自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

備蓄ワクチンと国費の無駄遣い~誰も責任を取らない中空構造③

2015-02-05 17:11:13 | 中空構造
 前回のブログ「国・県の水牛農場冤罪事件を許すな!」で、「口蹄疫発生確認後1週間以内に使用しない国内備蓄ワクチン購入は、明らかに不法な予算要求である。また、口蹄疫発生確認後1週間以上経過して緊急ワクチンの輸入をしていないとすれば、これも備蓄抗原の保管に違法な予算を使用していることになる」と指摘したことについて質問をいただいた。ワクチンについてはウイルス感染とワクチン等多くの解説をしてきたが、この指摘については私自身も最近気がついたことで、関心の向け方がちょっとズレると物事は見えなくなるものだ。ここでは重複になる部分が多くなるが、備蓄ワクチンと国費の無駄遣いに視点を向けた解説をしたい。

 まず、2007年英国の口蹄疫発生時の対応について、前回は疫学調査と全頭殺処分の問題に視点を向けた解説をした。今回は備蓄ワクチンの解説としても読んでいただくために、口蹄疫発生確認後5日でワクチン接種が可能な待機態勢に入っていることを、8月発生と9月再発生の部分を赤字で強調して日付も本日に変更しておいた。2007年当時に英国を含むEUでは、口蹄疫発生確認後に直ちにワクチン接種を準備している。ところが2010年の宮崎口蹄疫では口蹄疫発生確認(4月20日)後1ヶ月も経過(5月18日)して、牛豚等疾病小委員会ワクチン接種と殺処分を決めている。

 英国でワクチン接種態勢に5日で入るのは、口蹄疫発生を確認したら直ちにウイルスの遺伝子検査を1日で実施し、ウイルス増殖を最も抑制(感染拡大を阻止)できる効果の高いワクチンを英国にあるワクチンバンクに世界共有で保管してある濃縮抗原から選択して3日程度で製造できるからである。これに口蹄疫発生周辺にワクチン接種をする態勢を準備する日を加えても5日程度でできる。日本では空輸の期間を加えても1週間程度でワクチン接種態勢は準備出来るはずである。実際にワクチン接種をするかどうかは、疫学調査で感染拡大の状況を把握して決めるが準備だけはしておく必要がある。

 ワクチンと濃縮抗原の違いについては、動薬検ニュースに次のような説明がある。口蹄疫ワクチン(口蹄疫予防液)の製造過程において、濃縮・精製された不活化濃縮抗原の段階のものを予防液(ワクチン)に調整することなく液体窒素に長期保管するのがワクチンバンクであるとし、ワクチン製造の次の工程を説明している。
 ①口蹄疫ウイルス浮遊液の調整
 ②口蹄疫ウイルス浮遊液の不活化
 ③不活化ウイルスの濃縮・精製
 ④口蹄疫不活化濃縮抗原の保管(ワクチンバンク)
 ⑤口蹄疫予防液の調整

簡単に言えば口蹄疫ウイルスを培養、不活化、濃縮・精製したものが濃縮抗原で、これを保管しているのがワクチンバンクであり、使用前にオイルや乳化剤で調整したのが予防液(ワクチン)である。濃縮抗原は保存期間が長いので、あらかじめワクチンを製造しておくのは、口蹄疫発生後に直ちに使うため以外に理由はない。

 備蓄ワクチンとは日本に保存しているワクチンのことで、英国のワクチンバンクに保管している備蓄抗原とは違うことを認識していただきたい。しかも、口蹄疫発生確認後1週間でウイルスの増殖を抑えて感染拡大を阻止できる最適なワクチンを英国のワクチンバンクから輸入できるので、口蹄疫発生確認後1週間以内に使用しない備蓄ワクチンの購入は必要ないし予算の無駄遣いである。その一方で、緊急ワクチンの製造、輸入をしていないとすれば、備蓄抗原の保管を日本が分担していることも予算の無駄遣いとなる。

 現在、口蹄疫について科学的に解説しているのは、山内一也先生の連載が削除された時期があり、動物衛生研究所の報告の一報だけとなっていた。これは日本獣医師会雑誌Vol.58 No.3 (2005)から転載されたものだが、現在は動衛研報にさらに転載されたためかWebからは削除されている。しかも最初は山口獣医学雑誌.第24号,1~26頁,1997(Yamaguchi J. Vet Med., No. 24: 1~26.1997)に掲載されたものであり、20年近く前の知見である。

 その論文の「おわりに」で、「口蹄疫には、伝染力が強い、宿主域が広い、早期発見が難しい、及び、ワクチン効果に限界があるなどの防疫上の基本的な問題があり、--- ワクチンを使用しない完全な口蹄疫清浄国の立場を保つことが、国内畜産業の安定の前提になっている」とあるが、この口蹄疫防疫方針は今も化石のように変わらず、世界の動向を無視した研究と行政の遅滞が国民に大きな被害を与えている。


初稿 2015.2.3 2015.4.5 更新

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