人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

NHK「魂のピアニスト、逝く ~ フジコ・ヘミング その壮絶な人生」を観る / 津村記久子著「ポトスライムの舟」を読む ~ 世界一周クルージングと年収が同じ額だと気づいた女性の物語

2024年05月27日 00時07分37秒 | 日記

27日(月)。昨日、午後9時からNHKテレビで放映されたNHKスペシャル「魂のピアニスト、逝く ~ フジコ・ヘミング その壮絶な人生 ~ 」を観ました

若くして片耳の聴力を失うなど、数々の苦難に向き合いながら60代後半にしてNHKのドキュメンタリーで一躍脚光を浴び、多くの人々を魅了してきた”魂のピアニスト”フジコ・ヘミング”さんは、4月21日に92歳でこの世を去りました 番組では90代になっても世界各地で演奏活動を続ける彼女を、この5年間継続的に取材し、その姿を記録し続けてきました 昨年11月には、自宅の階段で転倒し脊髄を損傷、さらに、ほどなくして膵臓ガンが見つかりましたが、病室にまでピアノを持ち込み、再起を期して闘病生活を続けていました

50分間の番組ではこれまでの数々のライブ・コンサートや自宅でのインタビューの模様などが紹介されました 番組中、フジコさんの演奏を中心に流れたのはショパン「別れの曲」「英雄ポロネーズ」「黒鍵エチュード」「幻想即興曲」「ノクターン作品9-2」「舟歌」「革命エチュード」、リスト「ラ・カンパネラ」「コンソレーション第3番」「ため息」、シューマン「トロイメライ」などで、昨年11月に大怪我をして入院中に、たどたどしく弾こうとしたのはモーツアルト「ピアノ・ソナタ第11番”トルコ行進曲付き”」の第1楽章「アンダンテ・グラツィオーソ」の冒頭部分でした 結局この時がフジコさんがピアノに対峙した最後となりました 生涯最後の曲がフジコさんの代名詞的なリストやショパンではなく、幼い頃から馴染んできたモーツアルトだったのが印象的でした

フジコさんの言葉で一番印象に残ったのは、「楽譜通りに演奏しようとする人が多いけど、機械じゃないんですから間違ったっていいじゃない 楽譜の裏にある霊感を感じない人はだめよ」という言葉です 番組では、昨年の怪我がなければ、今ごろ 日本と欧州各国でコンサートツアーを実施しているはずだったことが紹介されました 92歳のフジコさんにとって最後のチャンスだったことを思うと、本人が一番無念だったと思います 今ごろ あちらの世界で、モーツアルトやショパンやリストに「私の演奏どうだった?」と訊いていることでしょう

ということで、わが家に来てから今日で3422日目を迎え、米共和党のトランプ前大統領は25日、政府の役割の極小化を求める第3政党「リバタリアン党」の全国大会で演説し、11月の大統領選での支持を訴えたが、演説中に聴衆からブーイングが起きて騒然となった  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     共和党以外の人たちは トランプが私利私欲で政権運営をすることを知ってるからね

         

津村記久子著「ポトスライムの舟」(講談社文庫)を読み終わりました 津村記久子は1978年大阪府生まれ。大谷大学文学部国際文化学科卒業。2005年「マンイーター(「君は永遠にそいつらより若い」に改題)で第21回太宰治賞を受賞しデビュー 2008年「ミュージック・ブレス・ユー!!」で第30回野間文芸賞新人賞、09年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞を受賞

     

本書は2009年2月 講談社から単行本として刊行され、2011年4月に文庫化されました 「ポトスライムの舟」(100ページ)のほかに「12月の窓辺」(75ページ)が収録されています

『ポトスライムの舟』(「群像」2008年11月号 初出)

29歳のナガセ(永瀬由紀子)は「時間を金で売る」空しさを抱えながら契約社員として工場に勤務する傍ら、友人のヨシカが営むカフェでアルバイトをしたり、データ入力の内職をしたり、パソコン教室の講師をしたりして働いている ナガセは就職氷河期に新卒で入社した会社で上司から凄まじいパワーハラスメントを受けて退社したという過去をもっている ナガセはある日、NPO法人が主催する世界一周クルージングのポスターを見て、自分の手取り年収と世界一周クルージング旅行の費用がほぼ同じ163万円であり、「1年分の勤務時間を世界一周という行動にも換算できる」ことに気づく それ以来、彼女はそのことが頭から離れなくなり、世界一周クルージングの費用を貯めるため節約に励む しかし、大学時代の友人・りつ子が家庭不和から子連れでナガセの家に転がり込んできたことで思わぬ出費が嵩む しかし、りつ子はいずれ仕事を見つけて娘とともに出ていき、ナガセはわずかながらボーナスも出たので、クルージングの資料請求書のハガキを取りに行くのだった

本書を読んで印象に残ったのは主人公の名前の呼び方です 最初に永瀬由紀子と1度だけ登場した後は、ナガセとカタカナ表記で統一されます。それは「記号」であり、固有名詞ではなく「一般名詞」のようであり、あたかもナガセと同じように就職氷河期を経験し正社員になれなかった若者たちの「代名詞」のように響きます もう一つ印象的なのは、著者が大阪生まれということもあり、会話が大阪弁で交わされていて、ほんのりとして人間の温かさを感じさせることです

タイトルの「ポトスライムの舟」は、ナガセが毎日 観葉植物のポトスに水やりをしていることから付けられていますが、なぜ「舟」が付いているのかは不明です ただ、著者がナガセに言わせている次の言葉がタイトルのポイントです

「玄関にも、ナガセの部屋にも、そして工場のロッカールームにもポトスは置いてある どれもこれもが、安いコップに差して水を替えているだけだが、まったく萎れる様子がない。改めて、ポトスはすごい、と思う。好きではないが、すごい、と

不本意ながら複数の仕事を掛け持ちして堅実に生きているナガセは、地味ではあるが生命力の強いポトスに自分の生き様を重ねているのかもしれません

『12月の窓辺』(「群像」2007年1月号 初出)

ツガワは、郊外に本社がある300人程度の社員数を持つ印刷会社の支所で働いているが、職場の先輩のほとんどが年下であり、自分が会社に馴染めないことを痛感し、自己嫌悪に陥っていた ツガワはVという女性の係長から辛辣なパワーハラスメントを受け、ジワジワと追い詰められていく

本作は内容から「ポストライムの舟」の前日談とも考えられる作品です つまりツガワ=ナガセの物語であると解釈できるということです

これは読んでいて辛いものがありました ミスを謝っても許してくれない。ちょっとしたミスでも人前で罵倒し人格を否定する。辞めようとすると、先回りして「人手が足りない時に勝手に辞めるなよ」とくぎを刺す・・・こういう上司が相手だったら、どんなに給料が良くても絶対に辞めてやる、と思うでしょう

「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が施行されたのは令和2年(2020年)なので、この作品が執筆された2007年時点には存在しませんでした しかし、同法施行後の現在においても多くの「ブラック企業」が存在していることは否定できません 現在でも 小説の格好の題材にされるていることに変わりありません


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