鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋野に兎図鍔 平安城象嵌 Heianjo-Zogan Tsuba

2014-07-05 | 鍔の歴史
秋野に兎図鍔 平安城象嵌


秋野に兎図鍔 平安城象嵌

以前に紹介したことがあるも、鐔の歴史を辿る上で頗る面白い存在であることから、改めて、応仁‐平安城象嵌‐江戸初期の諸金工と連続するであろう様子を眺めてみた。初期の応仁鐔の要素を多分に含む平安城象嵌鐔とは明らかに異なるが、真鍮の象嵌という手法を主にし、新しい所では銀や素銅などの色金を巧みに加えた彩色という点で絵画的な面に奥行を感じさせている。高彫手法も盛んに採り入れている。象嵌の落ちた部分の観察では、かなり深く彫り込んで象嵌の脱落を防いでいる。象嵌の表面には、単調な打ち込みだけでなく、毛彫、点刻などを加え、獣は獣らしく、植物は植物らしくというように、題材の持ち味が活かされるようになっている。図柄構成は、一部に鎌倉鍔と呼ばれる鋤彫鍔に似たところがあり、これも興味深いところ。本作意外に、本作と良く似た、同様の作風で同図の平安城象嵌鍔を確認している。明らかに金工としての個が感じられる作である。他にも現存するのではないだろうか。


紅葉図鐔 平安城象嵌 Heianjo-Zogan Tsuba

2014-07-04 | 鍔の歴史
紅葉図鐔 平安城象嵌


紅葉図鐔 平安城象嵌

 竜田川図と言っても良いだろう。和歌が背景にあり、装飾化された風景が読み取れる。桃山頃の作と考えているので、琳派の美意識とは関連もあろう。象嵌としてはかなり広い面積を持つ真鍮地を嵌入している。平象嵌と捉えれば良いのだが、手法は、脱落している部分の鑑賞では、意外に古い技法による処理で、さほど鉄地を寄せてはいないし、彫り込みも少ない。脱落した葉の一部の様子を見ると、端部が彫り込まれていて、中央は少し高い状態。一様ではないのだ。彫り込み部に変化を付けることによって脱落防止の要素としているのであろうか。真鍮地は薄いためか、割れが入り、そこから脱落したようだ。ところが、それが景色になっていて面白い。84.5ミリ。□

葡萄に栗鼠透図鐔 平安城象嵌 Heianjo-Zogan Tsuba

2014-07-03 | 鍔の歴史
葡萄に栗鼠透図鐔 平安城象嵌


葡萄に栗鼠透図鐔 平安城象嵌

 甲冑師鐔などが下地として考えられるという点では、この鐔も平安城象嵌鐔を考える上で面白い存在だ。薄手の鉄地板鐔は刀匠や甲冑師のように強みがあり、大透による葡萄と栗鼠の組合せだけでも楽しめる。これに線象嵌を加えて動きを出し、あるいは葡萄の蔓草を意図しているのであろうか、平坦な画面矣変化を加えている。さらに一部に葡萄の実を高彫象嵌している。象嵌はわずかながら存在感がある。意匠も面白いし、手法も興味深い。平安城象嵌も、流派のようなものではなく、一時代の流行のようなもの、と捉えれば分り易い。94.7ミリ。□

雷文散図鐔 平安城象嵌 Heianjo-Zogan Tsuba

2014-07-02 | 鍔の歴史
雷文散図鐔 平安城象嵌


雷文散図鐔 平安城象嵌

 下地は甲冑師鐔そのもの。薄手に仕立てて土手耳を設けている、鉄地鐔としても一級品。その全面に、細い線象嵌で雷文と耳際に菊花文を施しているのだが、手法はいたって簡素。鉄地を寄せることもなく、表面は平坦な仕上げ。それが理由であろうか、所々の象嵌が脱落している。平安城象嵌より明らかに古い手法であり、すると、さらには応仁より古くなると捉えて良いのだろうか。あるいはほぼ同じ頃に似た手法で、別に分類されるべき手法を用いた金工があったと考えるべきか。頗る面白い作品である。93.5ミリ。□

四方海鼠透図鐔 平安城象嵌 Heianjo-Zogan

2014-07-01 | 鍔の歴史
四方海鼠透図鐔 平安城象嵌


四方海鼠透図鐔 平安城象嵌

 二つ木瓜形が左右海鼠の意匠の類型として捉えられることがある。この鐔では四方に不定形の大透を施している。形の特定できないようなものだから海鼠などというも、微妙な、そして形の明らかでない状態に、瓢箪鯰の図のような禅に通じる問いかけがあるのかもしれない。鉄地に真鍮線象嵌のみで古風を狙ったものだろう、桃山頃から江戸初期の、傾き者の意識にも通じるところがある。80.7ミリ。