鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

影蝶透図鍔 甲冑師 Kachushi Tsuba

2018-09-05 | 鍔の歴史
影蝶透図鍔 甲冑師


影蝶透図鍔 甲冑師

 影蝶と記したが、繭玉の方が良いのではないかと考えている、どうだろう。近世では正月飾にも用いられる繭玉は、その中から蛾が生まれてくる、即ち生命の発生を想わせる存在。それが繰り返されることの意味は、必ず訪れる正月、一年の始まり、永遠に栄えることを願った図柄ではないだろうか。この鐔は土手耳仕立てとされている。面白いことに、実はこの耳には唐草文が施されていた痕跡がある。次に紹介する線象嵌が施された平安城象嵌鐔と極めて近似していると思う。もちろん装飾の濃密さは比較にならないが。このような作例があることにより、次の鐔が大きな意味を持ってくる。35□




雷文図鍔 平安城象嵌

 下地は甲冑師の造り込み。鉄味も優れている。そこに角渦巻き文と耳に菊花文の線象嵌を加えたものであろう。工作は室町時代を下らない。平安城象嵌鐔の始まりである。前回紹介した、土手耳部分に唐草文の痕跡があると説明したが、即ち、この鐔の前段階に当たるのか、或いはこのような装飾が、室町時代の一時期に流行したのであろうか。以上二点は、装剣小道具の歴史を探る上で頗る興味深い作例である。26□