きのう、塔の2月号がポストに入っていた。入会して20年以上が経つというのに、ポストに塔を見つけると嬉しい。そして、やさしい色と肌触り(そんなに特別な封筒ではないと思うのだけど)の封筒を開けるときはいつもわくわくというかどきどきする。
1月号を読み切れないままに2月号が来てしまったけれど、それはそれでもういいのだ。1月号は諦めて2月号を読み始める。退会する人のうちの何パーセントかは全部読み切れないからとか、次々に来て負担になるからという人がいると思うけれど、全部読もうとしなくても大丈夫だよ、と言ってあげたい。
秋から冬にかけて、批評会2つに出たので、顔のわかるひとが増えた。お話ししたひと、挨拶したひと。それからはこういう歌書かれるんだなと思って読む。
まだもちろん途中だけれど、心にとまった歌。
・四十九日の法事が済んで祭壇に小さな位牌と写真が残る 森尻理恵
・介護過労で壊れたるひと逝きしひとわれのめぐりに五人は数う
・がんのわれが潰れずに済んで良かったと葬儀のあとに息子が言いぬ
森尻理恵さん。亡くなったお母さんも塔の歌人で息子さんもそうだ。ほんとうに介護というのは大変で、私たちも最近壊れかけたから身に染みる。かわいがってくれた祖母の死だけれど、それよりも母が潰れなくてよかったという息子さんの気持ちを思うとなんだか泣けてくる。
・月に一度母を訪ねて百万回聞いた話の百万一回目を聞く 小林信也
・「九十二まで生きる」が翌朝「九十五」に変はつて母の寿命延びたり
・看板のCuttingのt一つ足らぬ床屋に通ふキュートになるため
小林信也さん。信也さんもお母さんは歌人。施設に入っておられるのかな。なんだかお母さんに寄りそう感じに余裕を感じる。やはり男性が看るお母さんというのは優しいのかなぁと思う。床屋の歌は楽しい。キュートになってください。
・ケアハウスの隅に小さく稲荷神社玩具のようでも毎日拝む 藤井マサミ
・小さくても毎日拝めばわが魂入りゆき大きくなるにちがいなし
・毎日を拝めば魂入りゆきて小さき社もずっしりとする
・やや古び蜂が巣にする稲荷神社賽銭入れてあわてて逃げる
・寒い間は風と競って走って行き急いで拝み走って帰る
藤井マサミさん。藤井さんは90代の大先輩で歌が大らかで毎月楽しみに読む人のひとり。生き生きとしたケアハウスでの暮らしに勇気づけられる。稲荷神社に自分の魂を入れて大きくしようという気概がすごい。
・もうやめたい仕事帰りのガマの花黒糖ドーナツ棒に似ている 上澄眠
・子も親も空を眺めて立っていた田を越えてくる夏の夜風に 荻原伸
・なんらかの装置を秘めて箱のあり線路に近く草覆われて 相原かろ
・友だちの転職の話聞いている月が赤銅色の間ずっと 逢坂みずき
私が惹かれる歌は情景の詳細とか感情のひりひりしたものよりも、息を吸うようにすうっと入ってくる歌。どこかにほっとできる空間なり場所なり時間が歌のなかにあるのがいいと思う。
いい歌に出会うと、歌が作りたくなってくる。 きょうは月詠草を作ろう。