昼前に起き出したら乳白色の世界だった。 天気予報では霧が発生していて視界が悪いから交通に注意するよう言っていた。 3時に銃砲・弾薬所持取り扱い許可証の毎年の更新にハーグの警察署に出かけることになっていて普通は30分あれば行けるけれど今日は霧で道路が渋滞・混乱するかもしれないので1時間前に家を出て車で高速A4号線を走った。 運河沿いの通りにある我が家では窓の外は運河から湧きあがったのもあってかなり濃く50mぐらいしか見えないのでオレンジ色の車のヘッドライトに注意しながら地方道から高速に入った。
外気は4℃と出ていて路上は100m以上の視界が効いてどの車も速度を落とさず普通に制限の100kmを保っているのがちょっと不思議だった。 ただ牧草地や林で囲まれているA4は霧の密度は濃いようで道路の横、そばの視界は50mほどしか効かないものの高速の路上は100mから150mほどははっきり見えるので渋滞にはなっていないし交通量がかなりの密度を保っているので、これは大量の車の排気ガスやそれによる路上の温度によって霧が消えているからなのだろうと思う。 道路線方向だけに視界がいいというのは他に理由が考えられるのだろうか。 このため普通ならよく見通せる脇の林が走っているそばからぼやけて見えないのに比べて前にずらりと短い車間距離をとって連なって走る車が向うまで小さくなりつつ見えるから交通に問題にはなかった。
30分も早く警察に着いて入口で名前と要件を告げると4階に行くよう指示された。 入口のそばにある案内板のどこにも銃砲取り扱い特別法令関係部署、というような案内掲示がない。 去年までは小さくともその表示があったものが今は消えている。 だから受付で要件を言って何階か尋ねた時に完全武装した受付の警官はこの部署のことをよく承知していなかったよう内線で部署を確かめていた。 この警察署にはもう5年以上前から来ているけれどそのとき取り扱いの警察署、所管が変わり、元々は自分の町の警察署で同じ手続きが簡単に出来ていたものが経費削減・合理化・区間合併で先ず10kmほど離れた海辺の町の警察署となり、そこに不便な夜間でかけ2,3年手続きを行っていたのだがそのうちにそこの人手不足のために事務手続きが混雑し署員にも出かける我々にも不満がつもり、挙句が混雑、遅れというような不都合の果てに5年ほど前から南オランダ州の大部分をカバーするこのハーグの中央警察署に管轄が変わっていた。 ここに来てからは以前と同じくちゃんとあらかじめ日時を決めてあってもそれまでのように特に待つこともなく署員もスマートな対応でコーヒーまで振る舞ってくれる。 10分ほどで手続きを済ませ料金を支払う段になり3000円ほどを請求されて驚いた。 この20年ほど1000円ほどだったものが3倍になっている。 冗談紛れに「政治的に正しくない」スポーツに対する「いじめ」かと言うと、笑って「消極的奨励策」だと答えた。 政治家の間では額を1万円以上にしろと言う声も出ているらしいけれどそれはいくら何でも、と今のところこの額で収まっているけれど先は分からない、と言う。 「政治的に正しくない」スポーツとしてはボクシングなども挙げられるけれど銃器を扱う「射撃」とは「暴力」の桁が異なると考えられて、射撃がいくら合法でも許可証の料金を上げることによって申請を諦めさせようとする「消極的奨励策」なのだ。
許可更新には、 1)オランダ射撃連盟の2016年度公式パス、 2)前年までの許可証、 3)一年間に17回以上射撃場で実行した旨を示すスタンプ帳、 4)家族・射撃クラブの理事が本人の精神的社会的安定及び刑事事件に関係していない旨を保証するサイン、 5)自動車運転免許などのID 6)更新料 が必要だ。
10分ほどで手続きを終え警察署の前に停めた車でもと来た道を戻った。 その途中にハーグを拠点にするサッカーチーム「ADO Den Haag」のスタジアム、「Kyocera Dome」のそばを回り込むようにして通ったときにこの京セラという名前も近々なくなるということを思い出した。 この何年か経営不振で財政不足の経営陣が中国人に経営権を渡していたのが約束していた資金が流れずいくら催促しても契約通りならず結局経営破綻、破産という憂き目にあって中国人経営者を訴追すればこの男は数千万から億に及ぶチームの金を自分の飲食、高級車に使い有罪になるということが報道されていたのだが京セラがそれに嫌気を差してこのドームの名前から京セラを引き上げると言ったとか言わなかったかというようなことを地方テレビで観ていたからだ。 最近観たドキュメンタリーの中に、超高級ワインを捏造して自分は中国財閥の一員だと名乗り金持ちの間を渡り歩き粉飾したワインを売りもし、また世界中のオークションに流し市場を混乱させた末アメリカで刑事裁判の末10年の禁固刑を言い渡されて収監されている中国人がいたけれどこれもその手口に似てもなくはなかった。 この何年かハーグのサッカー・チームがこの中国人に頼る様子が報道されていて折からの中国ブームの中で地元の政治家たちの名前もあがりその華やかさに危いものを感じていた挙句が「バカなオランダ人が狡猾な中国人に」膨大な飲食・車代を、自分の地元の言葉で言うと「コマされた」ことになったことになる。
80年代から海外に進出した日本企業がオランダに拠点を置いたり共同で起業したりする例はあってそこでの問題と言うのは経営文化や戦略・戦術などの企業活動内でのことであり日本人に対する信頼は高いものでありそれがアジア人に対する評価にもなっており企業を食い物にするこのような粗くチャチな犯罪というものは聞いたこともないしマスコミには出てこないけれどここでも中国人の「骨太さ」に感嘆する。 80年代に上海近郊に日・中政府絡みで大製鉄所を共同で出資設立したものの結局資金を回収できないままに製鉄所を「コマされて」日本政府が泣き寝入りをしたこともあったそうだ。 だいぶ前にそれに関係した日本人から話を聴いたことがあって真面目な日本人が太刀打ちできない異文化を経験したというのに強い印象を受けているからここ何年か海外の日本沈滞から日本人撤退気運の中で中国人の幾つもの単発事件に接すると複雑な気持ちにもなる。
もう一つハーグのサッカーチームで日本関係のことを思い出した。 今でもまだいるのだろうか。 日本人の若いサッカーをする選手がオランダに来ているということは聞いている。 昔ハーグのチームにもいたということも聞いていた。 去年か一昨年聞いた話はオランダ人の選手だが日本で育ち日本語は堪能だがオランダ語が怪しいと話題になっていた若者だ。 多分国際結婚のほとんどのように父親がオランダ人、母親が日本人というパターンなのだろうがサッカーができてオランダに戻って来たからこのチームに入って活動を始めたというのだった。 聞いただけだからこの妙なオランダ人がどれほど日本語ができるのかオランダ語が出来ないのかに興味がある。 このスタジアムでは去年か一昨年フィールドホッケー世界大会が開かれていたはずだ。 オランダはフィールドホッケーでは金メダルをよくとる国で盛んだがプロはない。 銀行などのスポンサーがついていて経営は安定しておりプロサッカーとは経営規模や戦略、内容がまるで違うけれどそれはサッカーが世界規模の企業組織としてあることからすれば理解できることだ。
高速に入ると外気は7℃と上がっており周りの牧草地も視界が数キロほどまで戻っていて霧はほぼ晴れていた。 自分の手帳の中では今年の予定はこれでほぼ終わりであとは義弟のうちで大晦日の宵から新年まで続く持ち寄りのパーティーのために寿司を30人分ほど作るだけで静かに年が暮れる、はずだ。