鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋草に虫図鐔 水野

2010-02-18 | 
秋草に虫図鐔 水野

 
秋草に虫図鐔 銘 金澤住水野作

 後藤家に学んだ加賀金工の主流に、桑村(くわむら)家と水野(みずの)家がある。いずれも後藤家に学んで赤銅魚子地に色絵表現を得意としたが、加賀象嵌(かがぞうがん)と呼ばれる平象嵌様式の作品も製作している。平象嵌による作品は御に紹介するとして、まず、水野家の手になる在銘の、加賀後藤流の秋草に虫図鐔を紹介する。
 野の静かな自然の光景を題に得、鐔の表裏の構成を違えて連続するような絵画的な図案とし、さほど高肉彫ではないにもかかわらず彫り口鋭い描法で特徴的な秋草を写実表現し、濃密な金の色絵を要所に配して華麗な空間を創出している。構成は琳派の影響を受けたものであろう、洗練美に溢れている。背景は上質の赤銅魚子地。金の含有量の高い赤銅地は、光沢にわずかな青味を含んでいるもので、地金そのものも贅沢。唐草文の美意識が背景にあるのであろう地を這うように構成された萩の葉は地と同じ赤銅ながら、微細な点の連続になる魚子地にくっきりと浮かび上がって見え、花芽は金の色絵で鮮やか。桔梗、菊、女郎花であろうか、その叢咲く様子は金の色絵。薄が背後に伸び出して画面に変化を与えている。蟋蟀(こおろぎ)も高彫に金の色絵。正確精密な描写とされている。銘は「金澤住水野作」とあるが、銘字から代別までは即断できない。江戸時代後期に至っての作品と鑑られる。
 作品の表面が綺麗に揃った微細な点の連続であるため、パソコンなどのモニターによってはモアレが生じて見難い場合があります。ご容赦下さい。