鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

月見西行図鐔 政盧 Masayoshi Tsuba

2019-10-12 | 鍔の歴史
月見西行図鐔 政盧


月見西行図鐔 政盧

 歌人西行は花や月を題にした和歌を遺している。特に月の歌が多いことから、装剣小道具にも月見西行図があるほどだ。この鐔の人物を西行と断定する要素は見出せないのだが、舟に揺られて一人月を眺めている様子が風情ある図柄とされており、旅姿の西行が荒野に立って月を眺めるだけが西行ではないぞ、といった作者の思いがあるように感じられる。作者葛龍軒岩間政盧は浜野直随と浜野家三代目の誠信(鋪随)に金工技術を学んでいる。奈良流の精巧な彫刻と得意としている。真鍮地を活かした夕暮れ時の景色がいい。

西行図鍔 宜時 Yoshitoki Tsuba

2019-10-11 | 鍔の歴史
西行図鍔 宜時


西行図鍔 宜時

 歌枕を訪ねて奥州を旅した西行が主題。松島辺りであろうか、あるいは羽州象潟であろうか、出羽金工であれば象潟を眺める図としたと思われる。また別の海辺か。佇む西行の姿、裏面の釣り人、山陰に見え隠れする寺院の堂塔も様子が良い。海辺の懸崖に切られた細い道も景色となっている。宜時の傑作鐔の一つではないだろうか。□

二見ヶ浦図鐔 Tsuba

2019-10-10 | 鍔の歴史
二見ヶ浦図鐔


二見ヶ浦図鐔

伊勢の名所、二見ヶ浦の日の出。神々しいばかりの風景。初日の出を意識しているのであれば冬の海。少し波立っている様子が魅力。島国にとって海は未知なる遠い世界から何ものかを送り届け、あるいは伝えてくれるもの。だから鯛を釣る恵比寿の図が富を与えてくれるとして好まれた。自然の力強さ、自然神への感謝がこのような図には感じられる。単に海辺の奇麗な景色を描いたというだけではない。

松原図鐔 友英 Tomohide

2019-10-08 | 鍔の歴史
松原図鐔 友英


松原図鐔 友英

 友英は天草に居住した金工。松原というと、三保の松原を想いうかべるが、九州北部では、虹の松原(佐賀県)が有名だ。ことさら有名な松原でなくても、白砂青松の言葉があるように、日本各地の海辺には松があり、白い砂浜とのコントラストが日本美の一つとなっている。この鐔では個性的な樹相に表現しており、穏やかな海原のようすと調和している。

山水図鐔 清壽 Kiyotoshi Tsuba

2019-10-07 | 鍔の歴史
山水図鐔 清壽


山水図鐔 清壽

 海辺の捉え方に個性の感じられる東龍斎清寿の作。かなり高い山の上から海辺を見下ろしているのであろう、俯瞰の視線が山水風で、古典的視野とも言い得るが、表現は全くの新趣。高い位置の水平線、波立つ様子などにも個性が窺える。どこと特定できるわけではないが、風光明媚な、いわゆる観光地の一つであろう。

山水図縁頭 浜野政随 Masayuki Fuchigashira

2019-10-05 | 鍔の歴史
山水図縁頭 浜野政随


山水図縁頭 浜野政随

 山水の風景図を借りて、漁の様子を彫り描いた作。帰雁の群、近景の木々など、明らかに古典的山水。山水図というと、長州鐔工による中国風の山水図を想いうかべるのだが、政随のこの山水図には、江戸金工らしさというか、江戸好みというのか、日本的な漁師の姿が窺える。


水辺風景図鐔 長州萩住貞次 Saadatsugu Tsuba

2019-10-04 | 鍔の歴史
水辺風景図鐔 長州萩住貞次



水辺風景図鐔 長州萩住貞次

 埋忠派の作風に通じる、真鍮地に布目象嵌を施した作。精密な高彫や遠近感などの絵画の要素を含んでいるわけではないのだが、蛇籠、干網に帰雁のとりあわせが、真鍮地の色合いに同調して美しい景色となっている。埋忠風を手本としたもので、文様表現から次第に絵として完成されてゆくようなところが面白い。

海辺図鐔 Tsuba Masanori

2019-10-02 | 鍔の歴史
海辺図鐔  砂川正矩


海辺図鐔 砂川正矩

 これも程乗の小柄と同じ場面を捉えた作。下方に小さく地引網漁の様子を捉えているが、この鐔での主題は朝日の昇る頃の海辺の風景、といったところか。海辺というと日の出、日の入りで、日本的な景色の一つ。

漁師図小柄 後藤程乗 Teijo Kozuka

2019-10-01 | 鍔の歴史
漁師図小柄 後藤程乗


漁師図小柄 後藤程乗

 地引網というのであろうか、浜辺で働く漁師の姿を彫り描いた作。追われて網の中で跳ねる魚を添え描き、大漁の様子としている。先に紹介した二所のような和歌を題に得た美しい海辺の風景ではなく、人物が主題とされていることで、海と人間が直接つながっていること、同じ海で、同じように生き物がいるのだが、見え方が随分と異なることが再認識される。だが、このように漁師が描かれている装剣小道具は少ない。