王にすべてを奪われたとき、おたくの誇りをかけた
 テロが、裏アキハバラを揺るがす。

■感想 ☆☆☆☆
 食わず嫌いの作家さんののひとりだった石田さんに初挑戦。
 どうにも手を伸ばす気になれなかったものの、本読みエキスパートの
 ぽこりんから「おもしろいよ。」と言われたため、初挑戦です。
 初挑戦の作品は、マイナーではあったものの、私は大好きだった
 ドラマの原作です。
 そのおかげなのか、妙に苦手意識が強かった作家さんでしたが
 自分でも意外なほど楽しんで読みました。
 大好きだったドラマにも関わらず、
 原作をドラマ以上に面白い!と思えました。

 ドラマは1話完結で、コミュニケーション能力にちょっぴり
 難がある主人公たちが、アキハバラという街を守るため
 アキハバラに集まる同好の士たちを守るために事件を解決
 する、という話。それらの事件を通して、彼らが少しずつ
 仲間意識を深めていく青春ストーリだった。
 一方、原作は長編で、主人公たちが対峙する事件はひとつ。
 ただし、その事件のスケールはドラマより大きい。
 解決に向けて動き出すうちに、「熱くなれるもの」
 「守りたいもの」を見つける主人公たち。
 ドラマ同様、カテゴリは「青春ストーリ」で、読んでいるうちに
 胸が熱くなってくる。

 ただ、ドラマと決定的に違うのは、原作では、事件に
 巻き込まれるのがあくまでも主人公たち自身であるところ。
 彼らは「自分たちのため」「自分たちが守りたいと思うもののため」
 「自分たちのプライドのため」に戦うことを選ぶ。
 「熱く生きること」「まじめに生きること」を恐れる傾向に
 ある現代で、それでも「泥臭く生きること」の気持ちよさを
 真正面から、しかし、どこかひねた視点で描いているところが
 非常に気持ちよく、でもどこか面白い。
 「寝食忘れて仕事をすること」はきつい。体調や精神が
 むしばまれることもある。けれど、「寝食忘れて仕事に
 のめりこめる」状況に遭遇できることはとても幸せなこと。
 そこに、その状況を共有できる仲間がいれば、幸せは
 より一層大きくなる。素直にそう思える作品だった。

観用少女(全4巻)/川原由美子

2009年11月01日 22時08分00秒 | 読書歴
98.観用少女(全4巻)/川原由美子

■ストーリ
 ミルクと愛情を糧に生きる、観用少女(生きる人形)と
 人間たちのオムニバス物語。

■感想 ☆☆☆
 とにかく絵がすばらしく美しいのです。
 漫画として、というよりもイラスト集として楽しみました。
 出てくる女の子(人形たち)がみんなとても愛くるしいです。
 そして、彼女たちが着ている衣装もオンナノコの夢あふれる
 感じで、とてもキュート。
 レースやリボン、ひらひらのワンピース。どれもこれも
 小さな頃にあこがれ続けたアイテムばかりでうっとりしながら
 眺めました。・・・って変態っぽいですが。

 でも、お人形遊びが大好きだったり
 かわいいものが大好きだったりする人たちは
 もれなく楽しめる作品だと思うのです。

 勿論、お話自体も面白いです。
 オムニバスストーリーなので、1話1話はあっさりとしていますが
 世界観がしっかりとできあがっていて、短さを感じません。
 彼女たちの住む世界に入り込むことができます。
 でも短編。疲れることなく読み進められます。

 主食は特別なミルクと持ち主の愛情。
 持ち主と認めた人からしかミルクを飲まず、飲み終わると
 極上の笑顔を見せてくれます。
 こんな人形に会えたら、そしてこんな極上の笑顔を向けられたら
 間違いなくお持ち帰りをしてしまうだろうなぁ、と思うのです。

秘密の花園/バーネット

2009年10月31日 00時26分59秒 | 読書歴
97.秘密の花園/バーネット

小公女を読み終えた途端、猛烈に読み返したくなったのが
こちらの「秘密の花園」でした。「赤毛のアン」とか
「昔気質の一少女」あたりに続いてもよかったのですが
幼いころの思い出つながりで、「秘密の花園」へ。
作者は「小公女」と同じくバーネット。

ヒロインはびっくりするぐらい巷の「ヒロイン」像のイメージを
打ち破る女の子、メアリー。
無愛想で気が強くて我儘。
やせっぽっちで愛敬がなくて、憎たらしいくらいの頑固者。
メアリーは、愛されて育てられなかったために
「愛されること」も「愛されたい」という感情も知らず、
そして、勿論、自分自身も誰かを「愛したい」とか「好きだ」と
思うことなく過ごしていました。
彼女が知っているのは、「召使いとの関係」だけ。
彼女の周りにいるのは、
「自分がしたいことを要求するために存在する人たち」のみ。
そんなメアリーがコレラで両親を失い、召使いは逃げていき
突如、孤児になり、遠い親戚のおじさんに引き取られることになり
イギリスへやってくるところから、話が始まります。

周りの人たちを愛する、とか
周りの人たちに愛されたい、とか
そういった感情をまったく持ち合わせていなかったメアリーが
「秘密の花園」で自然に触れ、体を動かし、草木や花を育てていくうちに、
どんどんと子供らしく、愛らしくなっていきます。
その変化がとても自然。
彼女を見ていると、人間には自然とのふれあいが、誰かを愛する心が
必要なんだろうな、と素直に思えます。
そして、どんどん良い方向に変わっていき、
大好きなものが増えていく彼女を見ていると
私まで嬉しくなります。
この本を読んでいると、
良い変化は周囲の人たちにも良い影響を及ぼすのだということを
そして、笑顔や人に対してのポジティブな感情が
「よい出来事」や「よい変化」を呼び寄せるのだということも
素直に納得できる気がします。

とか、なんとか言いつつ、それでも終盤まで
メアリーは気が強く、強情な女の子のままなのですが。
それでも、素直な部分も持ち合わせているから
そのキャラクターも愛しく思えるわけで
ただ気が強いだけでは駄目だな、素直な部分も持ち合わせなくてはね
と自戒の念を込めて読み返しました。