守田です。(20150205 10:00)
湯川遥菜さん、後藤健二さんを「イスラム国」が殺害したと発表したことに対して、安倍首相は「必ず罪を償わせる」と911事件後のアメリカブッシュ元大統領のような言いまわしで公言しました。
イスラエル国旗を背にして「テロを許さない」と公言して、アラブ、中東の人々全体を敵にまわすようなパフォーマンスをしてしまったことに続くあまりに危険な発言です。一国の首相として絶対に言うべきではなかった発言です。
これに対して、イラク戦争に反対して外務省を更迭された天木直人さんが2月4日に「「罪を償わせる」と公言した安倍首相の末期的危険さ」という声明を出しています。ことの本質を鋭くえぐっているので一部を引用します。
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あの言葉は、自らを批判するものは許さない、批判する者に対してはムキになって敵対してつぶす、という、これまでの安倍首相の個人的感情、人間性から発せられた、感情的な言葉なのである。
誰が見ても明らかな今度の中東外遊の失敗と、その対応のまずさが、よりによってイスラム国ごときに、世界の前で、名指しで批判され、恫喝された。
これ以上の屈辱はない。
未熟な安倍晋三という政治家にとっては耐えられないことなのだ。
しかし、安倍首相の幼児的な傲慢さは、これまでのように日本国内の安倍批判者に対しては許されるとしても、国際的にはまるで通用しない。
ましてやイスラム国には絶対に通じない。
それどころか完全に逆効果だ。
日本という国が、もはや常軌を逸したイスラム国に対し、戦争をはじめるべきかどうかという歴史的な瀬戸際に、この国の首相が個人的感情に任せて言動することほど、危険で愚かなことはないのだ。
もし、この国の政治家や、官僚や、メディアや、有識者が、安倍首相に逆らうことをおそれて、あるいは保身という低俗な利害から、安倍首相の末期的な暴走を誰一人として止めることができないなら、間違いなく日本は道を踏み誤る。
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僕もまったく天木さんに同感です。
こうした一連の行為を、あらかじめ仕組まれた謀略であると論じる人々もいます。
そういう側面も確かにあるかもしれません。世界情勢をいたずらに悪化させ、戦争を引き寄せ、自衛隊の行動の場を広げていく。そんな悪辣な意図を持っている人も確実にいることでしょう。
あるいはイスラエルでの「対テロ」宣言の場で、イスラエル国旗をうまいこと背負わせたのはイスラエルの仕業だったかもしれない。
しかし安倍首相のこれまでの言動の傾向性を見ていると、僕にはそれほどに強い計画性は感じられません。
安倍首相が日本を戦争国家に変え、アメリカ、イギリスと肩を並べることを夢見ていることは間違いないですが、その先に国家100年の計があるなどとはまったく感じられない。むしろ明確な国家戦略などなしに突き進んでいるように思えます。まるで玉砕国家です。
この点は、安倍首相の集団的自衛権をめぐる記者会見の時にも非常によく表れていたので記事にしたことがあります。ある方が繰り返しツイートして下さっている内容ですが、ここに安倍首相の発想が非常によく表れていました。
明日に向けて(882)安倍首相の考え方の中にこそ戦争拡大の芽が孕まれている!(集団的自衛権・首相会見を批判する)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3f91aa119f5837c8bc0720a4135c6b05
安倍首相の応答スタイルは以下のごとしです。すなわち、絶対に反省せず、相手の言い分に耳を貸さず、一方的に自論だけを述べ、反論には逆切れする・・・。
まったく対話不能です。致命的なことは相手の気持ちを忖度することがまったくできないことです。だから相手を激昂させてしまうし、自分もすぐに激昂する。
対話での解決能力がないのです。だから争いを引き寄せるばかりなのです。
アジアでの対立ではまだしも両国の間に様々なパイプがあり、何よりも経済的利益の一致があるので、ヒートしても必ず周りから対立を押さえようとする人が現れます。
互いに対する分析も進んでおり、戦争などになったら互いに損をすることを理解している人々がたくさんいます。
安倍首相はいわばそうした人々に甘えきって、暴言を吐き続けているとも言えます。
しかし中東との関係ではそうではありません。
もっとも重要なことは中東の人たちはこれまで日本に大きな好意を寄せてきたということです。第二次世界大戦で原爆を投下された国、そこから懸命に這い上がって平和国家を作った国としてです。
つまり原爆を投下したアメリカとは明確に区別する意識が中東の人々の間にありました。そのもとに日本人気が作られても来たのです。
それだけに、この好意が幻想に過ぎないと中東の人々が感じたとき、日本は原爆を落としたアメリカの同伴者だったのだという理解にいたったとき、大変なことになってしまいます。
中国、韓国は、けして安倍首相が日本民衆の総意を代表しているわけではないことも知っています。日本の中にさまざまな戦争反対の動き、侵略を捉え返してきた動きがあるのも知っているし人的交流もあります。
しかし中東との間にはそのパイプがまだまだ非常に薄いのです。
もちろんごくわずかですが人的交流はあります。民衆の側からそれを担ってきた人々こそ、後藤健二さんをはじめとしたジャーナリストたちです。
高遠菜穂子さんのように人質事件後の日本国内のバッシングで手酷く傷つけられながら、私たちに真実を伝え続けようとしてきた方もいます。これらの人々が私たちの国の中東に向けた窓になり、実は日本人総体の安全も守ってきたのです。
ところが今、安倍政権は後藤さんにバッシングを加え始めています。さらに渡航制限をちらつかせて、ジャーナリストたちの中東入りを妨害しはじめています。これは私たちの目と耳と安全を奪う行為です。あまりに愚かです。
そのことが招来するのは、中東と私たちの間のパイプがどんどんなくなってしまうことです。
なくなった状態で、私たちの国への好意が消えていく。裏切られたと言う思いが強まっていく。中東を苦しめ続けてきたアメリカ、イギリス、そしてイスラエルと同列にみなされていく。あまりに危険です。
根本的に対話が不能で、相手の言い分に耳を傾けることができない安倍首相にはこうしたことが見えていないのだと思います。だからこそ私たちの国は大変、危険な地点に立っているのです。
僕はこうした安倍首相の傾向が最もよく表れているのが、オリンピック招致発言での大嘘だと思います。
「原発は完全にコントロールされている」「汚染水はブロックされている」「今も未来も健康被害はまったくない」というものです。
完全な嘘ですが、実はここには安倍首相の願望も含まれていたと思います。
他者との対応で、安倍首相は相手の言い分を忖度することができません。実はまったく同じように、現実と向かい合う上でもこの方は自分に不利な事実と向き合うことができないのです。
他者との対応で一方的に自論をまくしたてたり、逆切れ対応で、中身のある反論をまったく行えないように、現実に対しても自分に都合の良い解釈を優先させてしまう。そのため現実的な対応をとらないしとれないのです。
嘘をついたって原発がコントロールできるわけではない。「健康被害はまったくない」と言ったって、現実の被害がなくなるわけではないのです。ウソで放射能は無くならない。対処しなければしないだけ危機は深まるのです。
私たちがはっきりと見ておくべきこと、最も危険な事実は、こうした対話不能、現実への対処不能な首相をいただいたまま、それを止めることが自民党にもマスコミにもできなくなっていることです。
私たちの国のこれまでの統治システムが根腐れしているのです。ここにこそ本当の危機があります。私たちの国は戦略的観点を欠いたまま、歴史に流されてしまっています。
そもそも今は「イスラム国」など相手にしているときではありません。福島原発事故の収束にこそ、全ての力を傾けなくてはならない時なのです。国家戦略からしてそうです。繰り返し述べてきたようにこのままでは国家的危機を招きます。
天木さんが「もし、この国の政治家や、官僚や、メディアや、有識者が、安倍首相に逆らうことをおそれて、あるいは保身という低俗な利害から、安倍首相の末期的な暴走を誰一人として止めることができないなら、間違いなく日本は道を踏み誤る」と指摘されている通りです。
安倍首相個人の問題よりも、このような根本的に政治家としての資質に欠ける人物を首相に抱いているこの国のあり方そのものが危機的なのです。
その意味で安倍政権は戦後最弱の政権です。だから狂暴化しています。狂暴化しているけれど、明確な戦略的展望などない。中東を泥沼化して疲弊し米兵の身代わりに投入できる軍を求めているアメリカと一緒に泥沼に沈むだけです。
実は戦前もそうだったのでした。NHKドキュメントなどで明らかにされてきているように、戦前に天皇の御前会議に参列していた大臣たちの中で、実はアメリカと戦争して勝てると思っていた人物は誰もいなかったのでした。
ところが日本は中国侵略戦争ですでに20万人の戦死者を出していたので、大臣たちはアメリカの要求を受け入れて撤兵したら国民の猛批判を受けると思っていた。それが怖くて、誰も愚かな戦争を止めようと言い出せなかったのです。
陸軍は海軍に先に言って欲しいと思っていた。海軍も同じでした。昭和天皇も戦争を止めさせたかったのでした。だったら言えば良かった。誰かが国のために命をかけて発言すれば必ず戦争は止められました。なぜって誰も勝利の展望を持っていなかったのだからです。
ところがこの時の私たちの国の中枢には、命がけでこの国を守ろうとする人物は一人もいなかったのでした。だから戦略的にけして犯してはいけなかった愚かな判断、対米戦争に突入してしまったのです。あまりにばかばかしい!
今、起こりつつあるのはこれと同じことです。第二次世界大戦を根本的に反省してこれなかったつけがこのようにまわってきてしまっています。
だからこそ、私たち民衆こそが行動していくことが必要です。放射能に対する対応も同じ。政府は私たちの命を守ろうとは思っていません。実は守るだけの力を持ってもいません。私たちが自ら動かなければ命は守れません。
とくに僕が訴えたいのは、中東の人々が寄せ続けてきてくれた好意的まなざしに今こそ応えようということです。
中東の苦しみ、痛み、嘆きを共にしましょう。あまりに理不尽なイスラエルによるガザの封鎖を即刻止めさせましょう。アメリカのイラク侵略戦争を謝罪させましょう。補償をさせましょう。
その声を大きくしていくことの中で、中東の戦乱が終わる道を、私たちが自らの問題として考え、紡ぎ出し、歩んでいくことが必要です。私たちの平和と中東の平和が一つに繋がっていることを強く認識して進みましょう!