鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

雉子に狐図縁頭 利壽

2010-02-15 | その他
雉子に狐図縁頭 奈良利壽

 
 
雉子に狐図縁頭 銘 利壽(花押)

 元禄頃を活躍期とする金工で、その後の江戸金工の活性化、芸術性の発展の基礎を築いた一人に、安親及び乗意と共に奈良三作(ならさんさく)と呼ばれて崇められている奈良派の利壽(としなが)がいる。後藤の家彫に対抗するように正確で緻密な彫刻技法を展開し、高彫、色絵、象嵌、更に平象嵌などを駆使して独特の彫金空間を創案した名工の一人である。その、雉子を狙う狐の図の縁頭を紹介する。野に繰り広げられている自然味のある風景を題に得たものながら、その意味するところは武士が備えておかねばならない心構えにある。空間を演出するために配しているのが秋草で、菊と薄であろうか。
 奈良派の遠祖を辿ると、江戸時代初期の寛永頃に利輝が塗師として幕府の御用を勤めており、その子の利宗が金工細工物の飾職人として幕府に使え、この次の利治と共に奈良派の基礎を固めたといわれている。その弟子が利壽、安親、乗意などである。だが利宗や利治の時代に如何なる金工の影響を受けたものか、あるいは古作を手本に独創を高めたのか不明な点が多い。この作品を見る限りでは、江戸時代の美濃と極められるような美濃彫様式や、肉の低い高彫など古金工のいずれかに分類される様式を備えており、いずれとも判断し難い。古作を参考により写実的な表現を目指し、独特の世界観を抱くようになったと考えるべきであろう。江戸時代後期に隆盛した華やかな花鳥図などと比較して華飾を抑えた作風から、古武士の美意識が遺されているようにも思える。桃山時代あるいは江戸時代初期の秋草図と、奈良派のそれの違いなどを比較鑑賞されたい。 
 この作品の詳しい解説は、古美術雑誌『目の眼』3月号に掲載しました。ご参照下さい。