暇つぶし日記

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Hermine Deurloo Trio with Jesse van Ruller

2014年04月22日 16時23分22秒 | ジャズ


Hermine Deurloo Trio with Jesse van Ruller

at Tuinzaal in Leiden, The Netherlnads

Sat. 12 April, 2014

Hermine Deurloo;      chromatic harmonica
Tony Overwater;       acoustic bass, electric bass
Joshua Samson;       percussion, hang, morsing
Jesse van Ruller;     Gibson ES 335 guitar

地元のジャズ同好会が45周年のシーズン最後のプログラムとして招待したのは女性ハーモニカ奏者、ヘルミネ・デューローのカルテットだ。 彼女はもともとサックスを吹いていてオランダのジャズ史では欠く事ができない革新的ジャズ集団、Willem Breuker Kollektief のメンバーとしても在籍していたことがある。 30年以上前に初めてこの集団を聴いた時にはヨーロッパのチャーリー・ミンガスバンドだと思った。 実際それぞれ個人としても優秀なメンバーを吸引力の強いサックスの Willem Breuker が率いるフリージャズを中心とした万能ジャズバンドだったのだ。 様々なフォーマットを縦横にそれぞれメンバーが入れ替わり立ち代り限りなく続くようなアドリブを披露しそれにウイットの富んだオーケストレーションでバックが盛り上げるというジャズ過剰のてんこ盛り集団だった。 リーダーの Willem Breuker は作・編曲、組織と文化政治的にも力のある人だったからオランダのジャズ文化政策には大きく貢献し、ある意味、現在オランダに若いジャズミュージシャンの卵たちを引き寄せる音楽教育の基を作った一人だったと言えるかもしれない。 現代音楽の雄 Louis Andriessen との親交もジャズ・現代音楽をジャズに基地をおいて行き来するコンセプトに影響していたのだろう。 2012年の没後このグループは解散された。

彼女はもう7,8年まえだっただろうか、この日の会場の上にある大きなカフェでトランペットの Kurt Weiss がビッグバンドを率いて演奏したときに客員奏者として満員のホールの自分の目の前6,70cmのところで聴いたのだったが間近に見るのと数メートル離れて見るのとは印象が大きく違って女性ハーモニカ奏者ということで今回を記憶新たにしたのだった。

このコンサートはギターの Jesse van Ruller を迎えて彼女の初リーダーアルバムのプロモーションとして巡業ユニットになるものだ。 自作の Glass Fish をタイトルとした CD のクレジットは次のようだ。
 
Hermine Deurloo; Glass Fish

CHALLENGE CR73353
Recorden in Germany in Feb.,2012

1 Benny's Dream (Larry Golding)
2 Ode For Tomtem (Gary Peacock)
3 Almost Always Never (Tony Overwater)
4 Zombi Zua (Misha Mengelberg)
5 Fleurette Africaine (Duke Ellington)
6 Glass Fish (Hermine Deurloo)
7 Mein Junges Leben Hat Ein End (Anonymus)
8 October In Oosterpark (Hermine Deurloo)
9 Venice Cowboy's (Jesse van Ruller)
10 Anna Virus (Tony Overwater)

ヨーロッパでジャズ・ハーモニカというと特に出身地のべルギーとオランダでは誰もが知る最近90を越え引退を表明したトゥーツ・シールマンスを避けては通れない。 アメリカのブルースハープは別としてクロマティック・ハーモニカはその音色と物理的構造からシールマンスの呪縛を離れがたい。 それほど一般的にその音色を聴くとそれだけでシールマンスと判断されがちだからだ。 ポピュラー音楽や映画音楽として効果的に使われてきてジャズとなるとシールマンス独占だったものの中にどのような差異化を持ち込むかというところがジャズハーモニカ奏者としての課題でもあったのだろう。 そのために情緒に流れがちな音色に抑制をかけ現代ジャズのイディオムを探っているようにも聴こえる。 

自作の6,8に加えベースの Overwater による3,10と 客演の van Ruller による9がメンバーによるもの、他はそれぞれ作曲者に興味深い名前が並ぶ。 取り分けエリントンの5がいつまでも頭に残った。 休憩中にそれぞれ奏者と短い会話をしていて初めて見聞きする楽器であるハングというものについてジョシュア・サムソンに訊いた。 今世紀になってスイス人によってつくられた比較的新しい楽器でカリブ諸島などで使われるスチールドラムの椀状の部分だけを二つあわせたような形で、UFOのようなそんな楽器を膝の間に挟んで手で叩き撫でるようにして音を出す。 穏やかなスチールドラムのようでガムランの音にも共通するような不思議な音色だ。 司会者はその音色をエロチックでもあると表現した。 規則的に椀の部分を巡って一定の音の領域が作られ音階によってはほかのUFO状の楽器が2つ、3つ見られそれを使う。 ハングというのはぶら下げる、というようなものかと思っていたらスイス方言で「手」という意味でどちらかというと叩く打楽器とは見ないようだ。 それはピアノが打楽器の部類にいれられているのと同様だからだろうか。 このアルバムでは1,5、7などでは効果的にこれが響いている。

表題の6は客員の van Ruller を交えての好演だとおもう。 ハングと同様サムソンが用いるのは口に挟んで人間の骨と口腔を楽器にする  morsing であり、これは昔フォークソング運動で紹介されコミカルな音が特徴的だったように思う。 それはまだ日本的な湿っぽい私小説的四畳半フォークが隆盛となりテレビに出るようになるまえの60年代のフォークソング運動でのことで効果音としてどこかオーストラリアのカンガルーが跳ぶ音を真似たようなものでもあった。 ここでは van Ruller のカントリーを思わせるギターと相性がいい。 van Ruller のカントリーといえば何作か前のアルバム「チェンバートーンズ」で カウ・デイジー というカントリー風の愛らしい曲があった。 そのときはGibson ES 335 guitarを普通に使っていたものが9ではもっとスチールギターの音色を強調してエコーもかけ彼のカントリーになっている。 このところ van Ruller に会わなかったので消息を尋ねると男児の父親になったのだという。 だから活動を家庭中心に組んだらこうなったのだと今まで見せなかったような穏やかさを見せた。 それが彼の演奏に影響しているのかどうかはこのプロジェクトの成果が全体に丸みのある音作りからは判断しがたいものだった。 それもこのクロマチック・ハーモニカという楽器とリーダーの女性性の表れなのだろうか。