鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋草図鐔 金沢住水野作 Mizuno Tsuba

2019-11-15 | 鍔の歴史
秋草図鐔 金沢住水野作


秋草図鐔 金沢住水野作

 秋草は広く好まれた題材。この鐔は、正確な構成からなる図柄を精巧で緻密な高彫で表現している。とても洒落た作品。平象嵌を駆使した作品の多い加賀金工にあり、後藤家に学んだものであろう、赤銅魚子地高彫色絵の繊細な作風を得意としたのが水野一門のようだ。在銘作は多くはないが、このような秋草に虫図は典型と言ってよいだろう。加賀後藤の流れの一つである。

紫式部図小柄 後藤程乗 Teijo Kozuka

2019-11-14 | 鍔の歴史
紫式部図小柄 後藤程乗


紫式部図小柄 後藤程乗

 着物が掛けられた衝立が描かれることがある。衝立の向こうに誰がいるの?といった意味合い。上野小柄は、執筆中の紫式部を描いたものと思われる。下はまさに、誰が?何を?といったところで深く追及しない。この画面構成が雅であり、加賀後藤と分類される所以である。


誰が袖図小柄 後藤程乗

合戦図目貫 加賀後藤 Kaga Menuki

2019-11-13 | 鍔の歴史
合戦図目貫 加賀後藤


合戦図目貫 加賀後藤

 作者が加賀後藤の誰とも決定できない作品も多い。後藤の伝統を守りつつも、新しい画題を開発しているようなのが、この夜釣りの福神を描いたものと思われる二所。岩恵比寿という画題が後藤家の伝統にあり、それを下敷きとしているのであろう。恵比寿が釣り船で魚の当たりを待っている様子だが、どうやら釣れそうもないといった雰囲気が面白い。釣竿に、今でいうところのリールが付けられているのが興味深い。

門付け芸図小柄 後藤程乗 Teijo Kozuka

2019-11-13 | 鍔の歴史
門付け芸図小柄 後藤程乗




門付け芸図小柄 後藤程乗

越後獅子、鳥追など正月の街角を彩る門付け芸が題材。金の魚子地に金の塑像を据紋しており、色鮮やかにして風格もある。拡大写真を見てほしい。精巧で緻密な彫刻により、小さな人物の塑像ながら身体に動きがあり、表情がある。程乗の技術、細やかな作風が理解できる作品である。



十二支図目貫 後藤顕乗 Kenjo Menuki

2019-11-12 | 鍔の歴史
十二支図目貫 後藤顕乗




十二支図目貫 後藤顕乗

 金無垢地の目貫は、そもそも華やかな素材だが珍しくもない。獅子や龍の図の目貫が伝統としてある。図柄が、この狭い空域に十二支を描き込むという発想からなる図柄に華やかさが感じられる。これが加賀後藤の風合いとでも言えようか。


日枝山王祭図小柄 後藤顕乗 Kenjo Kozuka

2019-11-12 | 鍔の歴史
日枝山王祭図小柄 後藤顕乗


日枝山王祭図小柄 後藤顕乗

 何度か紹介している、加賀後藤らしい華やかな作。今更説明も不要だろうが、簡単にいうと、平安時代、比叡山の僧兵が、強訴という形で京に押し寄せた歴史がある。その様態が祭りとして遺されているのである。緻密な描写が魅力で、人物の多さも特異。後藤らしさを備えながらも、かなり超越している。

合戦図小柄 後藤程乗 Teijo Kozuka

2019-11-11 | 鍔の歴史
「加賀後藤」と分類される作品群がある。銘に「加賀後藤何某」と記されているわけではなく、後藤家の中でも加賀前田家に出仕し、加賀金工の発展に貢献した後藤程乗など後藤家の諸工、およびその影響を受けた加賀の金工の手になるもので後藤風の作品を指す。造り込みなど後藤の作風であることが基本だが、後藤本家の作風に比較して華やかであるという特徴がある。それゆえ、無銘の後藤の作で華やかだと加賀後藤と極められることが多い。
加賀前田家に出仕した後藤家の金工を挙げると、以下のようになる。
琢乗:宗家五代徳乗の子で、喜兵衛家二代目。覚乗:宗家四代光乗の孫で勘兵衛家初。演乗:勘兵衛家二代目。
顕乗:徳乗の子で理兵衛家の初代。後に宗家八代目を継ぐ。程乗:理兵衛家の二代目で、後に宗家の九代目を継ぐ。悦乗:程乗の子で理兵衛家の三代目。
 比較的作品の多いのが程乗で、しかも頗る上手。人物描写に優れており、顔などは後藤風を下敷きにはしているが、その中にも表情が窺える。後藤の伝統を守りながらも、個性を示した金工である。

合戦図小柄 後藤程乗


合戦図小柄 後藤程乗

 上の小柄は源平時代の合戦の一つ、木曽義仲勢の巴が奮戦している場面。下の小柄は、源平合戦の中の、「箙の梅」と題される梶原景季奮戦の場面。主題である人物だけでなく、背景も描き、合戦の状況を説明している。このため比較的華やかに感じられる。特に箙の梅は、裏板にも工夫し、金の削継を施してより華やかに仕上げている。普通、裏板は見えないところ。ここにまで装飾を施しているのである。




源氏物語浮舟図三所物 後藤程乗 Teijo Mitokoromono

2019-11-09 | 鍔の歴史
源氏物語浮舟図三所物 後藤程乗


源氏物語浮舟図三所物 後藤程乗

 いけないことと知りつつ今の想いに流されてしまう…。『源氏物語』は、そんな恋の話ばかりだ。ボクは、この浮舟の話が『源氏物語』の中でも一番興味深く感じられ、作者の思いが最も強く入った作品ではなかったかと考えている。光源氏没後の、薫、匂宮、浮舟などが主題。物語の展開としては心理描写が面白いのだが、図柄としては、月が印象的に描かれているのがいい。月が見ているぞ、といった意味合いがあるのではないだろうか。『源氏物語』の背景を成す華麗な文化や恋物語に憧れているのではなく、世界に知られた古典的小説の核となる場面を捉え、恋に苦悩する浮舟の心理までも浮かび上がらせている図としているところがいい。技量が優れ加賀前田家にも仕えた程乗の彫技が冴えた作である。

小督と仲國図鐔 包教 Kanenori Tsuba

2019-11-08 | 鍔の歴史
小督と仲國図鐔 包教


小督と仲國図鐔 包教

 ここでも月は説明的だ。もちろん月はあったほうがいい。高倉天皇に寵愛されていた小督であったが、平清盛に疎まれて自ら身を隠してしまった。その小督を探し出すよう命じられたのが仲國。小督は琴の名手。仲國は笛を得意としていた。嵯峨野の辺りで「想夫恋」を耳にした仲國は、それが小督のものと感じ、自らの笛で調子を合わせたという。月の奇麗な夜のことであった。

熊坂長範図小柄 夏雄 Natsuo Kozuka

2019-11-06 | 鍔の歴史
熊坂長範図小柄 夏雄


熊坂長範図小柄 夏雄

 平安時代末期、源平合戦のころの伝説が題材。義経を援護した金売り吉次を襲うべく松樹から様子を窺う長範。だが逆に義経に討たれてしまう。伝説を題に得た夏雄の作品の中では最高傑作のひとつではないだろうか。風景の一部を切り取ることで洒落た空間美を演出することに優れた夏雄だが、このような伝説の場面を、いわば説明的に描いた作は比較的少ない。月は時空間を説明してはいるが、添景としても活きている。

梅に月図縁頭 政随 Masayuki Fuchigashira

2019-11-05 | 鍔の歴史
梅に月図縁頭 政随


梅に月図縁頭 政随

 寒々とした月。真冬の月である。梅が描かれているからそのように感じるのであろうか。我が国の季節を体で感じてしまっているのが理由であろうか。でも、月の描写にも朧な風情などなく、澄んだ空気にくっきりと見える真冬の景色を感じる。これもあり得ない図だ、などと言わないこと。

萩に月図小柄 柳川直時 Naotoki Kozuka

2019-11-05 | 鍔の歴史
萩に月図小柄 柳川直時



萩に月図小柄 柳川直時

 風景図が最も安心して見ることができる。季節の植物との取り合わせ。思想など何もなくただ眺めて季節を感じる。それだけでいいじゃないか。水に映った月がいい。流れがあるのだから月は揺れて映るはずである、などと言い出す人もいるかもしれない。月は心に見えているもの。即ち心象風景である。


武蔵野図鐔 赤坂 Akasaka Tsuba

2019-11-02 | 鍔の歴史
武蔵野図鐔 赤坂


武蔵野図鐔 赤坂

 ススキの草原に沈む月。先に紹介した鐔と同じ景色を、赤坂鐔工はこのように表現している。これも風景の文様化であり、古歌に詠まれた東国の印象とはこのようなものであったかと、改めて想わせるところもあるが、この作品では月が活かされており、図柄としても優れている。