A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

ヒーローの交代というのはどこの世界でもあるが・・・

2013-11-19 | MY FAVORITE ALBUM
Sung Heros / Tony Scott & Bill Evans Trio


クラリネットが続くが、モダンクラリネットというとトニー・スコット。この前紹介した1958年ダウンビートのタウンホールコンサートでは主役の一人であった。
トラッド系のジャズでは今でもクラリネットは主役だが、モダンジャズの世界ではクラリネットはいつの間にか日陰者になってしまった。それが理由かどうかは分からないが、スコットは翌年の1959年にはアメリカを離れる、そして演奏を辞めたわけではないがジャズの檜舞台からは遠ざかることに。

一時日本にも滞在していたことがあるようだが「仏教と音楽」をテーマにして日本にも拘りを持っていたようだ。音楽一筋というのではなく、いわゆるスピリチャルな世界と音の世界の接点に立ち位置を変えていった。60年代に入るとジャズもインド音楽とのコラボがあり、あるいはボサノバの登場など民族色を取り入れながら進化していったが、スコットの決断もその先駆けだったのかもしれない。

そのスコットがアメリカを離れる前にビルエバンスとアルバムを作る。何枚かあるので一回限りの付き合いではなかったようだが・・・。これが最後のアルバムとなった。

この年のエバンスは飛躍の年。1959年の春に有名なKind of Blueが録音された。これを機にエバンスはラファロと組んで自己のトリオ中心に活動を始める。ビルエバンストリオ時代の始まりだ。
一方のスコットはアメリカでの演奏活動に見切りをつけて母国を離れる。順風満帆なエバンスと行き詰まりを感じていたスコットの共演というのも皮肉なものだ。

このアルバムは、トニー・スコットがリーダー、ビルエバンストリオが伴奏で加わった形だ。スコットがエバンスと組んで何を表現したかったか興味が湧くが。実は、このアルバムの前にライブのアルバムがあるが、このアルバムは前作といささか趣が違う。

最初の曲は、何故かイントロが ”What Are You Doing The Rest of Your Life”に似てる。



聴いたとたんに思い浮かぶ言葉は「哀愁」「別れ」「瞑想」・・・・。ある種エバンスの世界ともいえるが、ちょっと違う。

いわゆるジャズのスイング感は無いし、バラードのまったり感もない。両者の冷たく研ぎ澄まされた音色が空間に舞い、時に耳に突き刺さる。ある時はオーバーダブされたバリトンが雄叫びを上げ、フリーインプロビゼーションの趣も。
まさに何かスコットが瞑想の世界に入るのを誘うかの如く不思議な雰囲気が漂う。ドライブの効いたスコットのクラリネットは無い。何故か悲しみが全編を包む。彼の今までの人生を支えてきたヒーロー達に別れを贈るように。

Israelではエバンスとのデュオで。最後の2曲は編成が代わりギターが主役。父に向けた哀愁をスコットがギターのソロで奏でる。続く曲では、フラメンコギターとクラリネットのデュオで伝説の闘牛士ラメンテを悼む。
トニー・スコットがこれまで歩んできた華やかな世界を去り、これから歩もうとする内なる世界にエバンスが餞を贈る感じのするアルバムだ。

1. Misery (To Lady Day)
2. Portrait of Anne Frank
3. Remembrance of Art Tatum
4. Requiem for Hot Lips Page
5. Blues for an African Friend
6. For Stefan Wolpe
7. Israel
8. Memory of My Father
9. Lament to Manolete

Tony Scott (cl,bs,g)
Bill Evans (p)
Juan Sastre (g)
Scott LaFaro (b)
Paul Motian (ds)

Produced by Francois Zalacain & Ray Passman
Recorded on October 29, 1959


Sung Heroes
クリエーター情報なし
Sunny Side
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする