鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

山水図鐔 東雨(土屋安親) Touu Tsuba

2011-09-10 | 鍔の歴史
古金工 (鐔の歴史)
山水図鐔 安親





江戸時代の高彫色絵象嵌などの表現手法は、これまでに紹介してきたような(作例上四点)、古金工や後藤、古美濃、平安城象嵌、古正阿弥などの技術が基礎となり、桃山時代を経て様々な技法が考案され、図柄表現においても、素材の多様性も増していった。
 殊に金家の人物描写の例を示したように、顔、目、口など表情の精巧で正確な彫刻による表現が進んだ。もちろん江戸時代中頃の、絵画で言えば円山応挙による、事物を観察することによる写実性の再確認を経ての絵画表現を背景とした正確な彫刻もあるが、金工の基本でもあるように、実は本物のような立体ではなく薄肉彫程度の高彫表現であるにもかかわらず、そこにあるかのように再現するという点での金工の表現技術の進歩は言い尽くせない。
 具体的な高彫の種類では、量感のある高彫、肉の低い薄肉彫、背景をすかした高彫地透、主題の輪郭を鋤き込んで顔などの高肉部分は薄肉彫する肉合彫などがある。この最期の肉合彫と平象嵌を組み合わせて人間を描くことに長けたのが奈良派の杉浦乗意。その先輩格に当たる土屋安親、利壽などは奈良派本来の風合いが顕著な高彫を専らとしている。安親については豊富な画題、様々な事物に興味を抱いたものであろうか、その探究心の広さは驚かされる。
 先に奈良派の先達、利治の浜松千鳥図鐔を紹介したように、さほど知名度は高くはないものの、奈良派には優れた技量の工がおり、江戸時代の金工隆盛の一翼を担っていたことが推測される。


山水図鐔 東雨
 写真は奈良派の中でも最も作品数が多く、古典的な作風から独創に長けた新趣の作品まで幅広い作風を展開した安親の、中国の山水図を手本とした鐔。先に紹介した浜松千鳥図鐔とは同じ鉄地高彫象嵌の手法。金家の山水ではなく、明らかに古典。墨絵のような風合いを、さほど肉高い工法ではないにもかかわらず遠近感を出して巧みに表現している。左上に突き出した岩が最も肉高い。東雨は安親の号銘。76.3ミリ。