鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

山水図鍔 運齋壽一 Toshikazu Tsuba

2010-12-17 | 
山水図鍔 運齋壽一


山水図鐔 銘 文久二運齋壽一(花押)

近江八景図の一部を見るような、古典的な題材に取材した作。耳を額縁のように高く仕立て、その中に収められている絵画のように表現している。遠く眺める急峻な山とそれを包んでいる雲の様子、松樹など植物の描法に東龍斎派の個性が窺いとれる。特に雲間から覗き見るような構成に注意されたい。副士繁雄先生のまとめられた資料を拝見すると、壽一(としかず)は清壽の門人。地鉄鍛えは埋忠政秀の手になるもので合作。「宗義図應好」と添え銘がある。

富岳図小柄 良次 Yishitugu Kozuka

2010-12-16 | 小柄
富岳図小柄 良次製之



富岳図小柄 銘 良次製之

 東龍斎清壽の高弟高橋壽次(としつぐ)の門人、良次(よしつぐ)の作。額縁風に描き、富岳はその画面からはみ出すような構成。良く見かける図だが、松樹は東龍斎派の作風。このように、画面という意識が強く求められているのが東龍斎派の作風。殊に、清寿晩年からその弟子の作品に多く見られる。銀地高彫金赤銅色絵。


富岳図小柄 東龍斎清壽

2010-12-15 | 小柄
富岳図小柄 東龍斎清壽


富岳図小柄 銘 (東龍斎清壽花押)

 素銅地を背景に銀と金の真砂象嵌、片切彫で富岳を描いているだけで良くある手法にみえるのだが、拡大観察によってその違いが分かるであろうか、特殊な技法が用いられているのである。雪な銀平象嵌、富岳の姿態は片切彫、迫る雲と山肌は金の真砂象嵌。立波に水飛沫を左の空間に描き添え、波間からの遠望という趣向。この波間からの視線も新しい。富岳の山裾部分の片切彫の彫り込まれた面に、実は微細な石目地状に銀粉が散らされているのである。かなり拡大してみなければ分からない事実である。花押のみだが清壽の作である。


水龍図小柄 清壽 Kiyotosih Kozuka

2010-12-14 | 小柄
水龍図小柄 壽叟法眼


水龍図小柄 銘 壽叟法眼(花押)

 六十六歳晩年の作品。龍の表現も他に類例のない厳しい表情を強めており、構成も、渦巻く波を透かしを活かして表現し、波を掻き分けてというより水面をつかむような姿に強い個性が感じられる。裏面は稲妻状に削継している。

明け烏図鐔 藤原清壽

2010-12-14 | 
明け烏図鐔 藤原清壽


明け烏図鐔 銘 藤原清壽(花押)

朝日に浮かび上がる雲を背景に烏の飛翔する図。清儔としては比較的初期の作。いまだ、特異な風景図に挑んではいない頃。このような精巧で精密、構図も的確な作を遺しており、基礎のしっかりとした作家であったことが分かる。朧銀地高彫金赤銅色絵。

山水図鐔 Toryusai-Kiyotoshi Tsuba

2010-12-13 | 
 東龍斎清壽(とうりゅさい きよとし)の作意は奇抜という評価に尽きよう。自らの銘に「流自」あるいは「一家式」の文字を添えた点も、独創を突き詰めて、他の金工にはない、他工とは異なることを強く認識してのもの。題材は古典的な事物、歴史上の人物や伝説、龍などの霊獣、風景など様々ではあるが、果たして、松樹にしても梅花にしても龍にしても、類例なき風合いが作品上に漂っている。
 筆者は、それらの中でも風景図に興味を抱いている。ここのところ、文様化された風景図、心象表現されている風景図、琳派の美観を漂わせる風景図などを紹介してきたが、装剣金工の歴史を通し、それら心象表現された作品を大きく眺める意味で東龍斎派の作品群を紹介する。
 すなわち筆者は、この東龍斎派こそ、装剣金工の世界でも広く流行していた琳派の美意識を超えようとしていた工であると考えている。装剣金工の分野では、戦国時代末期の桃山頃に大きな変革期があり、埋忠明壽や金家がそれまでにない創造性を追及した。江戸時代中期には土屋安親が様々な要素を画題に採り、芸術性を大衆的な視野で広げ、江戸好みになる文様表現をより鮮明にした。そして次の段階が幕末の東龍斎派である。あまりにも特異な描写であることから好き嫌いが大きく分かれるところではあるが、その空間の創造性は頗る興味深い。


山水図鐔 銘 一家式 竜法眼壽(花押)

 まず鐔の造り込み、造形の奇抜さに驚く。お多福形だが、このような形はなかった。表の海原は遠く夕日の沈む様子、懸崖と白波、帆掛け舟で表現している。鐔の中央は大海である。一方裏面は、逆に海から陸地、遠く山並みの霞む様子を、やはり俯瞰の視線で描いている。絵画的には見えるも、各部を仔細に観察すると、松樹は独特の草体、人影も同様、寄せる白波はまさに文様風。なにより、鳥の視線であろうか、空間を見下ろしているような構成が優れている。

秋草に鹿図鍔 平安城 Heianjo Tsuba

2010-12-12 | 
秋草に鹿図鐔 平安城


秋草に鹿図鐔 平安城

 琳派以前から幕末まで、文様化された風景図、心象表現された風景図、琳派の美観を再現した図などを中心に紹介してきた。もう一度、本阿弥光悦と俵屋宗達以前に遡る時代の作例を見直してみたい。秋野に鹿図鐔は平安城透かしと呼ばれる京の鐔、芦雁図目貫は古美濃、秋野に兎図目貫も古美濃、秋野に鹿図小柄は古金工。
 わずか七センチ以下という限られた空間、しかも、ほぼ形が定められている空間を装飾しなければならないが故に、デザイン性が突き詰められることになった。一見して走り描きのような意匠、稚拙とも思える意匠だが、その背後には、計算された構図があることは間違いない。琳派に至るまでの美術を改めて見直すことを薦める。


芦雁図目貫 古美濃


秋野に兎図目貫 古美濃


秋野に鹿図小柄 古金工

牡丹図小柄 Kozuka

2010-12-11 | 小柄
牡丹図小柄


牡丹図小柄

 素銅地に赤銅による真っ黒な牡丹を高彫で浮かび上がらせた、異様ながらも美しい小柄。花蕊にのみ金を加えてその匂立つ様子を心象表現している。写実的な高彫表現で葉枝の風になびく様子に艶麗な風情があり、美しいといわれる花の王者たる存在感以上に、迫るものがある。素銅地に赤銅という素材の採りかたも大きな魅力であろう。

春蘭図鐔 長州友信 Tomonobu Tsuba

2010-12-10 | 
春蘭図鐔 長州友信


春蘭図鐔 銘 長州住人友信作

 美しい赤銅地の肉彫地透の手法で彫り描いた春蘭図鐔。鐔の造形をその優しく延びる様子で円形に構成しており、赤銅以外の色金は全く用いていない。一色であることから墨絵を想わせるが、清楚な色彩をも想わせる優れた感性が背後にある。なだらかな磨地の表面処理、その要所に毛彫が加えられており、光を受けて鮮やかに姿態が浮かび上がる。長州鐔工は多くが鉄地を専らとしているが、優れた赤銅製の鐔も遺している。

朧月夜に桜図鐔 Tsuba

2010-12-09 | 
朧月夜に桜図鐔


朧月夜に桜図鐔 無銘

以前紹介した事のある鐔だが、まさに琳派の美観を展開した作品。たなびく春霞を金の真砂象嵌で、月は銀の色絵、川面を鋤彫、桜花は高彫に金と赤銅の色絵。朧に霞んだ様子を見事に表現しているのだが、その描法は文様化の極み。

梅樹図鐔 橋本一至 Hashimoto-Ishi Tsuba

2010-12-08 | 
梅樹図鐔 橋本一至


梅樹図鐔 銘 橋本一至(花押)

 表は梅樹。背景に爽やかに流れるのは雪雲か。真冬に鮮やかに花開く梅の様子は、歳寒二雅、歳寒三友などの雅称で採られているように、古典的な画題でもあるが、ここでは色紙に描かれた風景図、そして裏面は華やかに装飾された色紙の裏。鐔には表裏があることを前提とした構成である。琳派の美観は、江戸時代中期を過ぎると、急速に金工の分野でも採り入れられるようになった。殊にこの表現は幕末に流行している。橋本一至(いっし)は、後藤一乗の門人で、師風に独創を加味し、鉄地に雅趣ある作品を製作している。

龍田川図鐔 富随 Fuzui Tsuba

2010-12-07 | 
龍田川図鐔 富随


龍田川図鐔 銘 薩産月人子斉藤富随江戸芝三田住

 これも和歌が背景にある図。流れ落ちる谷川に色鮮やかな紅葉。色彩のコントラストが際立つこの場面は、古くから文様化され、着物などにも採られている。簡潔な片切彫からなる描法で流れを描き、金あるいは素銅で紅葉を描いている。縁頭は水の流れを葉の上に加えて水の透明感のある様子を表現している。線描の美しさはそのまま谷川の流れの美しさである。同図になる三作を比較してほしいが、素材の違いからなる風合いに微妙な差異があり魅力的である。これらのように、流水を雅趣漂う線描で表現するのは金工の特質であり、以前にも紹介したように、室町時代に始まっているのである。


龍田川図鍔 銘 三原住正保作


龍田川図縁頭

秋草図鐔・秋草図縁頭 美濃 Mino Huchigashira

2010-12-06 | 縁頭
秋草図鐔・秋草図縁頭 美濃


秋草図縁頭 無銘美濃


秋草図鐔 無銘美濃

秋草図鐔は以前紹介したことがある。まさに秋草の茂る様子を題に得ながら、花束を想わせる構成としている。琳派の美観が根底にある作である。縁頭も同様に美濃彫の作風を伝えるもので、図柄構成は、文様化された秋草。四方から花枝が伸び、中央部は草むらから空を見上げるようにからっと抜けている。□

浜千鳥図鍔 一次 Kazutugu Tsuba

2010-12-05 | 
浜千鳥図鐔 一次


浜千鳥図鐔 銘 高一次造之

 東龍斎派の金工、高橋一次の、同派らしい造り込みと表現になる作。特異な耳の造り込みとして窓から眺めるような視覚的驚きを体感させるのがこの派の特徴。波の寄せ来る浜辺に貝の散らばる様子。落ちてゆく夕日を背景に群れ千鳥の舞う様子を金銀赤銅の色金を交えて描写、美しい真砂象嵌を加えて赤く染まった西の空を再現している。磯の風に馴れて屈曲した松樹も美しい。この組み合わせからなる空間こそが東龍斎派の魅力。この特異な構成も琳派の美観とは本質が異なるものの、同様に風景の文様化の中から突如として生まれたように感じられる。まさに江戸好みの文様化された美空間である。

和歌の浦図揃金具 河野春明 Haruaki Soroikanagu

2010-12-04 | 小柄
和歌の浦図揃金具 法眼春明




和歌の浦図揃金具 銘 法眼春明(花押)

若の浦に 潮満ち来れば 潟をなみ 葦辺をさして 鶴(たづ)鳴き渡る
万葉集にある上記の和歌を、琳派の美観を借りて絵画表現した作。この場面は多くの絵師も挑み成功している。精密描写あり、山水風の図もあり、美しい写実表現もある。金工河野春明(はるあき)は、ことに精密描写を得意とした名工。ここでは、目貫、小柄の表、小柄の裏と、三つの世界を描き分けている。とにかく眺めているだけでもいい。多くの説明を要しない。