□カーネーション
□脚本:渡辺あや
□NHK朝ドラ(8:00~8:15)
□出演
尾野真千子、二宮星、夏木マリ、麻生祐未、正司照枝、小林薫
宝田明、十朱幸代、新山千春、川崎亜沙美、安田美沙子
栗山千明、濱田マリ、綾野剛、近藤正臣、ほっしゃん。
□感想 ☆☆☆☆☆☆
毎回、とりあえずチェックをしている朝ドラさんですが、今まで2作品続けて視聴したことはないような・・・。けれど、そんな(私の勝手な)ジンクスを「おひさま」に次いで始まったこのドラマ「カーネーション」が綺麗さっぱり見事に覆してくれました。「カーネーション」大好きでした。あんなに視聴率がよくて私自身も大好きだった「おひさま」だったのに、そのドラマの印象すら一気にかすんでしまうぐらい、「カーネーション」の世界にどっぷりと漬かった半年間でした。すごくすごく面白くてたくさん笑って、元気をもらって、身体の内側から勇気がわいてくる。そんなドラマでした。見ていて胸が熱くなる。そんな瞬間をたくさんもらった半年間でした。
オープニングはミュージカル風。ヒロインと彼女の子ども時代を演じる女の子ふたりがかわいらしく歌を重ねます。
時は大正 岸和田に 生まれた一人の女の子/名前を 小原糸子と申します/着物の時代に ドレスに出会い/夢みて 愛して 駆け抜けた/これは その おはなし
思えば、ミュージカル大好きな私は、このオープニングからすっかり心奪われたんでした。初回に見たきり、一回も放送されたことがなかったこのオープニングが最終回で粋に遣いまわされていて、最後の最後までこのドラマの脚本の伏線の張り方、演出のかっこよさにしびれました。このドラマを見ていて、やっぱり私のドラマの好き嫌いは、脚本に大きく左右されるんだなぁ、としみじみ思いました。脚本家渡辺あやさんの使う言葉の美しさ、力強さはさることながら、あえて描写しないエピソードの選び方、言葉で説明しすぎることなく、余白で描いてみせるエピソードの見せ方、余韻の残し方に感嘆しながらドラマを見続けました。とにかくかっこよかった。
そして、同時にドラマって脚本だけじゃないんだ、演者次第でもあるんだな、ということもまざまざと思わされたドラマでした。ヒロイン糸子が乗り移ったんじゃないかな、と思うぐらいイキイキと糸子を演じたオノマチさんの魅力ときたら!常にポジティブで周囲のみんなに愛される朝ドラ王道のヒロインではありえないドスのきいた台詞回しをかっこよく、でもやっぱり愛らしく、そして大阪岸和田のヒロインらしくどこか面白おかしく演じてくれていました。女性がなかなか思うように生きられなかった時代に、自分の信じる道を一直線に、力強くたくましく進んでいこうとするヒロインを、力いっぱい体当たりで演じていました。力強くたくましいけど、それが決して「気が強い」だけじゃない。一直線に進もうとしていても、そのときどきでどうしても回り道をしてしまう人間の弱さとか、自分の信じる道を進んでいたはずなのに、目の前の毎日を生きるのに一生懸命で、そもそも自分が何を信じていたのかすら忘れてしまう人間の視野の狭さとか、そういったところも細やかに演じていて、「人間」の幅に説得力があった気がします。大阪のヒロインらしく「おせっかい」だけど、そのおせっかいがうっとおしくて、でもあったかい。自分が関わった人、自分が大事だと決めた人の手を決して離そうとしないヒロイン像が揺るぎなく素敵でした。
そんな糸子に多大な影響を与えたおとうちゃんをこれまた大好きな演者さん、小林薫さんが演じられていて、毎日毎日、彼が演じる「おとうちゃん」の人としての弱さ、だらしなさ、それでもどこか憎めない人柄、町内の男衆に愛される「善ちゃん」としての人たらしな部分に「分かるなぁ」と思わされるその演技力を感嘆しながら見続けました。何だろう?何でだろう?と自分でも不思議になるぐらい、彼の台詞回し、表情、佇まいが大好きです。科白や表情だけでなく、佇まいで、後姿で、視線で「おとうちゃん」のどうしようもない部分、ダメな部分、愛すべき部分が見せられていて、矛盾に満ちたでこぼことした「善ちゃん」の魅力をあますところなく楽しませてくれました。
半年間という長丁場の中、脚本家さんがドラマの脇の脇にいたるまで愛情をたくさん込めて丁寧に描かれていたので、どのキャラクターにも思い入れがあるし、どのキャラクターも困ったところがあったとしてもやっぱり憎めない人、なんか好きだな、と思わせてくれる人、になっていたところがこのドラマの素敵なところじゃないかな、と思うのです。だから、どう考えても脇役中の脇役で、ストーリーの主流部分には全然関わってこない歌舞伎役者、中村春太郎さえも「あぁ!あの春太郎ね!あの人、いい味出してたよね!」とドラマを見た人とは語り合える。それぐらい愛しい人たちがたくさん詰まったドラマでした。
エピソードもどれもこれも粒ぞろいで、脚本も科白も好きなところだらけ。
でも、その中でも特に心に残ったのは、ヒロインが力強く言い放った「私は洋服の力を信じてるんです」という科白でした。自分の選んだ「ファッション」という道を揺るぎなく信じ続けられることの幸せ、信じ続けているからこそ、周囲の人に与えられる力の大きさ、そういったことを感じさせてくれました。そして、「洋服の力を信じている」ヒロインに若い頃、恩師が贈った言葉
「本当にいい洋服は、着る人に品格と誇りをあたえてくれる。
人は品格と誇りを持ててはじめて、夢や希望も持てるようになる。」
は、今、私が夢や希望とか誇りとかそういった言葉を忘れがちだからこそ、胸に響いた言葉でした。
また、このドラマでは「老いること」「死ぬこと」を変に美しく描かず、真正面から描いているところ、「こんなふうに老いたい」「こんなふうに死を迎えたい」という理想を描いているところが新鮮で、素敵でした。
「歳をとるっちゅうことは、当たり前に出けるはずのことが、出けへん。
その情けなさに耐えること。しかも、いま出けてることも、
これから先、どんどん出けへんようになっていく。
その怖さに耐えること。たったひとりで」
いつも強くたくましく、思うままに生きてきた糸子がこんなふうに弱音を吐く。でも、その弱音を決して人前で吐かずに心の中で留めておく。
大阪を、自分が生まれ育った岸和田と言う町を愛し、町内のお隣さんたちを大事に大事にしていた糸子は、初老を迎えた頃に盟友から
「オマエがゆうちゃあった宝かて、どうせ一個ずつ消えていく。
人かてみんな死んでいくんじゃ。
お前ここにいちゃあったら、ひとりでそれに耐えていかなあかんねんど」
と言われます。それでも
「そもそもやな。無くす無くすって何無くすんや?
うちは無くさへん。相手が死んだだけで、なぁんも無くさへん。
ヘタレはヘタレで泣いとれ。うちは宝抱えて生きていくよって。」
と強がって言い返す糸子。その彼女が長生きをして小さい頃から知っているお隣さんもみんないなくなり、娘たちも巣立っていき、そして少しの間、預かっていた孫娘もまた帰っていく、そのときに、寂しさをこらえ、必死で更に強がるこの科白は胸に強く強く迫りました。
「東京へ帰ってしもたから、なんや。あっち(天国)へ行ってしもたから、なんや。
寂しいんはウチがほんなけ相手をすきなせいやないか。
ウチの人生、もう好きな人だらけで困るちゅうことやないか。結構な話や。」
どんなに気が強くても、老いることで心が弱くなってしまう部分はある。老いることで失うこともある。でも、老いて失うことが「不幸せ」ではない。そう力づけてくれたドラマでした。
はぁ。私の中では「ちりとてちん」に並ぶ大好きなドラマになりました。
□脚本:渡辺あや
□NHK朝ドラ(8:00~8:15)
□出演
尾野真千子、二宮星、夏木マリ、麻生祐未、正司照枝、小林薫
宝田明、十朱幸代、新山千春、川崎亜沙美、安田美沙子
栗山千明、濱田マリ、綾野剛、近藤正臣、ほっしゃん。
□感想 ☆☆☆☆☆☆
毎回、とりあえずチェックをしている朝ドラさんですが、今まで2作品続けて視聴したことはないような・・・。けれど、そんな(私の勝手な)ジンクスを「おひさま」に次いで始まったこのドラマ「カーネーション」が綺麗さっぱり見事に覆してくれました。「カーネーション」大好きでした。あんなに視聴率がよくて私自身も大好きだった「おひさま」だったのに、そのドラマの印象すら一気にかすんでしまうぐらい、「カーネーション」の世界にどっぷりと漬かった半年間でした。すごくすごく面白くてたくさん笑って、元気をもらって、身体の内側から勇気がわいてくる。そんなドラマでした。見ていて胸が熱くなる。そんな瞬間をたくさんもらった半年間でした。
オープニングはミュージカル風。ヒロインと彼女の子ども時代を演じる女の子ふたりがかわいらしく歌を重ねます。
時は大正 岸和田に 生まれた一人の女の子/名前を 小原糸子と申します/着物の時代に ドレスに出会い/夢みて 愛して 駆け抜けた/これは その おはなし
思えば、ミュージカル大好きな私は、このオープニングからすっかり心奪われたんでした。初回に見たきり、一回も放送されたことがなかったこのオープニングが最終回で粋に遣いまわされていて、最後の最後までこのドラマの脚本の伏線の張り方、演出のかっこよさにしびれました。このドラマを見ていて、やっぱり私のドラマの好き嫌いは、脚本に大きく左右されるんだなぁ、としみじみ思いました。脚本家渡辺あやさんの使う言葉の美しさ、力強さはさることながら、あえて描写しないエピソードの選び方、言葉で説明しすぎることなく、余白で描いてみせるエピソードの見せ方、余韻の残し方に感嘆しながらドラマを見続けました。とにかくかっこよかった。
そして、同時にドラマって脚本だけじゃないんだ、演者次第でもあるんだな、ということもまざまざと思わされたドラマでした。ヒロイン糸子が乗り移ったんじゃないかな、と思うぐらいイキイキと糸子を演じたオノマチさんの魅力ときたら!常にポジティブで周囲のみんなに愛される朝ドラ王道のヒロインではありえないドスのきいた台詞回しをかっこよく、でもやっぱり愛らしく、そして大阪岸和田のヒロインらしくどこか面白おかしく演じてくれていました。女性がなかなか思うように生きられなかった時代に、自分の信じる道を一直線に、力強くたくましく進んでいこうとするヒロインを、力いっぱい体当たりで演じていました。力強くたくましいけど、それが決して「気が強い」だけじゃない。一直線に進もうとしていても、そのときどきでどうしても回り道をしてしまう人間の弱さとか、自分の信じる道を進んでいたはずなのに、目の前の毎日を生きるのに一生懸命で、そもそも自分が何を信じていたのかすら忘れてしまう人間の視野の狭さとか、そういったところも細やかに演じていて、「人間」の幅に説得力があった気がします。大阪のヒロインらしく「おせっかい」だけど、そのおせっかいがうっとおしくて、でもあったかい。自分が関わった人、自分が大事だと決めた人の手を決して離そうとしないヒロイン像が揺るぎなく素敵でした。
そんな糸子に多大な影響を与えたおとうちゃんをこれまた大好きな演者さん、小林薫さんが演じられていて、毎日毎日、彼が演じる「おとうちゃん」の人としての弱さ、だらしなさ、それでもどこか憎めない人柄、町内の男衆に愛される「善ちゃん」としての人たらしな部分に「分かるなぁ」と思わされるその演技力を感嘆しながら見続けました。何だろう?何でだろう?と自分でも不思議になるぐらい、彼の台詞回し、表情、佇まいが大好きです。科白や表情だけでなく、佇まいで、後姿で、視線で「おとうちゃん」のどうしようもない部分、ダメな部分、愛すべき部分が見せられていて、矛盾に満ちたでこぼことした「善ちゃん」の魅力をあますところなく楽しませてくれました。
半年間という長丁場の中、脚本家さんがドラマの脇の脇にいたるまで愛情をたくさん込めて丁寧に描かれていたので、どのキャラクターにも思い入れがあるし、どのキャラクターも困ったところがあったとしてもやっぱり憎めない人、なんか好きだな、と思わせてくれる人、になっていたところがこのドラマの素敵なところじゃないかな、と思うのです。だから、どう考えても脇役中の脇役で、ストーリーの主流部分には全然関わってこない歌舞伎役者、中村春太郎さえも「あぁ!あの春太郎ね!あの人、いい味出してたよね!」とドラマを見た人とは語り合える。それぐらい愛しい人たちがたくさん詰まったドラマでした。
エピソードもどれもこれも粒ぞろいで、脚本も科白も好きなところだらけ。
でも、その中でも特に心に残ったのは、ヒロインが力強く言い放った「私は洋服の力を信じてるんです」という科白でした。自分の選んだ「ファッション」という道を揺るぎなく信じ続けられることの幸せ、信じ続けているからこそ、周囲の人に与えられる力の大きさ、そういったことを感じさせてくれました。そして、「洋服の力を信じている」ヒロインに若い頃、恩師が贈った言葉
「本当にいい洋服は、着る人に品格と誇りをあたえてくれる。
人は品格と誇りを持ててはじめて、夢や希望も持てるようになる。」
は、今、私が夢や希望とか誇りとかそういった言葉を忘れがちだからこそ、胸に響いた言葉でした。
また、このドラマでは「老いること」「死ぬこと」を変に美しく描かず、真正面から描いているところ、「こんなふうに老いたい」「こんなふうに死を迎えたい」という理想を描いているところが新鮮で、素敵でした。
「歳をとるっちゅうことは、当たり前に出けるはずのことが、出けへん。
その情けなさに耐えること。しかも、いま出けてることも、
これから先、どんどん出けへんようになっていく。
その怖さに耐えること。たったひとりで」
いつも強くたくましく、思うままに生きてきた糸子がこんなふうに弱音を吐く。でも、その弱音を決して人前で吐かずに心の中で留めておく。
大阪を、自分が生まれ育った岸和田と言う町を愛し、町内のお隣さんたちを大事に大事にしていた糸子は、初老を迎えた頃に盟友から
「オマエがゆうちゃあった宝かて、どうせ一個ずつ消えていく。
人かてみんな死んでいくんじゃ。
お前ここにいちゃあったら、ひとりでそれに耐えていかなあかんねんど」
と言われます。それでも
「そもそもやな。無くす無くすって何無くすんや?
うちは無くさへん。相手が死んだだけで、なぁんも無くさへん。
ヘタレはヘタレで泣いとれ。うちは宝抱えて生きていくよって。」
と強がって言い返す糸子。その彼女が長生きをして小さい頃から知っているお隣さんもみんないなくなり、娘たちも巣立っていき、そして少しの間、預かっていた孫娘もまた帰っていく、そのときに、寂しさをこらえ、必死で更に強がるこの科白は胸に強く強く迫りました。
「東京へ帰ってしもたから、なんや。あっち(天国)へ行ってしもたから、なんや。
寂しいんはウチがほんなけ相手をすきなせいやないか。
ウチの人生、もう好きな人だらけで困るちゅうことやないか。結構な話や。」
どんなに気が強くても、老いることで心が弱くなってしまう部分はある。老いることで失うこともある。でも、老いて失うことが「不幸せ」ではない。そう力づけてくれたドラマでした。
はぁ。私の中では「ちりとてちん」に並ぶ大好きなドラマになりました。