紙幣をそのままの形で入れるような財布はもたず小さい小銭いれのような扁平の袋状のものを持っていて紙幣は四つおりにして小さなジッパーを開けて小銭と別にして財布というより小銭いれを持ち歩いている。 ちょっとした買い物のときにいちいち小銭を数えるのが面倒だから紙幣を出してそれでツリをもらうようにすることが多いから自然と小銭がたまるようになる。 それでも2ユーロ、1ユーロコインや50セント玉などはよく使うからほんとに細かい20、10、5セント玉がたまって重くなり何週間かに一度そういう細かなコインを別のところに集めておく。 そんなことをしようと種分けをしていたら。 珍しい10セント玉があったので手にとって眺めた。 文字からするとギリシャのもののようだ。 10セントだから大体日本円の約10円玉に相当する。 ユーロは加盟国でそれぞれ作られて圏内で流通しているからさまざまな国のものがポケットを通過する。 オランダで住んでいるのだからオランダ製が主なものだ。 どちらが裏か表か知らないけれど一方は同じデザインでもう一方がそれぞれの国で意匠が違う。 隣国ドイツ、ベルギーもよく混じるがフランス、スペインなどのものも見かけ、たまにはイタリアのものも見る。 関心がないから実際どこの国のものが今までこの小銭入れを通過して行ったのか見当もつかない。 一年に一度か二度近隣諸国、その他ユーロ圏の国を通過するからそのときには昔と比べて通貨の両替をしなくてもいいので楽だと感じる。
時には自分の小銭入れの中にはオランダ製のコインが入っていないことさえありそんなときには隣国のもので満たされていて使うものにはいちいち細部を見ずにその大きさと色で判別して日常を過ごす。 日の光が乏しくなる今の季節では片手に一杯のコインの中からすばやく相手に小銭を渡すときにはサイズが一番判断の基準になりやすく、50セントは他に比べて大きいから分かるものの、20セントと10セントの区別がつきにくく時には勘定が間違っていることを訂正されることもあり、そんなこともあるからいちいち正確に細かいコインを集めて払うということをしなくてそれよりも大きい額、50セントや1ユーロコインだけで払うことが多いから20セント、10セントに5セント玉が貯まってしまう理由にもなるのだ。
さて、この10セント玉なのだが、見慣れないギリシャ文字が書いてあるのでそれだけでギリシャのものだ、と判断する。 そのほかのことは分からない。肖像があって、なまえらしい文字が添えられているのだが読めない。 だからネットで検索するとこれはギリシャの詩人であり革命家でもあったリガス・フェレオス(1757-1798)という人だということが出ていた。 この人のことも知らないけれどイメージ的にはギリシャの神殿、ギリシャ神話の女神、太古の哲学者たち、というようなものを想像するのだが革命家というのが気になる。 それは18世紀に興味があるのではなくて今の時期にこれを見たからであって、それをいうなら各国の紙幣にサインがあるようなそれぞれの国の財政担当大臣か造幣局の責任者のことが頭をよぎるからであって、今のギリシャについて想いがいくからでもある。
2日ほど前にオランダ政府が、ブリュッセルの首脳が集まって何回目かのギリシャ救済のために緊急会議があった折に、これから2020年まで毎年幾ばくかの拠出金を出す、ということに合意したと報じられていた。 2ヶ月ほど前に選挙があって前の保守・超保守連合政府から保守・労働党の内閣に変わったオランダはそれ以前からこの数ヶ月、今の救いがたいギリシャのほぼ破綻経済に対してもうこれ以上救済のための拠出金を出すことを拒否するといい、それが選挙戦のテレビ討論会の時にも現首相のくちからはっきりと公約として言われていたものがここにきてひっくり返った。 それはヨーロッパの中で小国ながら経済では優等生と言われてきたオランダはヨーロッパ首脳国の意図を代弁する第一の国であることから予想できることではあったけれど、まだ若い労働党の経済担当大臣がブリュッセルで各国の大臣たちとの協議の結果、口にはださないものの明らかにドイツ、フランスからの圧力で今までもう何回やってきたかという決定となったのだった。 保守党党首であるイギリス首相は今まで以上に反ユーロの態度を表明し、その態度を自国の選挙民に見せ票につなげようとしているように見えた。
ギリシャの経済状態は一向に回復の兆しが見えずEUの主導国ではこの長期にわたる経済停滞の中、どことも緊縮経済政策が続く中でのギリシャ拠出金には頭を悩ましているようだ。 底のない井戸に金を放り込むようなものだといわれ、もうこの行為を止めてギリシャを破綻させよという議論が今まで何回も行われてきたのだがここに来てまだ経済的余裕のあったオランダにもそれがなくなってきている感がある。 様々な経済指標が芳しくないなかでオランダ首相はテレビでこのいい訳をし、拠出金は長期融資であるからどれくらい長期になるかわからないものの必ず返済させると言うものの、それはむなしく響く。 それは、自国の経済、金融、福祉が圧迫されていく中、まだこれから何回こういうことをしなければいけないのか、先はみえるのか、という恐れと、このサイズでギリシャが破産するなり、ギリシャのユーロ離脱となればその波及効果でたとえ返済されたとしてもそのときには不況のドミノ効果が押し寄せここにも及ぶ経済津波被害を防ぐという意図があるから、ここでもまた、退くに退けないジレンマの中にある現在を再確認する結果となっている。何か辛抱ゲームをしているような感がある。 今退くと他にもスペイン、ポルトガル、イタリアのような国がギリシャのあとに待っている。 ギリシャをやめたとしてもギリシャを切りとってそれで外科手術が済むということではなく、それがユーロ圏、 EU の体を大きく衰弱させ、重症の患者にも見られるようにその心理効果が一挙に臨終へと続くということになりかねない。
昨日のニュースでは経済優等生だったオランダの就職を巡る現在、20歳であれば失業してもほぼ2ヶ月以内には職を見つけられるものが55歳以上になると失業すればほとんど再就職の可能性がない、というような統計が出ていた。 この時代、還暦を過ぎ、25年以上働いてきた今の職場もあと2年ほどで完全定年退職となるけれど今になってこういう状況を経験するとは思いも寄らなかった。 自分はなんとかすり抜けたという感があるのだがもし自分がもし今より20歳わかかったら、と思うと当時の楽天的な気分に暗雲が立ち込めるのが想像できてこれが時代の気分となるのだ。
こんなことが小銭入れの中を通過するギリシャコインを眺めていて思われるのだ。 時代の空気が財布の中に浸透し、生活にも影響しているのを思うのだが、一方、果たしてギリシャコインが小銭入れから消える日がくるのかどうか、そこにも思いが行き、それももホラー映画の序章のように想像もできるのだが、それはあくまで映画のこととして、いまのところはただのシナリオとしてだけ考えることにするのが心の平安を保つ助けにはなるだろう。 コインにある肖像の主は18世紀の革命家らしいが今そういう人がギリシャから出るとすると、ギリシャは今ではユーロ加盟国であるのだからその革命の思想、哲学はギリシャ一国だけのことを考えているのだけでは駄目なのであって遍く世界を含むものでなければならないだろう。 この18世紀の革命家が今ここに出てくればどんなことを言うのだろうか、と思ってもみるがそんなことを言っても詮無いことだ。