鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

塔山水図鐔 山城國伏見住金家

2010-01-12 | 
塔山水図鐔 山城國伏見住金家                  


 
塔山水図鐔 銘 山城國伏見住金家
 金家(かねいえ)の特徴が良く示された鐔を紹介する。図柄は中国の山水画を想わせる構成ながら、我が国の京都近郊の風景を取材したものであろう、山陰に佇む塔頭や左下に小さく添え描かれた鳥居の様子など、今でも洛西辺りを散策すればこのような景色に遭遇することがある。地鉄は良く鍛えられて甲冑師鐔を見る如くに薄い仕立てとされ、表面には鎚の痕跡が残されて景色となり、耳は打ち返して抑揚をつけた変り形とされており、これは古紙に描かれた山水図を想わせる構成。金家の特徴として良く知られているのが、厚さが一~二ミリほどの地面に、同じ鉄地の塑像を象嵌している点。一見して高彫にも感じられるが、仔細に観察すると、塑像の周囲に象嵌の痕跡が窺いとれるのである。如何なる理由で薄手の鉄地に象嵌を施して図としたものであろうか、作品上の問題点では象嵌より高彫のほうが遥かに表現域が広がり、技術的にも容易なはずである。金家の意識は表現にあらず、困難な技法に敢えて挑むという技術にあると考えれば得心されられよう。鉄肌は槌目によって微妙否凹凸があり、指先に伝わりくるその感触は刀匠鐔や甲冑師鐔の古作の素肌に似ており、古釘を掌中で楽しむ感覚とも重なり合う。所々に施された象嵌は過ぎることなく、金の鮮やかさはそれゆえに効果的な視覚を刺激するが、加えて、銀の趣は黒化した銀が周囲の地に染み入って自然な景色を生み出し、これこそが大きな美観となっているのである。