とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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アイドル話言葉

2005年03月15日 20時36分47秒 | エトセトラ
人気アイドルの松浦亜弥がエプソンのプリンタのテレビCMで、関西弁を話している。
松浦亜弥はもともと兵庫県姫路市の出身だから関西弁は得意のはずだ。このCMで共演している元モーニング娘。の加護亜依と辻希美のうち、加護亜依も奈良県の出身ということで、関西弁も板についてるというわけだ。
(注意:筆者はオッサンのため、このへんのアイドルの名前を覚えるのは至難の業である。実際、加護だとか辻だとかというのは、モーニング娘。を辞めるときにやっと覚えたのだが、今もって、どちらが加護で、どちらが辻なのか、判別はつかない)

このようにアイドルがテレビに出演したときに出身地の方言で話すことはほんとに珍しい。
普段方言で話すことは、ファンに対して悪いイメージを与えるとでも思っているのか、プロダクションの指導なのか、方言を話すことを見かけることは皆無に近いのだ。
これは、江戸時代に江戸吉原の花魁が、岡場所専用のいわゆる「花魁言葉」を話したことと似ている。
花魁言葉は乏しい東北や北陸といった地方の田舎から売られてきた女たちが、すぐに江戸という都会で通用する言葉を話すことができるように、ということかた開発された一種の業界言葉で、一般の話し言葉とはかなり異なっていた。
現在のアイドル言葉は特別な言葉ではないものの、方言を消し去り、出身地を曖昧にしてしまうところなど、コンセプトは花魁と同類ということができるだろう。
とはいえ、花魁を初めとする岡場所の女たちと現在のアイドルたちを比べたりすると「差別」などと指摘されかねないから少しく危ない。
そんなことを考慮してか、はたまた出身地元ファンの心をつかむためか、まれに方言を利用することが見かけられるのも確かなことだ。
今回のエプソンのCMは、全国的に受け入れられている(好悪は別として)関西弁を逆手にとって、視聴者に対する商品の印象づけに多大な効果を発揮した例と言えるかもしれない。

ただいくら珍しいからといってアイドルタレントやそれに準じる若いタレントが、テレビで出身地の言葉を話しているのを聞く機会はなにも今回が初めてではない。
20年以上昔に大阪の毎日放送で「突然ガバチョ!」という番組が放送されていた。笑福亭鶴瓶が司会をしていたバラエティショーだった。
この頃、笑福亭鶴瓶は関西では有名だったが全国的には知る者の少ない典型的な上方芸人だった。だからこの番組も関西ローカルの番組だったが、私たち若者からの人気は絶大だった。
この番組に大阪出身の堀ちえみが出演し、最初から最後まで大阪弁で通したのが、私がアイドルタレントが出身地言葉で出演しているのを見る最初となった。
今では関西オバハンタレントの代表だけれど、当時彼女はアイドルだった。
また九州地方へ行くと、JR九州のCMで当時アイドルだった酒井法子が出身地の福岡弁で出演していた。いわゆるカワイイ系のアイドルが男性的な九州弁で話す姿はなかなか魅力的だった。
NHKドラマ「四千万歩の男」には新山千春が出演していた。橋爪功扮する伊能忠敬が仙台を訪問したとき、そこの宿の女中が彼女の役であったように記憶する。
井上ひさしの戯曲や小説は方言を活かした作品が少なくなく、このドラマも同様だった。
女中は当然東北弁。あのイントネーションや訛りの難しいズーズー弁を新山千春はしごく自然に話してた見終わった後、雑誌の解説に目を通してチェックしてみると、彼女は青森の出身だった。

アイドル言葉の基本コンセプトは花魁言葉。しかし時代とともに自然な言葉、出身地の言葉で話すアイドルが増えてきた。海外出身、帰国子女が増えつつある近未来。若者たちのアイドルは、いったいどんな言葉を話すのだろうか。