ここに書くのは 朝顔に釣瓶取られてもらい水 (加賀千代女) ではない。 無粋なことなのだ。
日曜の午後、定例古式銃競技会の25mの部に出かけて射場で30分過ごしそのあと次の何人かが競技に励んでいる傍で銃の汚れを綺麗にして黒くなった手を洗おうとトイレで手をゴシゴシ洗っていたら冷水だったためかこの頃近くなった小水のお呼びがかかってきた。 それで男子トイレの小便器に向かったら目の前に小さな紙切れが張られていてそこには英語の文が次のように読めた。
SHOOTERS
with
short barrels
and/or
low muzzle velocity
PLEASE
engage target
at close range
銃身が短く、且つ若しくは発射速度の低い射手 各位に
的を至近距離から狙うよう願います
射撃クラブだからアメリカのどこかのクラブで見たものを牽いてきたのだろう。 自分が今日撃ったカリブの海賊が持っていたのと同じピストルは黒色火薬を銃身の先から込める方式なのだがその銃口が muzzle で 銃口からの速度、初速度が実際に遅いのとここで言う遅さは比較にならないものだ。 昔一度込める火薬の量が極端に少なく音はしたものの10mも飛ばずにまん丸い鉛玉がコロンという音がして射場の床に落ちたことがあるけれどそうなるとそれはこの場合多分最後の滴りのことになるのだろうか。 普通は単発なのだからここでの警告は的を得ていないようにも感じるけれどまあ大体はショットガンで散弾を撃ったとすれば的は外れてはいないだろう。
射撃クラブでなくとも世界のあちこちで小便器にはそんな工夫があって小さな蠅が一匹底を這っているような絵があったり、あるところでは小さなサッカーゴールのネットにパチンコ玉より小さいようなプラスチックのボールが糸でつながっていて小水でボールをゴールに押し込むようなゲーム感覚のものまであるのだがここではそんなこともなく何の変哲もない昔からの小便器の上に張られた紙片はここならではのものだ。
それを見ていてふと、日本にも古くからそんな文言が書かれているのを思い出したが、目の前のものに比べると遙かに抒情性があるように思う。 もっとも射撃クラブに何の抒情性をもとめるのかというものが殆どなのだけれど無骨なオランダ人たちには東洋の抒情の行くところに驚くに違いない。 もうだいぶ前に亡くなったヘンク爺さんがこれを聞いたら喜んでいたに違いなかったのに伝える機会を亡くしたのは残念だ。
朝顔の外に零すな竿の露
急ぐとも 心静かに手をそえて 外へもらすな 松茸の露
西へ東へ振りまくな 南の人が北なしという