鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

梅樹図鍔 林 Hayashi Tsuba

2015-11-06 | 鍔の歴史
梅樹図鍔 林


梅樹図鍔 林

 耳の形状がはっきりとしないという点では肥後鍔などに見られる写真のような構成が良い例だ。特に松樹を意匠した作では、主題である松の背後に太陽が意識されているであろうことが想像される。ゆらゆらと揺れ動いているような、眩しい存在であり、遠見の松図では西に沈みゆく太陽のありようが鮮明に浮かび上がってくる。冬日の下で太陽を背後に梅の花を眺めると、夏のそれに比較して柔らかな光とは言え眩しい。透明感のある梅の花の背後の太陽は、改めて生命の源であることを感じさせてくれる。そのようなことを想わせる作である。


遠見の松図鍔 林

象図鍔 薩摩 Satsuma Tsuba

2015-11-05 | 鍔の歴史
象図鍔 薩摩


象図鍔 薩摩

 似たように歪んだ形だが、八角を基調とし、わずかに変形させている作。ちょっと見ただけでは象が描かれているとは思えぬ構成。江戸時代には象が運ばれて見世物とされていたという。物珍しさも加わっているのだろうが、巧みに彫り描かれている。時代の上がる伝聞からの描写による象は、かなり異風のものが多いのだが、この鍔の象は観察した上で描いたものと思われる。総体のバランスが良く、さらに、八角形の鍔の中に見事にまとめられている。鉄地高彫銀象嵌。

蝸牛図鍔 政随 Masayuki Tsuba

2015-11-04 | 鍔の歴史
蝸牛図鍔 政随


蝸牛図鍔 政随

 これも同じ効果が生まれているようだ。不定形な造り込みは、蝸牛の這った痕跡を想わせているのであろうか。鉄地を平滑に仕上げ、地面の下部に抑揚を付けて大地の様子を表現している。地造りはそれだけだ。一方で蝸牛は頗る精巧。銀の色調を活かし、殻の質感と色合いを表現し、図柄に生命を与えている。耳を変わり形に仕上げた中でも秀逸の作である。

竹に雀図鍔 石黒 Ishiguro Tsuba

2015-11-02 | 鍔の歴史
竹に雀図鍔 石黒


竹に雀図鍔 石黒

変わり形という意味では不思議な視覚効果があると言えるのがこの鍔だ。なんだかぼんやりとしており、輪郭が動いているかのような錯覚が生じる。おとぎ話を題の背景としているのであればその効果が出ていると言え、面白い。図柄は簡潔だ。竹林に雀だけで、他に何もない。背景が簡略化されて何も描かれていないのもいい。障子の破れた穴から覗き見ているような面白さもある。この不思議な感覚は、精巧で正確な彫刻表現が備わっていてのものだろう。