鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

菊に馬図鐔 吉久 平安城象嵌 Yoshihisa Tsuba

2020-12-17 | 鍔の歴史
菊に馬図鐔 吉久 平安城象嵌 


菊に馬図鐔 吉久 平安城象嵌 

 江戸初期の京都の金工、吉久の在銘作。真鍮地の馬と菊が、素朴な彫口で高肉に表現されている。鉄地は、刀匠鐔のような簡素な板鐔。甲冑師や刀匠鐔に、新たな意匠を加えて装飾性を高めようとする意識は、後藤家等の高級武将に仕えていた金工に刺激されて現れたものであろう。古くは古金工と汎称される系統の不明な金工などが活躍しており、いずれも唐草や菊花などの植物図を文様表現している。この古金工の中から鉄鐔に装飾を求めるべく創始したものか、甲冑師などが創造性を高めたものかは不明。ただし、『金工辞典』に、弘治年間の京都に、「御金具処吉久奉行石見守」と銘のある桐紋図葵型鐔がある、と記されている。記載の作品を実見していないのでわからないのだが、同じ京都で活躍した年代の近い金工である。本作の吉久はこの系統ではなかろうか。とても興味深いところである。平安城象嵌鐔の、貴重な在銘作である。

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