<以下の冗長な文は自分の記録の為だけに記すものであってここに来訪の読者の大半には何の得も面白みもないものであることを予め断っておく>
先週の木曜日の夜中だっただろうか、机に向かっていて膝と背中が寒くセントラルヒーティングが作動していないのかと思ってボイラーのところに行って表示を見たら何も動いていない。
家の暖房システムは二系統あって自分の部屋だけを暖めるだけの系統とその他の部屋の温度を一括して暖める二系統だ。 制御は自分の屋根裏部屋を除く他の部屋の暖房は一階、居間のサーモスタットのついたプログラムのできる制御盤で行い、自分の部屋は自分の部屋だけを制御する手動サーモスタットメーターを左右に廻してセッティングする。 自分の部屋を除いて家中の暖房は、今は朝の6時になれば人がいる部屋は18℃になり10時ごろから4時ごろまで殆ど人がいないので15℃、それから12時まで19℃になるようセッティングされていて週末は日中も人がいるから19℃に設定してある。 厳寒の間何日も留守をしていてもシステムを稼働させるために温度を低めにするものの動かしていて止まることはない。 冬場は最低15℃になるよう設定してあるし仮令夏場と言えども常温でポンプを作動させ家中のパイプを水が循環するように仕向けられている。 ヨーロッパの冬は日本の大阪南部に育ったものからすれば厳しいもので、そのための住まいの仕組みが温暖な田舎の農家とは大きく違いこの地では暖房・防寒対策が優先する。 借家であればすべて家主任せであるから問題が起これば家主に電話でせっつけばなんとかなるものの、それでも借家でも条件によっては自分でボイラーを買って管理するのだから暖房事情は同じであり、だからいざという時に水回りの問題を解決してくれる業者を持っていることはある意味死活問題、冬場のライフラインともなる。 今回の「死活問題」は我が家では自分だけに起こった。
夜中の3時4時、これから底冷えがしてくる。 昔はどてらを着込んで膝に毛布を巻いてモニターに向かっていたものが5年前にこれから20年間は使うつもりのボイラーを新しく据えたときに自分だけが夜中に暖かく過ごせるような系統を加えていた。 それから5年でそのシステムに故障がきたのだった。 冷えて来て表示をみれば室内温度が16℃で、19℃に設定してあったからそうなるとボイラーに発火を促すべく炎の表示が点滅しているのにボイラーは眠ったままだ。 つまりここからの指令が向うに届いていないということだ。 居間の電子回路が入っていろいろなプログラムが出来るものには乾電池が入っていて何年に一度かちゃんと作動するように新しい電池と交換する。 ここにはそんなものはなくただのダイヤルにデジタル表示版がついたものだけなので電池ではない。 配線の接触不良かもしれないとパイプと配線を辿ってボイラーのところにいくと、定期的にぬるい水を巡回させているから自分の系統以外のパイプにはうっすらと熱が感じられたのだが自分のパイプは屋外のように冷たい。 ということはこの2系統は完全に分離された系統だということで他の部屋のシステムにはなんら問題もなく自分の系統だけの問題だということがわかる。 他の家族には何の支障もないから安心だけれど自分だけ寒空の下にホッぽり出された気分で少々複雑ではある。
自分のパイプがボイラーに接続されているところを見るとパイプの元に灰色のプラスチック製の箱が見えた。 そこには Actuator という文字が読み取れ、これは「作動器」なのだろう。 つまりボイラーを作動させたり止めたりするものということでサーモスタットの配線がここに繋がっていることでもこれがそうだということが察せられる。 燃やせ燃やせと指令が出ているのにここで妨げられているのだ。 接続不良ということは考えられないからこの箱の中がおかしいのだろう。 初めて見る箱をじっくり眺めて横に白いプラスチックのノブのようなものが付いているのがみえたのでそれを動かしてみた。それでこの箱がパイプから外れるのかとも思い動かしながら揺すぶってみたのだが反応がない。 そのうちボイラーが動き出し熱い湯が循環しているのがわかるけれどそれは何時間に一度か慣らし運転をするためだけのものでそれにしても自分のパイプにはこないことがわかり腹を立ててケージの中の猿のようにガタガタとこの箱を持って揺すぶっているとカチという音がして急に自分のパイプに熱い湯が循環するようになり半時間ほどすると室内温度は19℃になった。
そのまま夜明けまでデスクに坐っていて15℃までダイヤルを回し温度調節を下げて寝床に入った。 翌朝起きて15℃のものをまた19度まで温度を上げるべく設定したのだが燃えろ燃えろと指令がボイラーに行くのだがボイラーはうんともすんとも言わない。 結局作動器の故障だと結論付けて業者に電話した。 電話の向こうの男は事情を聴くと事情は分かった、緊急の様ではないから来週火曜の午後4時前に係りの者を寄越すといい、それまで手動でしのいでくれ、その箱でパイプの弁を制御することにもなっているので引っ張ればソケットのように抜けるからそうすると指令がそのまま伝わる、ということだった。 妙だな、それだったらこの箱は必要ないじゃないかと思いながらも疑わず電話を切ってから箱を外そうとするけれど横の白いノブをいくら動かしながら引っ張っても垂直の箱を回してみても外れない。 ガタガタ押したり引いたりしていると突然作動しだす。 なんとも心細いものだ。 そんなことを週末中毎回10分ほど訳も分からずガタガタやっていると思わぬときに動き出すのでそのようにして火曜まで凌いだ。
火曜の朝、それまで何回かやっていたようにガタガタやっていると箱の裏側に箱と同じ色の小さなノブがあるのに気付きそれを押しながら箱を左右に回していると箱がパイプから外れた。 するとパイプのつなぎ部分についているネジの直径の内側にコイルが見られ指で押すと抵抗は強いものの徐々に動きそれで内部の弁が開いたのか温水が還流してくるのがわかる。 電話の向こうで、箱を外せばいい、と言っていたのがこれなのだろうがそれでも指を元に戻すと弁がパイプを塞いで用を足せない。 仕方がないので箱を元にもどすのに裏側のノブを押しながら箱をねじ込みなんとか収めると動き始めてパイプに温水が還流していた。 そのとき横の白いノブが向う側まで回り込むほど移動していたことに気付いた。 このポジションは今までなかったことだ。 元にもどそうとしても動かない。 壊してしまったのかと思った。
午後遅くこの2年ほど毎年夏の暇な時にボイラーの点検に来ている男が来て今迄の事情を話し、電話口で暫定的に箱を取り外せたら凌げると言われたのだが、というと、電話口の男は分かっておらず中途半端なことしか言わないからそんなことをやっても駄目だと言った。 あんたが見たように中の弁はサーモスタットの指令で中のメカが箱から弁を押したり引いたりして開閉しているのだけどそのメカニズムが摩耗したのかチップの様子か何かで作動していない、横の白いノブで開いているか閉まっているか分かる、ちょっと部屋に行って温度を下げるようノブを回してくれないか、ああ、止まった、白いのがこっちに戻ってるだろ、もう一度温度を上げるようサーモスタットのノブを回してくれ、うん、ノブが向うに動いて弁は開いている、これで直って今は動いているけれどまた駄目になったら電話してくれ、今のところこの部品はうちに無いからあんたの電話があり次第取り寄せの注文になる、と言って10分ほどで済ませレポートを書いてこっちにそのコピーを寄越した。 玄関で送り出すとき忙しそうだなというと午後からだけで6軒回ってきた、寒くなったらこんなもんだ、これから春までうちの掻き入れ時だ、だからあんたのところにも来るのが1時間遅れたんだ、じゃ、また、と言って出て行った。
そして翌朝また作動しないので業者に電話するとやっぱりだめですかといい、部品を注文するからいつ届くか分からないけど1週間ぐらいはかかるかもしれないと言われ電話を切り、肩を落としてボイラーのところに行き白いノブを思い切り指で向うまで押して弁を開け熱湯を還流させた。 これを1日に2,3回これから何日やることになるのだろうか。 親指に力を込めてノブを押すのに左の親指の爪と肉が離れそうでヒリヒリする。 器具で押せば痛みは消えるのだろうが脆弱そうに見える白いプラスチックのノブをそんなもので力任せで押して折ってしまえば元も子もなく冷えた洞穴の中で自分は凍えることになり、それも計算して痛い指を押し押し騙し騙し何とか凌ぐ。