チューリヒ、そして広島

スイス・チューリヒに住んで(た時)の雑感と帰国後のスイス関連話題。2007年4月からは広島移住。タイトルも変えました。

ルンド滞在記(5)

2008年08月17日 10時30分10秒 | Weblog
日本だと、学会の会場に本屋さんが出店をしているということがよくあります。国際新約聖書学会の会場でもそうでした。ただし出店していたのは本屋さんではなく、出版社。

会場には有名な出版社のブースが並んでいます。ドイツはテュービンゲンのMohr Siebeckが早速目についたので行ってみました。僕の博士論文もここから出してもらっています。印刷用の下版を自分でパソコンを使って作る、初版印税はなしという条件でした。10年以上も前の話、世に出たばかりの「ウィンドウズ95」(懐かしい!)を使って、四苦八苦しながら作ったことが思い出されます。

他にも、ベルリンのWalter de Gruyter(デグロイターと読むらしい。バウアーのギリシャ語辞典やネストレ版のコンコルダンスを出していることでも有名)や、ゲッティンゲンのVandenhoeck & Ruprecht(マイヤー註解の出版社、と言わなくてもあまりにも有名。追記(8/17):佐竹明先生の黙示録註解、いよいよ9月発売との予告が出ています)、ノイキルヒェン・フリューン(Neukirchen-Vluyn)のNeukirchener(EKK註解の出版社)、オランダはライデンのBrill(雑誌 Novum Testamentum の他、Der neue Pauly の英語版や Encyclopedia of Judaism などの事典類も多い)、イギリスからはCambridge University Press(国際新約聖書学会編集の雑誌 New Testament Studies はここから出ています)なども来ていました。

どの出版社も、学会特別価格ということで、定価の2割引から半額で本を販売しています。日本では(再販価格維持制度のせいでしょうが)見られない光景です。思わず手が出そうになる本がいくつもありましたが、予算も限られている上、日本まで持ち帰る大変さを考えたら、二の足を踏まざるを得ませんでした(本の重さはバカに出来ません)。

それでも持ち帰ってきたのが、上の写真の2冊。というのも、右の The Ancient Synagogue (CB.NTS 39, 2003) は何と小さなテーブルに山積みされており、「ご自由にお持ち下さい」との貼り紙つき。多くの人が半信半疑で見つめては、おそるおそる持ち帰っています。どうやら編集者(Birger Olsson & Magnus Zetterholm)の好意によるものだったようです。値段を調べると、なんと99ドル50(ペーパーバック版)。570ページもある分厚い本でしたが、頂戴しない手はありません。

左の Tommy Wasserman: The Epistle of Jude: Its Text and Transmission (CB.NTS 43, 2006) は、会場で「この台の本すべて10ユーロ!」と書かれた机の上にあった1冊です。なんか投げ売りっぽいな、と思いつつ、ユダの手紙(「ユダの福音書」ではない!)についていずれ詳しく調べたいと計画していることもあり、喜んで買いました。ネットで調べてみると、古書で79ドルの値がついていましたから、これもかなりのお買い得です。

「なんか投げ売りっぽい」という印象が当たっていたことを知ったのは、この記事を書くためにネット検索をしていたときです。 上の2冊が入っている Coniectanea Biblica (CB) という叢書を出しているのは、スウェーデンの Almqvist & Wiksell International という出版社ですが、どうやら2008年1月に営業を終了したらしいのです。それで、この本も、また先ほどの The Ancient Synagogue も、著者が在庫を抱えることになったのではないかと思われます。

The Epistle of Jude は著者である Tommy Wasserman 氏の学位論文ですが、この人、なんと学会の会場にいました。地元スウェーデンでの開催ということで、スタッフの一員として運営を手伝っていたのです。支払いを済ませた僕がこの本を手にしているのを見ると、「あ、それはオレの本だ! 買ってくれたの? わぁ嬉しいなぁ」と、いきなり背後から迫ってきたから、もうびっくり。サインまでしてくれました。



ちなみに、北欧の神学部では学位論文はほとんどの場合、英語で書くそうです。以前はドイツ語のものもあったように思いますが、最近はどうなのでしょう(尋ね損ないました)。でも、聖書学の分野でも、確実に「英語化」は進んでいると、今回の学会でも感じました。