
私の学校は市の音楽研究会に、毎年4年生が合唱で参加している。
4年生を担任すると決まったときから、この合唱については考えていた。
私の学校は児童数1000人を超す大きな学校で、4年生は5クラス150人だ。
もちろん、音楽研究会に参加する以上、
「さすがY小学校」思ってもらえるような合唱を目指したいと思っていた。
会場の皆さんにも、おっすごいと思ってほしい。
歌っている子供たちにも、 「僕らの歌が一番だ」と思ってほしい。
会場で応援してくださる保護者の皆さんにも、「うちの学校は、他校と比べてもなかなかじゃない。」と思ってほしい。
そう思っていた。
だが、現実はそう甘くない。
日々忙しいし、子供たちには手が掛かる。
150人全員を指導するのはそんなに簡単なことじゃない。
150人が集まれる場所は体育館しかないが、35クラスある本校で4年生だけが体育館を使うわけにはいかない。
(今年の9月は雨が多かった)
もちろん各クラスで練習してもらうが、全体としては
1学期2回
2学期6回
計8回で合唱を作る。
本来なら、美しいファルセットを求めるのだろう。
しかし、中途半端に取り組むと、「ファルセット=小さな声」 と子供たちは理解する。
そうなると、他校と大差ない合唱になってしまう。
本校のメリットは、「大規模」だ。
仲間が多いと言うことだ。
だから、圧倒的な声量で勝負したいと考えた。
60人や100人じゃ逆立ちしてもだせない、圧倒的な声量。
会場を包み込み、歌声が響きわたる。
それを目指そうと心に決めていた。
発表会が始まった。
3つ前の演奏が始まる前に、廊下に出てちょっとした広場で隊列通りに並ぶ。
子供たちの様子を観察する。
とてもそわそわしている。
こんな大きな音楽ホールに来ることなんかないからだ。
いすはフカフカ、床にはジュータンが敷き詰められている。
ざわざわと落ち着かない。
落ち着かせようと思った。
それには、声を出させることだ。
「マママママ~」「マママママ~」「ママママ・」・・・・
私は、ジャケットの裏に、声だしの時にいつも使っていた「あの口」の絵を貼り付けておいた。
じゃけっとのボタンをはずして、その「あの口」を見せる。
子供たちの顔がほぐれる。
ちょっとずつ、声がきれいになっていく。
ちょっとずつ、声量がもどってくる。
あぁ、やっと浮ついた気持ちが収まったなと感じた。
舞台袖に移動する。
舞台からは、一つ前の学校のきれいな歌声が聞こえてくる。
子供たちは、しゃんとした姿勢ですわって聞いている。
いい表情になった。
これなら、きっと練習通りにやれるだろうと感じた。
いよいよ出番だ。
入場の仕方は体育館で練習しているが、リハーサルがないから実際の並び方はやってみないと分からない。
心配をよそに、
子供たちは整然と入場していく。
言わなくても、自然と程よい間隔をとりあっていく。
左右均等に、きれいに鶴翼陣みたいに、鳥が羽ばたいているように並ぶ。
この時点で、会場がちょっとしたざわめきに包まれるのが聞こえてきた。
会場から見ると、圧倒的な人数なのだろう。
他の学校は、ひな壇にほぼ全員が収まるが、わたしたちは乗り切らないで大きく広がっている。
いつもどおりにやろうと決めていた。
私が、よそ行きなことをすれば、子供たちもよそ行きになるだろう。
十分時間を掛けて準備してから始める。
まず、下パートの音をもらい、「た~」「たとえば~」と音をとる。
指揮台の横に立つ。
「Y小学校 二部合唱 ビリーブです。」
曲紹介を聞く。
礼をして、指揮台に上る。
もう一度「た~」の音をもらい、「た~」と下のパートの練習をしておく。
一度呼吸をして、全体を見回す。
手を挙げる。
子供たちが歌の足を作ったのを見届けて、伴奏の先生に合図を送る。
美しいピアノの音が流れ出す。
それを聞きながら、私はジャケットの内側を子供たちにもう一度見せる。
そこには、「大きな目」「たこやきほっぺ」「歯の出る口」の「あの口」の絵が貼り付けてある。
子供たちの怒った肩が、ほっとした笑顔とともに、柔らかくなる。
私のお腹には、ハートの絵が貼り付けてある。
そこをそっとさわり「150人の心を合わせよう」という思いを送り、ジャケットのボタンを閉める。
一緒に大きくゆっくり息を吐き、そして息を吸い込んだ。
T:「行くよ!!」
S:「オッケー 分かった!!」
子供たちと目と目で会話を楽しんだ。
「たとえば~」
歌の最後、who~と伸ばすところ。
それまでの歌は、元気! パワー!だが、ここは優しく暖かい声にしたいと思っていた。
練習の時の指揮は、「手を広げて縮めて、くるっと切る」だった。
でも、何かが足りないと感じていた。
そこで、広げた手をだんだん狭め、最後に両手で高いところをつかむ動作に変えた。
希望に輝く未来は、高いところにある。
それを両手でつかむ。
歌っている子供たちにも、見ている皆さんにも、そんなイメージが伝わりますように!!
55回 |
9月12日 | 土 | 9:00 | 15:00 | 天竜壬生ホール | 第1会議室 |
56回 | 10月17日 | 土 | 9:00 | 12:00 | 天竜壬生ホール | 第1会議室 |
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