秋野に兎図鐔 在哉
① 秋野に兎図鐔 無銘在哉
② 秋草に虫図鐔 銘 筑紫住有國造
金工細工における平面的な表現は、平象嵌の手法だけではない。陰陽に意匠した透しによる図柄構成もまた平面を活かした表現で、古くは鉄地に簡潔な花文などを陰に意匠して透した甲冑師鐔や刀匠鐔、あるいは平安城透しや尾張鐔と呼ばれる大胆な透し構成を施した鉄鐔がある。江戸時代に入ると、このような透しを複雑に施したり、高彫に加えて主題の印象を高めたりする以外に、繊細な線描写や面との組み合わせによる、洒落た趣とした作品が生み出されるようになる。
Photo①は出羽国庄内に繁栄した金工郡の中の一人で、江戸時代前期から中期を活躍期とする渡部在哉(ありちか:一六六一~一七四二)と極められた、この工の特徴が良く現われている鐔。図柄は、たなびく雲間に顔を出した月を見上げる兎で、辺りには笹と草が生い茂っており、透しによる兎も月明かりに浮かぶ陰影と捉えたものであろう、構成の美しい作品である。赤銅地を微細な石目地に仕上げ、簡潔な透しと毛彫のみで描写し、拵に装着した際の美観を考慮して耳には金の平象嵌で唐草文を廻らしている。綺麗な線弧を描いているのは未だ穂の出ていない薄であろうか、夜露が月明かりに小さく輝いている様子も美しく描写している。
Photo②は江戸時代中期から後期と鑑られる筑紫国の金工有國(ありくに)の、秋草に虫図を、透しの陰影、毛彫、平象嵌の手法を組み合わせて表現した鐔。線描のみになる表現ながら、多彩な技法を駆使しており、作者の創作意識の現われと考えられよう。赤銅地を石目地に仕上げ、耳際に抑揚変化をつけ、薄の茎は糸のように細い透しで、葉は毛彫、穂は金平象嵌。桔梗も金の平象嵌に毛彫を加え、蟋蟀も金の平象嵌による線描。金平象嵌には更に繊細な片切彫を加えている。
① 秋野に兎図鐔 無銘在哉
② 秋草に虫図鐔 銘 筑紫住有國造
金工細工における平面的な表現は、平象嵌の手法だけではない。陰陽に意匠した透しによる図柄構成もまた平面を活かした表現で、古くは鉄地に簡潔な花文などを陰に意匠して透した甲冑師鐔や刀匠鐔、あるいは平安城透しや尾張鐔と呼ばれる大胆な透し構成を施した鉄鐔がある。江戸時代に入ると、このような透しを複雑に施したり、高彫に加えて主題の印象を高めたりする以外に、繊細な線描写や面との組み合わせによる、洒落た趣とした作品が生み出されるようになる。
Photo①は出羽国庄内に繁栄した金工郡の中の一人で、江戸時代前期から中期を活躍期とする渡部在哉(ありちか:一六六一~一七四二)と極められた、この工の特徴が良く現われている鐔。図柄は、たなびく雲間に顔を出した月を見上げる兎で、辺りには笹と草が生い茂っており、透しによる兎も月明かりに浮かぶ陰影と捉えたものであろう、構成の美しい作品である。赤銅地を微細な石目地に仕上げ、簡潔な透しと毛彫のみで描写し、拵に装着した際の美観を考慮して耳には金の平象嵌で唐草文を廻らしている。綺麗な線弧を描いているのは未だ穂の出ていない薄であろうか、夜露が月明かりに小さく輝いている様子も美しく描写している。
Photo②は江戸時代中期から後期と鑑られる筑紫国の金工有國(ありくに)の、秋草に虫図を、透しの陰影、毛彫、平象嵌の手法を組み合わせて表現した鐔。線描のみになる表現ながら、多彩な技法を駆使しており、作者の創作意識の現われと考えられよう。赤銅地を石目地に仕上げ、耳際に抑揚変化をつけ、薄の茎は糸のように細い透しで、葉は毛彫、穂は金平象嵌。桔梗も金の平象嵌に毛彫を加え、蟋蟀も金の平象嵌による線描。金平象嵌には更に繊細な片切彫を加えている。