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いつでも君のこと好きだったよ

谷口純子歌集『ねずみ糯』

2016-01-18 20:56:19 | 日記

 きのうは塔の校正作業でした。そのあと新年会があり、帰りは谷口純子さんといっしょに帰りました。

 

 ふたりで話すのは久しぶりで、月と600円の会とか旧月歌会で顔をあわせているのに、「元気だった?」と言われて、「元気でしたよー」 塔の50周年のときにいっしょにスタッフとして関わって、なつかしい記憶を辿りながら、「あのとき10歳やった子が21歳ですもんねぇ」と感慨にふけっていました。

 

 昨年の秋に谷口さんの第二歌集『ねずみ糯』を読んで、またお正月に読み、またきのう寝る前に読んでいました。 

 

 ・進駐軍のプールなりしがゲル状に両生類は卵産みおりき

 ・折節にこの世にふいとあらわれる物干竿売り風がはこぶ声

 ・手品師の助手は小柄な女なれど何かに耐えてきた腕の筋肉

 ・棒だらを選んでもらう指先もむっちりとしたここの店長

 

 谷口さんの歌は、ものを見た瞬間に掴んだことがとても自然に手渡されます。 「進駐軍のプール」。 市民プールや学校のプールとは別の影を持ったプール。 そこにカエルでしょうか。 卵が産み落とされていた・・・ カエルと言わずに「両生類」と言い、それが「ゲル状」だったと言います。 子供のころに見かけた「なにか恐ろしいもの」の気配がそこに潜んでいるようです。その伝えにくい気配をこんなふうに再現されると、見たことがないのに自分も見たような気になります。

 

 物干竿売り、手品師の助手、棒だらを選ぶ店長。 歌集のなかに現れる人々がそれぞれ個性があって、映画の配役のようにその場面にぴたっと嵌っています。 手品師の助手の歌は歌会ではじめて読んだのですが、下の句の「何かに耐えてきた腕の筋肉」というものの見方に驚いたことを覚えています。

 

 この歌集の一番心に沁みこんできた歌は、

 

 ・知るまえの時間にもどれ「半年で別の世界に行くかもしれない」

 

 という歌です。 夫君が重い病にかかり、それを知ったときを境に別の時間が流れ出します。 

 

 ・物語の王子のように紙おむつしっくりと似合うベッドの君は

 

 なんて悲しくて、優しくて、愛情に満ちた歌なんだろう。 この歌を読むたびに涙が流れてしまいます。

 

 ・蟬声のはげしかりけり人の世をくるしみながら君抜けし夜

 ・夏帽子すこしうつむく日盛りの言葉にすれば本当になる

 ・ひるどきの弁当を買う人の波この世にあらぬ君を想えり

 

 気をゆるせば溢れだしてしまう悲しみが抑えられているから、読むほうはさらに悲しくなります。

 

 ・透明な浄き身体を手に入れて空の高みに吹かれているか

 

 いつでも読めるよう、傍においておきたい歌集です。

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