子どもの味覚に“異変”
10月21日 18時05分
「甘味」や「苦味」といった子どもたちの「味覚」に関して、気になるデータが初めて明らかになりました。
専門家が子どもの味覚を調査したところ、およそ3割の子どもが「味覚」を正しく感じることができていないというのです。
子どもの味覚に何が起きているのでしょうか。
社会部の山屋智香子記者が解説します。
子どもの味覚調査で明らかに
東京医科歯科大学の植野正之准教授の研究グループはおととし、埼玉県内の小学1年生から中学3年生までの349人を対象に、「甘味」や「苦味」など基本となる4つの味覚を認識できるかどうか調査を行いました。
その結果、「酸味」を認識できなかった子どもは全体の21%で、「塩味」は14%、「甘味」と「苦味」については6%の子どもが分からないと答えました。
また、いずれかの味覚を認識できなかった子どもは107人と全体の31%を占めました。
子どもの味覚の実態が明らかになったのは初めてです。
鍵は食生活?
味覚を感じるのは舌にある「味らい」と呼ばれる器官で、味らいは10歳前後に発達するため、この時期の子どもの味覚は最も研ぎ澄まされていると言われています。
なぜ味を感じやすいと言われる子どもの間で、その力が低下しているのでしょうか。
研究グループの調査ではある共通点も明らかになりました。
味覚を感じることが出来なかった子どもは、加工食品などの味の濃いものや、人工甘味料を使った飲み物などを頻繁に口にしていたのです。
植野正之准教授は、「味覚が認識出来ない子どもがこれだけ多くいたことは驚きだ。味覚は子どもたちの食生活に関係しているのではないかと思う」と話しています。
研究グループの調査に参加したさいたま市の江部賢人くん(9歳)は、しょっぱい味を苦いと感じるなど3つの味覚を感じることができませんでした。
賢人くんの好物はハンバーグやフライドポテトなど味が濃く脂っこい食べもので、母親のまどかさんは賢人くんに食べてもらえるようケチャップやマヨネーズを使った味の濃いメニューをつくることが多いということです。
まどかさんは、「子どもたちが好きなので、味の濃いものを作りがちですが、子どもが味覚を失うことに影響しているのなら薄味のものを作るなど気をつけていきたいです」と話していました。
味覚の”異変”生活習慣病にも
味覚が感じられなくなると子どもたちが生活習慣病に陥る危険性も指摘されています。
新潟市の生活習慣病の専門外来に通っている三富悠暉くん(9歳)は、肥満と診断されています。
悠暉くんは薄い味よりも塩味の強い食べ物を好みがちだといいます。
クリニックに通い始めたころの悠暉くんの1週間の食事をみるとウインナーやコロッケなどの加工食品や塩気の多いメニューが並び、野菜はほとんどとっていませんでした。
両親とも仕事で忙しく、手軽に取れる食事に偏っていたということです。
悠暉くんの主治医の早川広史医師は、味の濃い食べものをとり続けると薄味のものに満足できなくなり、ますます味の濃いものを好むようになってさらに、濃い味は食が進みやすいため、量も増え、肥満などの生活習慣病を引き起こすおそれがあると指摘しています。
悠暉くんは栄養士の食事指導を受け以前に比べると味の薄いものでも満足できるようになり、適正な体重に近づいています。
早川医師は、「味覚は健康と深い関係があります。幼いころから味覚を育てるためには、バランスのよい食事を取ることが必要で、将来的には生活習慣病の予防にもつながります」と話していました。
どう育てる子どもの味覚
子どもたちの味覚を育てようというユニークな取り組みも始まっています。
全校の小学校に各国のシェフが訪れて子どもたちに素材そのものの味を楽しんでもらおうというものです。
今月20日東京渋谷区の小学校で行われた授業では子どもたちがフランス人のシェフと一緒にレモンやチーズなどの味を食べ比べました。
授業を受けた子どもは、「しょっぱいとすっぱいと甘いが全部重なり合っている」とか「1つの食材からいろんな味を感じられた」などと新鮮そうに話していました。
子どもの味覚に関する調査はまだ始まったばかりで、今後、なぜ味覚が感じられなくなるのかその原因を探る研究が進められるということです。
「味覚の秋」を迎え食べ物がおいしい季節になりました。
この機会に家族で食卓を囲み子どもの味覚を育てることについて考えてみてはどうでしょうか。