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明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(281)小さき花・市民の放射能測定室(仙台) 11月に開設

2011年10月04日 09時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20111004 09:30)

僕はこれまで2回にわたって、被災地を訪問しました。その2回とも最後に
立ち寄ったのが、宮城県南部の有機農家の方たちのところでした。特に
2回目の訪問では、有機農家の方たちが集って、2か所で市民放射線測定室
を立ち上げることを耳にし、ぜひその話を聞かせて欲しいと思って取材して
きました。記事にするまでに少々時間がかかってしまいましたが、その
ご報告、2回にわけてしたいと思います。

第1回目は、仙台市太白区の石森農園での放射能測定室の立ち上げのお話
です。正確な名称は「小さき花・市民の放射能測定室」です。立ち上げの
中心は、石森農園を経営する石森秀彦さん。石森さんはこの近辺の山林の
地主さんですが、石森さんのお祖父さんの代のときに、戦後農地解放で、
農場はすべて「小作」だった方にあけ渡し、農地以外の山が残りました。

石森さんは1960年生まれ。早生まれで学年は僕と同じです。1980年代に
東京農業大学を出て有機農業を志し、農地以外に残った山林に手を付
けました。たった一人で木を切り開いて開墾。新しい農地を作りだし、
有機菜園を築きあげたのです。石森さんは、この農地は有史以来一度も
化学物質が入ったことのない農地だと胸をはります。

しかしそこに放射線物質が降ってしまった。石森さんの悔しさ、悲しさには
とても深いものがある。しかし石森さんはただ頭を垂れているだけでは
ありませんでした。有機野菜の販売を通じて、人々の安心で安全な暮らしに
寄与しようとしてきた石森さんは、自ら放射線測定室を立ち上げ、作物を
はじめ、海産物や母乳、尿など、ありとあらゆるものを測ろうとしています。

とにかく何がどれぐらい危険なのかを知らないと前に進めないと石森さんは
考えています。人々にも危険の指標を得られる手立て持ってもらい、そうした
中で、石森さんは新たな営農の道を探ろうとしています。そんな石森さんと
山と森の中に開いた農地を歩き、収穫した玉ねぎ(1キログラム20ベクレルの
汚染あり)の前で立ち話をしたり、部屋の中でお茶を飲みながら話した記録が
以下のものです。

*****************

小さき花 市民の放射能測定室をめぐって

-立ち上げるのはいつですか?どのような主旨で立ち上げるのですか?

まず次のような案内とお願いを出しているのでみて下さい。

*****

小さき花 市民の放射能測定室(仙台)義援金のお願い

一番小さき人 こまっている人 必要としている人のための放射能測定室
です。条件を考慮して測定する順番、料金(0円~5000円)を決め、迅速に
測定します。

もう震災から5カ月もたっているのに、原発は収束せず放射能は安定供給
されているあり様です。私の住んでいる仙台の家畑は、原発から85kmの
地点にあり、家から2kmのところで育った小松菜から4月2日、3737ベクレルの
セシウムが検出されました。(フランスACRO測定)
宮城県は当初、放射線を測定せずに安全宣言を出しました。その後、5月18日、
農場の土壌より57230ベクレル/平方メートル、7月9日、生茶579ベクレル、
きのこ345ベクレルのセシウムが検出されました。

県内の有機農業、自然農法を行っている人たち、そして私も、自分の土地で
できる作物が安全なのかがわからず、自信を持って野菜を育て、提供すること
ができないことから、やむを得ず今年の野菜の出荷、配達を、中止する決断を
しました。

原発事故後の私達、子供達は、一体何を食べ、何を飲み、そしてどの場所
なら安全なのかを、ずっと知りたいと思い続けてきました。しかし、国も
自治体も、私たちに何も答えてはくれません。
そこで、気仙沼の復興支援を行いながら放射能への不安を強く感じている
友人のオータム達と一緒に、自分達で測定を始めることを決断しました。

現在、みんなで放射線測定室を作るべく、集めた資金が110万円になり、
それを頭金に放射能測定機269万円を発注、購入しました。
ドイツ製 berthold technologies社ガンマスペクトルメーターLB2045
(核種がわかり、1ベクレル/kgから測定できる)は、10月に納品されます。
(*守田注 この機械については現在、購入契約を再検討中)

本当にぶしつけで申し訳ありませんが、宮城県の有機自然農法家、漁師、
こどもを持つお母さん方など、未来を見据えた生活を送っている方々は、
本当の現状がわからず、日々に大きな不安を抱え見えないストレスと戦って
います。とても困り、悩み、疲れています。  

NOを知る為でなく、不安を抱える方々が、安全を見つけ安心して日々を
送ることができるように、安心して子育てをしていけるように、それが、
放射能測定室で提供したいことです。
みなさんの知恵とちから、援助をお願い致します。

追記
なるべくスタッフは震災で仕事をなくした人にお願いし、もし義援金が余る
場合は、もうひとつ測定室を作るか、他の測定室と連携をとりより多くの
不安を抱える方々を支援していきたいと思います。
*NPO法人ハートアンドホープは私の話を聞いてもらい、
測定室を作るのに義援金の受け入れ先として協力していただきました。

<義援金受付口座>
小さき花 市民の放射能測定室(仙台)
ゆうちょ銀行 総合口座 18110-25981911
八一八店(店コード818)
口座番号 2598191
代表者  石森秀彦

特定非営利活動法人 ハートアンドホープ
七十七銀行 大河原支店(店コード 802)
普通 5450594
理事 高橋信生

*****

ここにも書いたけれど10月の終わりか、11月に機械が来ることになって
いて、それを待って本格的に立ち上げることになる。小さな人、一番困って
いる人のための放射能測定室として立ち上げたい。なるべく自由に動ける
ように、大きな団体ではできないことをやろうと思う。

測定にあたっては、相手の側の条件を考慮し、測定する順番を決めていく。
料金も0円から5000円。本当に困っている人にはただで行いたい。最悪、お金
がないから計れないと言う事はなくしたい。大きなところでは対応できない
ことを迅速にやっていくような組織を作ろうと思う。そこが「小さき花・
市民の」という主旨になる。コンセプトがないとも言われるのだが、なる
べく規則を決めずに柔軟に対応できるようにしたい。


-どんな機械を使い、どのように測るのでしょうか。

機械は、LB2045というもので、ドイツのベルトール社製のものにしようと
考えてきた。ドイツで買うと160万円だが、日本だと260万円だとのこと。
ドイツで買うと、ドイツ国内しか保障されないので、100万円のプラスは
仕方がないと思う。

この値段で1ベクレルから検出できる。他の機械では10ベクレルまでという
ものもあるが、ドイツでは成人の許容値を8ベクレルとしている。それを
考えて、1ベクレルから測れるものでないとだめだと思った。
もちろんもっと本格的なものからすれば、これも簡易の機械だと聞いている。
でも目安にはなる。それが大事だと思う。

ただ、今、この機械には具合が悪そうだという情報もある。購入予定をキャン
セルしたところもあるらしい。でもすでに買って使っているところもあって、
それほど悪くないという意見もあり、まだ話がよく分からない。それでどう
するか検討しているところ。機械を変える場合は、立ち上げが少し遅くなる
かもしれない。とにかくできるだけ検出限界が低いものにしたい。


大事なのはクロスチェックをすることだと思う。行政が測ったものを市民の側
で測る。行政はいいものを持っているので、それできちんと測るように、
チェックを行いたい。行政の中でもいい人がいるのだから、その人がうまく
やれるようにもなって欲しい。

福島でも測定室が立ち上がっている。有機農業の人たちがやっていて、そうした
ところと連携しようと思っている。9月か10月に同じ機械が入る予定だった。
でもここもこの機械を考え直したみたいだ。そんなことも含めて、一緒
に学んで、歩んでいければと思っている。

とにかくいっぱいデータがあればいいと思う。測定室はあちこちに立ちあがる
のが良い。なるべく色々な人が色々な方法でやった方が、生態系と同じで、
多様性があって、やればやるほど正しいデータが出て、安定すると思う。

場所は取りあえずはこの農場のそばに作りたい。移動できる状況にあれば、
3ヶ月に一度は海岸にもまわりたいが、移動できるかどうかまだ分からない。
魚は鮮度が大事なので、そうしたい。

測れる核種は30種類で1検体に20分かかる。1日20検体検討。前後の調整や
報告書作成などを考えるとまる1日でこれぐらいだと思う。出せるところからは
それなりにお金をもらいたい。

まだ専属で測る人は決まっていないが、スタッフはなるべく震災で仕事を
無くした人にしたい思う。ニーズが多ければ24時間稼働にしたい。そうしたら
3人は生活できるのではないか。

この測定室では、この野菜は危険だとかいうことは言わない。それは持ち込んだ
人に自分で決めてもらう。あくまでそのための基礎データとしての数値を出す
ことを目的にする。

今、大きな会社に持ち込むと、液体・土壌・水はだいたい15000円。野菜だけ
だと7000円で測っている。これを5000円以下でやるのは、安すぎかなとも思う
がまあいいと思う。

例えば家庭菜園などでも不安で悲しんでいる人がいると思う。営農してないので
お金もないだろう。このまま続けてもいいのかどうか悩みがつきないと思う。
そんなとき測る事は一つの目安になるし、そういう場合はできるだけ安くやりたい。
そういう主旨であることを知ってもらって、できる人にはカンパも含めて出して
欲しいと思っている。

とくに子どもがいて、おっぱいを飲ませている人が一番不安だと思う。
これはおっぱいも測れるし、おしっこも測れる。
母乳を心配して測定もしているネットワークの人達とも結びつきたい。
ただし尿までにしたい。大きい方や、死んだペットを測ってくれとかは
困る・・・。


-石森農園について教えて下さい。今後の営農の展望をどう考えていますか?

うちの山は宮城県の名取市と村田市の境にある。仙台の一番南になる。
この辺の土壌を測ると、もっと南の丸森町や、角田市よりも高い放射線値が
でている。どこを調べても高い。

営農の展望については、土壌の値を測ると3センチで1150ベクレルになる。
それ以下は減る。なので土地を削るしかないと思う。
有機農業をやってきた人の中には、腐植が放射線を吸着しているから、
削らないでなんとかと考える人もいるが、自分はそれは難しいと思う。
(注 腐植 落ち葉などの有機物が堆積し、栄養分が形成されたできた
土のこと。腐葉土とも言う)

営農としては削ってできることは確実だ。でも住むとなると、畑だけでは
なくて住環境全体を考えないとダメだ。食べるものが汚染されなくても、
住むところは汚染されている。ここら辺はグレーゾーンで、福島なら移住が
必要だと思うけれど、空間線量が2マイクロシーベルト(毎時)前後だと
どうかと思ってしまう。

とりあえずはいろいろと実験したいと思っている。うちは雑木林だから、
全部それを切って腐葉土をはげば大丈夫じゃないか。その実験をしてみたい。
とりあえず野菜を作るところは土をはがないとだめだと思う。

土壌を測った際には、5センチまでと、3センチまでと、表土の3つを測った。
表土の汚染値は高い。3センチでも丸森町よりも高い。空間線量は丸森町の方
が高いのだけれど。ホットスポットで放射能が降ってしまったのだと思う。
でもそのときのものを取り除けば、追加はないはずだ。

ここには農地はなかった。1985年に木を伐って、土を削って、有史以来
汚染物質が入ったことのない土壌に、化学物質を一切いれないで農地を
開拓してやってきた。木を自分で抜いてやった。なのに、また土地を削ら
なければいけない。痛恨だ。

農家は蓄積だ。一からはじめるとクワも鎌もトラクターも買わないといけない。
すごい資金がいる。今、自分はトラクターは使わないでやっているけれど。

もっと重要なのは開墾した農地は、表土をはいでしまうから、肥料がないことだ。
普通、農業をやっている人が何で成り立っているかというと、何十年、何百年と
培ってきた表土があるからだ。だから本当は表土をはぎたくない。誰だって
そう思うと思う。

自分は30年ここでやってきて、普通の農家が持っているようなものをやっと
手にしてきた。それをはがせば元のもくあみだ。でもそれをやる以外に道は
ないと思う。

一番、よい肥料になるのは、草を刈って土地に梳き込むことだけれど、それも
できなくなる。肥料もどこか別の土地から持ってこなくてはいけない。九州
とか北海道から。それももの凄い負担だ。なるべく他からの肥料に頼らない
ために、うちは草をいっぱい刈って、梳き込んでやるつもりだったのに、
それができなくなってしまった。

それでもまだうちが良かったのは土地を混ぜていないことだ。不耕起で
やってきたから。土地を撹拌していない。不耕起の良いところだ。
すでに土地を起してしまった人は、放射能が深いところまで混ざってしまって
いる。自分は土を混ぜたくないので、草をなるべく生やして、すっかり原発の
事故がとまったときに、いっきに草を刈って、土をはがそうと思っている。
まだ原発はカバーもされていない。今やったら、次が来てしまうかもしれない
から、その後に考えたい。

テレビを観ていても、一回はいだ表土でもまた汚染値があがったりしている。
何しろ元が止まってない。一度やってまたとなったら、表土がなくなって
しまってどうともならない。
データをみると3センチぐらいはげばいいと思う。ユンボは使わずに手でやった
方がいいかもしれない。混ざってはいけないから。


-有機農家を支えたいという声の中で、野菜を買い支えようという意見もあります。
どう感じていますか。

有機農業をやっている人、支援している人の多くは、うちの野菜を食べる
から送ってくれと言ってくれた。気持ちはとてもありがたい。でも正直、
「そんなのやめてくれ」と思った。食べない方がいいに決まっている。
気持ちは嬉しいのだけれど、その考えでいくと、自分たちを支えるために、
みんなで汚染されたものを食べようとなってしまう。それには危険を感じる。

自分は初めから、自分の畑の野菜を食べなかった。放射能が怖いからではない。
生きるための努力を放棄することが嫌だと思ったからだ。それに自分は何が
あっても加害者になりたくない。だから初めから自分の畑の野菜を食べ
なかったし、出荷もしなかった。

あの時思ったのは、あと2,3ヶ月したら野菜の汚染度が分かるわけで、その
ときに安全なら食べたり、配達すればいい。それまで待てばいいということ
だった。それで野菜を食べている有機農家の仲間にも「なんでみんな食べ
てんの」言ってしまった。癇に障ってしまって、よくなかったかなと思う。


-今回の原発事故による被害についてどう思いますか。

自分は30年も原発に反対してきたのに、こんな目にあうのはあんまりだと
思う。しかも「技術が確立してないからとめて欲しい」とか、「核のゴミを
捨てる場所がないでしょう?それはどうなの」と聞いただけなのに、警察が
周りにきたりした。友達も反原発の声を上げたら、親のところに警察がきて
自然食屋をやめさせられたこともあった。そんなことまであったけど、反対
の声は下げなかった。そんな自分が山を切り拓いて作った農地が汚染されて
しまった。

本当に筋を通すなら、どう考えたって、1ミリシーベルトだろうが何だろうが、
ちょっとでも降り積もったものは補償しなければいけないと思う。
本当はそうなのに、なんで汚染度がこれぐらいだから補償するとか、これぐら
いだから除染するとか決まってしまうのか。

もともと原発に反対していて、しかもいらないものが勝手に東電から廃棄され
たのだから、ゴミを畑に廃棄されたのだから、捨てた人がそれを撤去しなけれ
ばならないのが当たり前だ。なんでそれがこういうことになってしまうのか。

生産者は誰もそこを言わない。あきらめているから。でも本来なら少し
でも放射能が積もったところは、全部、補償しなければいけないはずだ。
そこが分からないし、納得できない。どこで誰が勝手に線を決めたのか。

このことが当たり前になってしまって、本当のことを言わなくなって
しまった。すでに決まったことが当たり前になりすぎてしまった。誰もが疑問
を持たなくなった。東電が嘘ばかり言うので、ああ、またウソだろと、怒ら
なくなってきてしまった。それと同じで、最初に交渉しなければいけないこと
をみんな言わなくなってしまった。これではいけないと思う。今からでも
東電にゴミを全部撤去しなさい、できないのなら全部補償しなさいと言わなく
ては。

うちら有機農家は、もともと農薬を使わない、化学肥料を使わないものを
有機農業といいますといって勝手に宣言してやってきた。その後に、国が有機
農業の基準を作った。でも何が有機で安全なのかという基準はもともとこっち
が考えて作ったものだ。だから今回も放射能について、うちらが考えた安全の
基準を越えているから安全ではない、出荷しないから補償しろということは
本当はいえるはずだ。もともと有機農業はそうやってきたのだから。

それに牛が食べてはいけないような草ができてるのに、人間がそこの野菜を
食べるというのはどう考えてもおかしい。確かに牧草の場合、乾燥しているも
のを食べるからベクレル数はあがるけれども、だからといって、牧草だけ
汚染されて、そこらへんに生えているほかのものが汚染されていないと
いうことはない。

だから自分は測定器を買って、いろいろと調べたいと思う。根っこに放射能が
どれぐらいあるのか、それより茎にいくのかとか。植物によっても移行率が
ぜんぜん違う。それらを知りたい。

コメについて、この辺は、1キログラム500ベクレルという数字はまずでないと
思う。出るのはチェルノブイリの管理区域にあたる汚染地域で、そこでも出る
か出ないかだろう。水田で5000ベクレルの土壌汚染というとかなり高い。
逆に言えば、出ない数字として1キログラム500ベクレルを設定したのだと思う。
何が安全かなど考えられていない。

この状態を何とか考えるために、小さいものだけれど、放射能測定室を作って
歩んでいきたいと思う。みなさんに支援していただると幸いです。

-ありがとうございました。















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明日に向けて(280)豊田さんと一緒に福島に、飯舘村に、に思いをはせよう

2011年10月03日 23時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です(20111003 23:30)

すでにお知らせしたように、明日午後6時半から、京都市ひとまち交流会館にて
豊田直巳さんの講演会を行います。僕も6時半から7時まで、内部被曝について
お話をします。その後、豊田さんが1時間ほど講演し、質疑を受けます。お近くの
みなさん、ぜひお越し下さい。

豊田さんは、福島のあちこちを取材していますが、飯舘村では、酪農家の
長谷川健一さんと出会い、取材を深めてきました。その飯舘村には、これまで
豊田さんと並んで、劣化ウラン弾による被曝被害を取材してこられた、同じく
フォトジャーナリストの森住卓さんも取材に入り、連日、ブログで飯舘の
現状を訴えれ来られました。

京都ではこの森住さんの訴えから、長谷川さんのことを知り、ぜひお呼びして
お話が聞きたいとのことで、長谷川さん講演会も実現してきたのですが、その
森住さんが、10月1日に次のような内容の日記をアップされました。

以下、引用させていただきます。

***

2011年10月1日
飯舘村から 草刈り
http://mphoto.sblo.jp/

飯舘村の長谷川さんと電話で話した。
明日から村の草刈りが始まるという。
私は「除染のために草刈るの?刈った草はどうするの?」と問い詰めてしまった。
作業する人が埃を吸って内部被曝する恐れを心配して。
長谷川さんは「村じゅう草ぼうぼうでみっともねえ」といった。そして、
「刈ったあとは空気中の線量が1μSv上がる」と。

田畑を汚され、放置せざるを得ない村。
夏を越して草ぼうぼうになってしまった村を、黙って見ていられない長谷川さん
たちの気持ちが痛いほどわかる。
草を刈ってきれいにしたいと。
でも、草刈りで埃を舞上げ作業の人が被曝してしまう。そして、放射性物質を
再拡散させてしまう。

昨日報道された、プルトニウムの検出のことに触れた長谷川さんが「プルト
ニウムがでた45キロ地点はおれん所のだ」と言った。
つらい。悲しくなってしまった。

***

僕はこのブログを、ある講演会の出番を待っているときに、友人からの
メールで知りました。すぐに長谷川さんの顔と声、あの人懐っこい福島弁が
が思い出され、とても悲しくなってしまいました。
なんということだという憤りが込み上げてきた。
飯舘村に放射能を撒いた東電と政府にあらためて、強い怒りを感じます。

明日はその長谷川さんのところにも赴き、飯舘を取材し続けた豊田さんに
話を聞きながら、みなさんと一緒に、福島に、飯舘に思いを馳せてたいと
思います。

どうかみなさま。ぜひお越しください。

*************************

フォトジャーナリスト豊田直巳の見た福島・原発震災のまち
10月4日(火)18:30
ひとまち交流館3F第4会議室 参加料500円

フォト・ジャーナリスト豊田直巳、311以降、福島原発のすぐそばまで
接近し取材を行い、被災地とそこにいる人々の状況をカメラに収め続け
てきた。放射線測定器は警報を発し続け、その針は振り切れたまま動か
なかった。まさに「命がけ」の取材。

豊田さんはこれまでにもイラクでの被曝米兵やチェルノブイリなど各地
を取材し、放射線と人の関係を丹念に記録してきました。チェルノブイ
リ原発事故から25年のドキュメンタリー制作の取材を終え、ウクライナ
・ベラルーシから帰国した翌週の12日には「日本での原発取材」を
はじめるべく福島に立っていた。

以前から、イラクでの「劣化ウラン弾」の子どもたちへの影響を心配し、
訴え続けて来た彼はまさに放射線被曝の問題を第一線でおいかけてきた
第一人者です。そんな豊田さんを京都へお招きし、ふんだんな写真と
共に原発震災のまち福島とその人々の様子をうかがいます。原発作業員
への取材をはじめ、飯館村の酪農家の長谷川健一さんとの触れ合いの話
などを予定。

豊田直巳講演19:00~/質疑応答20:00~

豊田直巳のプロフィール
1956 年、静岡県生まれ。フォトジャーナリスト 。2003年、平和・協同
ジャーナリスト基金賞奨励賞。日本ビジュアルジャーナリスト協会(JVJA)
会員。イラクやパレスチナなどの紛争地を巡り、人々にとっての「戦争と
平和」を写真や映像で報道。劣化ウラン弾問題やチェルノブイリ取材の経験
から、原発震災以降はフクシマを中心に取材し、新聞、雑誌やテレビで報道。
最新刊に『フォトルポルタージュ 福島 原発震災のまち』(岩波書店)、
『豊田直巳編 TSUNAMI 3・11』(第三書館)、『JVJA写真集 3・11 メルト
ダウン』(凱風社)、その他に『戦争を止めたい』(岩波書店)、『子ども
たちが生きる世界はいま』(七つ森書館)、『大津波アチェの子供たち』
(第三書館)、『イラク戦争下の子供たち』(第三書館)、『イラク 爆撃と
占領の日々』(岩波書店)など写真集、著書多数。DVD作品に『知られざる
DU(劣化ウラン)の恐怖』(日本語・英語二ヶ国語版)などがあります。

当日は最新刊、『フォト・ルポルタージュ福島 原発震災のまち』
(岩波ブックレット)のサイン即売会を行います。


豊田さんの講演に先立って、守田敏也さんの内部被曝についてのお話も
行います。18時30分より30分。

守田敏也のプロフィール
1959年生まれ。京都市在住。同志社大学社会的共通資本研センター客員
フェローなどを経て、現在フリーライターとして取材活動を続けながら、
社会的共通資本に関する研究を進めている。原子力政策についても独自の
研究を続けている。震災後のデータ収集と鋭い分析力により、震災後、
精力的に講演活動を行い、多忙な毎日を送っている。


主催 : 豊田直巳さんの話を聞く会
問合せ先 : 090-6005-6878(片岡)

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明日に向けて(279)危険情報を伝える難しさ・受け取る辛さを越えるために

2011年10月03日 15時00分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20111003 15:00)

「明日に向けて(276)」(10月1日)で、僕はプルトニウム飛散情報を流し
ました。それに対して、「ころ」さんという方が、「そんなに怖ければ、
来なきゃいいのに」というタイトルで、「タイトル通り、普通にそこでしか
生きられない方に失礼です、恩の押し付けは逆かと思います。」という
投稿をされました。

すると、これまでも何度かコメントをいただいている、よもぎさんとくさ
太郎さんが、それぞれに危険情報を伝えることの大切さを丁寧に説いた
コメントを書いて下さいました。そしてそれに応じる形で、ころさんが
誤解を招いてしまったと、ご自分の苦しい胸のうちを書いてくださり、それに
再びよもぎさんが丁寧に応接してくださいました。

今回のタイトルにも書いたように、危険情報を伝える難しさ・受け取る
辛さを越えるために、ここでのやりとりを、・・・コメント欄からも見れ
るのですが・・・一つの記事として、ご紹介したいと思います。

僕自身は、危険情報の伝達・受け取りにおいて、極めて重要なポイントとなる
正常性バイアスのことを整理しておこうと、(277)でこれを書きましたが、
ちょうど昨日のNHKドキュメントでも、正常性バイアスに捉われたがゆえ
に津波から逃げられなかった方たちの話が紹介されたらしく、偶然ですが
話が重なったようです。

ただ僕は「ころ」さんの投稿を見て、もう一歩、内容を深めないといけない
なとも思いました。311は本当に大変な惨劇で、多くの人が未だに行方不明
です。住居を失って、避難所や仮設住宅で過ごされている方も多い。だから
こそ、放射能の話など、さらに聞きたくないという思いもあるでしょう。

しかしそれでも放射線の危険性は伝えなくてはいけない。そのためには、
支援や応援、あるいは痛みのシェアと一緒に、情報伝達がされなければ
ならないのだと思います。そんな道をもっともっと拓いていく必要があり
ます。

そんな観点からも、これまでの2度にわたる東北訪問に続いて、放射能除染
活動に参加させていただき、こうした点の考察をさらに深めていきたいと
思います。

ころさん、よもぎさん、くさ太郎さん、ありがとうございました。

***********************

明日に向けて(276)へのコメントから

そんなに怖ければ、来なきゃいいのに。 (ころ)
2011-10-01 16:21:45

タイトル通り、普通にそこでしか生きられない方に失礼です、
恩の押し付けは逆かと思います。


未来の命の安心のために (よもぎ)
2011-10-02 04:19:13

守田さん
まだまだお忙しい日々ですね。
これから再び寒さに向かっていく季節、
安心して暮らせない長い冬を迎えざるを得ない人があまりに多いまま……
現場を知っているからこそのご心配も限りないことと思います。

ころさんは、普通に暮らしていらっしゃいますか?
やはり失礼になりますが、「そこでしか生きられない」というお言葉には、
どうしても普通ではないご不安があるのだろうと拝察致しました。

守田さん達が、ご自分の暮らしを削ってなさっていることは、
恩の押し付けなどでは決してありません。
この島国全体が、目に見えない危険の下に置かれていることを、
なんとか見える形にしないと、犠牲者が増えるばかりと心配されての
ことと思います。

守田さん達は、高速で走ってくる車に気づいていない人を、急いで車道
から突き飛ばすような行為のために奔走されていらっしゃる。
車が見えない人には、理由もなくいきなり突き飛ばされただけと感じ、
怒りと痛みを腹立たしく思う……
そんなことが、この7ヶ月近く、多くの場所で同時に起こっていると
思います。

目に見えないけれど命にかかわる危険を知っている人々が、正反対の行動
を取っています。
一方では、知っているからこそ、いたたまれない思いで全国を奔走し警鐘
を鳴らす。
他方では、見えないことを利用して虚偽の安心感を広め、先々の苦しみは
事故とも原発とも関係ないと思わせようとする。

何度も繰り返されてきたことだからこそ、
今ふたたび、史上で一番危険な状態のもとでさえ、
同じことが繰り返されようとしていることが、私もつらくてなりません。

多くの血縁が若くして苦しみながら命を喪い、自らも日々、苦痛の中で
生きてきたために見えるものもあります。
でも、もしも、そんな哀しい別れや痛みが避けられたのだったらどんなに
よかったか……

できれば、未来の子孫のためには避けてほしい、
こんな苦痛や哀しみの連鎖は、
これまでの66年間に生まれ合わせた人間の代できちんと終わりにするために、
目を背けずに知ってほしい、それだけです。

知ることと、避けられるかどうかは別かもしれませんが、
仮に避けられなかった場合でも、
私はもっと周囲に因果関係を知っておいて欲しかった、
幼い頃の自分の状態を理解して、助けて欲しかった……

もう、あんな心細い思いをする子がいないよう、
「それはあなたのせいじゃない」と一言でも言ってくれる大人がたくさん
いてくれる、
そんな世界を夢見ています。


危険を知らせる勇気 (くさ太郎)
2011-10-02 13:29:49

国の「安心安全キャンペーン」が繰り返されている中で
危険な場所に行き、それを発信し続けることの、勇気
おわかりにならない人が多いです
それとも、受け付けられないほどの状態なのだと・・・

「義を見てせざるは勇なきなり」
本当の優しさは強さをともないます

いつも、貴重な情報をありがとうございます


すみません (ころ)
2011-10-03 00:24:27

ご気分を害してしまいました、誤解を招きました。
自分の知人は身内が見付かりません。
頑張ろうより、頑張っても頑張っても先がなく。
大変失礼致しました。
毎日ネット検索しては、泣き疲れ…
ご活躍お祈り申し上げます。


気分を害してなどいませんよ~ (よもぎ)
2011-10-03 03:13:47

守田さん、この場をお借りします。

ころさん、本当におつらい日々ですね。
誰も気分など害していないはずです。
それに、ころさんにも、知人の方にも、犠牲になった人々にも、
なんの責任もないのに、いきなり破壊されてしまった世界……

頑張れる限界なんてとっくに超えているのに、
ステッカーや看板の「がんばろう」のメッセージが嫌でもたくさん目
に入りますものね。

これらを見るたび、私の心もざわめきます。
どうして立ち上がれないほど痛めつけられた人が頑張らなくちゃなら
ないのか?
原因の責任を取るべき人は、なにも頑張らずに薄笑いを浮かべ、
必要最低限の援助もしないで逃げてしまっているのか?

ほんとうに哀しい現実ばかり見せつけられますね。
お知り合いのお身内が、ご無事に見つかること、
心からお祈りしています。


みなさま、ありがとうございます! (守田敏也)
2011-10-03 09:09:27

みなさま。

コメントありがとうございます。感動しました!

よもぎさん、いつも丁寧で説得力のあるコメントをとてもありがたく
読んでいます。応接できてないものもあって申し訳ないです。今回の
1回目のメッセージも2回目のものも、とても心がこもっていて凄いな
と思いました。

くさ太郎さん
「義をみてせざるは勇なきなり」・・・素晴らしい言葉ですね。励み
になります。そうですね。義あってこそ、この世に光があると僕も
思います。義をみて、常に動ける自分でありたいです。

そしてころさん。
二度にわたって書き込みをしてくださり、ありがとうございました。

「自分の知人は身内が見付かりません。
頑張ろうより、頑張っても頑張っても先がなく。
大変失礼致しました。
毎日ネット検索しては、泣き疲れ…」

痛みが行間から伝わってきました。
そういう思いでおられる方を前に、プルトニウム飛散情報やその危険性
を訴えるのは、とても心苦しいです。でも東電が毒を撒いてしまったので、
しかもこれまで隠してきたので、その危険性ともども、伝えざる得ない
と思っています。

でもそんなころさんから、「ご活躍をお祈り申し上げます」と言って
いただけて、心の底が温かくなるのを感じました。

これからもさまざまに心に傷を負っている方、大切な方を亡くされた方、
また「避難を」と言われても、動くに動けない方・・・そうした方の
胸の内を思いながら、文章をつづっていこうと思います。投稿、本当に
ありがとうございました。

ころさんや、お知り合いの方の心の傷が癒え、涙の向こうに希望の光が
さしはじめることをただひたすらお祈りしています。

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明日に向けて(278)まずは知らなきゃね!・・・あすのわぐまが動画に!!

2011年10月03日 08時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20111003 08:30)

9月28日に信楽を訪れましたが、この訪問を前に、「ことばの力、絵の力、
絵本の力」と題した記事を投稿しました。僕を招いて下さったのが、滋賀で
活躍されているあすのわのみなさんであり、その中の、絵本作家の市居みか
さんがイラストを描き、玉崎洋子さんが文を書いて下さった素敵なチラシが
訪問の縁になったからです。
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/954c69322a4325aecc96c8f86eea952b

その、あすのわぐまのチラシが、なんと動画になりました!!くまちゃん
そのものが動くわけではないのですが、絵に色がつき、音声が入り、とても
いいタイミングで、セリフや場面が変わっていきます。素晴らしい!
studio4416さんが編集して下さいました。こんなことができるのだなあと
感心しました。「ことばの力、絵の力、絵本の力」に「映像の力」と続け
なければなりませんね。ともあれみなさま、ぜひご覧ください。約7分です。
http://www.youtube.com/watch?v=HFq8gYjo3-8

sutdio4416さんは、6月11日に京都で行われた脱原発のピースウォークの
映像も編集して下さっています。前にも紹介したものですが、再度、ここに
紹介しておきます。僕がこの日初めて出会って、その歌唱力に驚嘆した
マーリンの歌声が響いています。この即興でうたわれた歌は、何度、聞いて
も凄い。こうやっていろいろな芸術的力が重なって、運動が豊かに、強く、
逞しくなっていくのは素晴らしい。もっとたくさんの力を重ねたいですね。
http://www.youtube.com/watch?v=4t5EVDq6zI4&feature=related
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明日に向けて(277)避難を阻む「正常性バイアス」

2011年10月02日 23時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20111002 23:30)

9月30日、これまで「重くて敷地外までは飛ばない」と政府や東電、また
いわゆる原子力村につらなる「専門家」に繰り返し指摘されていたプルト
ニウムが、飯館村で原発から45キロ離れた地点から計測されていたことが、
文部科学省によって明らかにされました。同じく、これまであまり触れら
れなかったストロンチウムも、80キロ圏内のわずか100か所の調査で、79
キロ地点から計測されたことが明らかにされています。

にもかかわらず、政府はこれまでの「避難準備区域」の解除を行い、閉鎖
されていた学校の再開に踏み切りました。これによって避難していた人々
がまだプルトニウムやストロンチウムが徹底調査されてない地域に、戻り
始めています。非常に深刻な事態です。避けられるべき被曝が再び始まっ
てしまう。しかしこれは今始まったことではありません。311直後から、避
けられた被曝がずっと続いてきてしまっています。

こうした中で、避難の呼びかけを行っていくことが問われているし、放射
線値の高い東北のみならず、東京を含んだ関東各地で、今一度、安全に
対する見直しを行っていくことが必要です。まだまだ隠れている核種があり
うることを考えるならば、子どもや妊婦さんなどの避難は、より広域に
拡大していく必要があります。

しかしこうした呼びかけは、さまざまな反発をも引き起こします。また
東京での収録の多いバラエティ番組などを見ていると、あまりに危機感が
欠如していて、放射能汚染情報との落差に繰り返し驚かされてしまいます。
こうした番組自体が、意図しなくても、危険性をマスクしてしまう要素を
持っています。恐ろしい危機が隠されてしまっている。


こうした中で一体、避難の呼び掛けはどのように進めたらいいのでしょうか。
実はこの問題は、非常に多くの人々が頭を悩ませてきた問題です。避難の
必要性を感じる側と、必要性を感じない側と、家族の間で、友人の間で、
あるいは夫婦の間で、繰り返し苦しい会話が繰り返されてきました。どう
しても親しいものの間の会話ほど、余裕がなく、エキセントリックなものに
もなりがちで、そこから互いの関係にひびが入ることもしばしばです。

ではどうすればよいのか。この問題を捉えるときに有効なのは、今、私たち
の国が、防災心理学で言う「正常性バイアス」に強くとらわれていることを
知ることです。正常性バイアスとは、「思い込みによって、頭が非常事態で
あるという認識に切り替わらない状態のこと」を指します。事態は正常であ
るというバイアス=偏見に捉えられ、事態を正しく認識できないことです。

これは防災心理学では常識とされていることがらです。現代人は、命が危機
に晒されるような経験をほとんどしないため、いざ危機に直面しても、それ
を危機だとは認識できないことが多い。例えば避難警報がいきなりなると、
「誤報」ではないのかと思ってしまうのが、典型的な正常性バイアスです。
そのため、正常性バイアスというロックを解除しないと、人は避難行動を
開始できない。そのため災害を免れられないことがしばしばあります。

正常性バイアスとともに、人の避難を阻んでしまう心理的壁として、同調性
バイアスというものがあることも防災心理学は指摘しています。同調性バイ
アスとは周りのあり方に同調してしまうこと。自分は危険だと思っても、周
りが退避行動をとってないと、それに同調してしまい、自分も危険回避行動
をとらなくなってしまうことです。


具体的な例をあげましょう。1981年10月31日午後9時すぎ、神奈川県平塚市で
防災無線から突然次のような市長メッセージが流されました。「市民の皆さ
ん、私は市長の石川です。先ほど内閣総理大臣から大規模地震の警戒宣言が
発令されました。私の話を冷静に聞いて下さい。・・・」実はこれはあって
はならない誤報でした。市役所関係者は、市民のパニックが起こってしまう
と真っ青になったといいます。

ところが、パニックはまったく起きませんでした!当時、平塚市の人口は
218,185人。警戒宣言を知ったのは全市民の20.1%の約42,000人でしたが、
警戒宣言を信じたのは、そのうちのたった3.9%(約1560人)しかいなかった
のです。半信半疑が10.0%(約4,000人)、全く無視したか信じなかった人が
約36,000人もいたのでした。実際にこれは誤報だったので、平塚市はとても
悪い経験をしてしまいました。

正常性バイアスと同調性バイアスが同時に働いた例としてあげられるのは、
2003年2月18日に、韓国テグ市で起こった地下鉄火災でした。放火による火事
でしたが、このとき乗務員が「小さな事故なので、少しの間お待ちください」
と放送したことに対し、多くの乗客は信じがたいことに、車内に煙が充満し始
めているのに、次の放送を待っていたのです。そうして逃げ遅れてしまった。

このため196人が死亡し、174人が負傷して、今なお後遺症に苦しんでいるそう
ですが、このとき、車両内の死者は142人もいました。つまり火災が発生して
いるにもかかわらず、多くの人が逃げ出さないまま、車内で亡くなってしまっ
たのです。他の人が逃げ出さないので、危機を危機として認識できないままに
悲劇が拡大してしまったのでした。


こうした心理はどうして働くのでしょうか。危機を認識すると、それに対処
しなければなりません。ただちに非常体制に自分を移行させ、それこそ決死
の脱出を図ったり、避難を急がなければならなくなります。それには心理的
垣根が高い。そのため、まずは危機情報そのものを疑うのです。危機でなけ
れば非常行動をとる必要がないからです。心理的にはそう考えた方がずっと
楽で、人間はついつい楽な思考を選択してしまいます。

実はこれは人間の心理的防衛機能の一つで、危機をやり過ごす生活の知恵
ともいえる側面すらあります。危機を危機と認識しないでやり過ごしてし
まうのです。しかし危機が避難を必要とする場合は、生活の知恵どころか、
これは最も危険な心理的な枷となる。そのため防災心理学では、正常性バイ
アスというロックの解除を重視するのです。

またこのため防災心理学では、人はそう簡単にはパニックにならないことを
指摘しています。むしろ恐れるべきは、パニックを恐れる側が、危険情報を
隠してしまうことの方にあると指摘されています。これは「パニック過大
評価バイアス」といいます。行政の多くが陥りがちな偏見ですが、行政が市民
を常に見下しているがゆえに陥りがちな傾向と言えるでしょう。

こうしたロックに陥った人は、それを解除しようとすると抵抗します。それ
を認めるのが心理的に苦しいがゆえに、正常性バイアスにはまってしまって
いるからです。だから説得しようとするとしばしば感情的になってしまう。
これに説得者が同じように感情的に対応すると、ロックはますます強まって
しまいます。およそこれが正常性バイアスの特徴です。


さてこのことを頭に入れて、311以降の私たちの社会の中で起こってきたこと
を振り返ってみましょう。正常性バイアスの典型に上げられる事例に枚挙の
いとまがありませんが、中でも象徴的だったのは3月19日発売の雑誌『アエラ』
の表紙問題でした。『アエラ』は「放射能がくる」というキャッチを載せた。
そして防護マスクした人物の顔写真を載せたのです。下記、ブログをご参照
ください。
http://hikosaka4.blog.so-net.ne.jp/2011-03-19-2

ところがこの『アエラ』に、危機をあおるのはひどいというバッシングが強烈
に集中した。そしてとうとう『アエラ』は編集長のお詫びを出すにいたります。
しかし、今になって振り返ると、この表紙は読者に注意を喚起する極めて妥当
な内容だっと言えます。誤りがあるとするならば、むしろ「放射能がくる」で
はなく「放射能がきた」にすべきだったと言えます。3月19日発売だからです。
この雑誌は販売部数も伸びた。これで3月15日以降の高濃度の放射能を避けら
れた人もいたかもしれない。僕は今でもいい表紙だった思います。

僕自身、思いだすのは、原発がメルトダウンに向かっていると確信し、避難
情報を流し続けた私たちに対し、「メルトダウンという脅しに乗るな」とか
いう情報がネットに洪水のように流れ続け、さらに脱原発を主張してきた人々
の内部からすら、「今回の事故でメルトダウンは起きない」とか、「パニック
を起してはいけない」という言葉が語られたことでした。当時は頭がくらくら
しましたが今ではそれほどに正常性バイアスの力が強かったことが分かります。

しかし今、認識しておくべきことは、この正常性バイアスは今なお、強烈に
働いているのだということです。なぜか。放射能が目に見えず、音もしない
からです。韓国の地下鉄の中では、煙がただよってすらきているのに、逃げ
遅れてしまった人々がいた。いわんや放射能をやです。これが避難を大きく
阻んでいる。正常性バイアスのロック解除こそが必要なのです。


では正常性バイアスの解除のためには何が必要なのでしょうか。防災心理学が
唱えているのは、防災訓練の実施です。これは今回の津波被害でも実証されて
います。防災訓練が行き届いていた地域ほど、事前の避難が進み、人々が被害
を免れることができたからです。そのために日頃から、起こりうる被害を想定
した訓練を行うことが、いざというときの人々の危機回避を可能にするのです。

では原発災害に対してはどうしたらいいのでしょうか。あるいは今、現在、
私たちはどうしたらいいのでしょうか。原発災害に対しても有効なのは災害
訓練なのです。そして実はそれが今回も実証されているのです。災害訓練は
実地訓練だけで行われるのではない。紙の上での図上訓練もかなり有効です。
そしてまさにそのことが、これまで反原発・脱原発を訴えてきた人々によって
繰り返し行われていたのです。

顕著な例では、瀬尾健さんという書かれた本があります。これを開くと、日本
中の原発と周辺100キロ近くの地図が載ってあり、原発から何キロという同心
円が書かれている。それでこれこれ、これらの地域は逃げなければいけないと
書いてある。僕の場合、そうした本を繰り返し読むことで、いつも地震が起こ
ると、震源地はどこなのか、それと原発の位置関係を確かめるクセがついて
いました。万が一、若狭でおきていたらすぐに逃げなければならないからです。

そして今回でも、そういう思考を持っていた人たちは、初期の段階で、蜘蛛の
子を散らすように逃げだしています。つまりこれらの人々は事前に、事実上の
避難訓練ができていたのです。だから正常性バイアスにはかからなかった。
いや正確には、こうしたことを学んでいいてもロックがかかった人もいますが
かからなかった人から早期の脱出ができた。そしてその人々は、3月に水素
爆発やベントなどで飛び出した、チェルノブイリ事故の数分の一ともいわれる
ような放射能の飛来をすんでのところでかわすことができた。とくに子どもを
抱えて逃げた方は、子どもにとても大きなプレゼントを渡すことになったと
思います。


これらを考えるならば、今も必要なのは避難訓練です。そして避難訓練は
まずは放射線の恐ろしさや、原発事故の危険性を知るところから始まるのです。
ですから各地で行われている講演会や学習会、そして原発事故の危険性を
訴え、脱原発を訴えるデモ・ウォーク・パレード等々も、心理的には避難訓練
の位置を持つと言えます。だからこそこれからも大いにこれを行う必要がある。

そして正常性バイアスのロックが強くかかって、例えば危険地帯にいながら
避難の説得に応じない人であるならば、まずはハードルを下げて、そうした
学習会や講演会に誘ってみるとか、チェルノブイリの被害を扱ったビデオを
一緒にみるとか、そういうところから始めるといいかもしれません。また実際
に避難は財政的に大変だし、他にもさまざまに大変でつらい要素があるわけで、
それをゆっくり話し合うのもよいかもしれない。要するにそれらからゆっくり
とハードルをあげていくこと、その討論が必要なのです。

さらにより大きな規模での避難を考えるならば、私たちは、自主避難にも
公的補償、東電による賠償が適用されてしかるべきであることを訴える必要
があります。危機が明らかになってからでは遅いのです。危機の可能性がある
段階で私たちには避難する権利があるのであり、政府と東電は避難させる
義務を負っています。なぜなら後から後から、危機の実相が、小出しに明ら
かにされてきているからです。

メルトダウン・・・どころかメルトスルーしていることも随分後から私たちは
知らされた。プルトニウムが、飯舘村まで飛んでいたという事実もです。それ
らはすべて3月に起こったことです。あのとき政府は事態はそれほど深刻では
ないという言説を繰り返していた。その段階で、政府を信頼せずに飛び出した
人ほど被曝を免れました。政府と東電はそのとき飛び出した全ての人の費用を、
賠償する当然の義務を負っています。


最後に、私たちの社会から正常性バイアスを一掃するため、防災心理学が
私たちに呼びかけている提言を幾つか紹介します。『防災オンチの日本人
人は皆「自分だけは死なない」と思っている」』山村武彦著、宝島社からの
抜粋です。なお同書の発行は2005年3月16日です。これをぜひみなさんで回し
読みしてください。また正常性バイアスに関して、過去に「明日に向けて」
で触れた記事も末尾に掲載しておきます。ご参照下さい。


知っておきたい心の防災袋

知っておくべき人間の本能
○人は都合の悪い情報をカットしてしまう。
○人は「自分だけは地震で死なない」と思う。
○実は人は逃げない。
○パニックは簡単には起こらない。
○都市生活は危機本能を低下させる。
○携帯電話なしの現代人は弱い。
○日本人は自分を守る意識が低い。

災害時!とるべき行動
○周りが逃げなくても、逃げる!
○専門家が大丈夫と言っても、危機を感じたら逃げる。
○悪いことはまず知らせる!
○地震は予知できると過信しない。
○「以前はこうだった」ととらわれない。
○「もしかして」「念のため」を大事にする。
○災害時には空気を読まない。
○正しい情報・知識を手に入れる。

***

明日に向けて(12)避難を遅らす「正常性バイアス」(3月31日)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/47e99b860ac0c9fc53a78165a2aa6a2e
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明日に向けて(276)福島・飯舘でプルトニウム検出 原発から45キロ地点

2011年10月01日 09時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20111001 9:30)

昨夜、ニュースで飯舘村からプルトニウムが検出されたという報道が流され
ました。重大ニュースです。以下、毎日新聞の記事の冒頭を紹介します。

***

文部科学省は30日、東京電力福島第1原発から約45キロ離れた福島県飯舘
村を含む同県内6カ所の土壌から、同原発事故で放出されたとみられる毒性の
強い放射性物質のプルトニウムが検出されたと発表した。事故後、同原発の
敷地外でプルトニウムが検出されたのは国の調査では初。原発80キロ圏内の
広範囲で放射性物質のストロンチウムも検出され、影響が広範囲に及ぶことが
改めて裏付けられた。

***

僕はこれまで、折に触れて、プルトニウム飛散の可能性について触れてきまし
た。同じ観点から分析を行っている方の考察なども紹介してきました。しかし
多くの方から、プルトニウムの扱いは慎重に・・・。プルトニウムは思いから
それほど飛ばない・・・。南相馬や飯舘にプルトニウムがあるというなら、
証明して欲しい・・・などの意見をいただいてきました。

非常に残念なことといわざるをえませんが、プルトニウムが原発から45キロ
まで飛んでいたことが文部科学省が公表したことで、やはりプルトニウムの
かなりの拡散の可能性が高いことが明らかになりました。僕はこれを予想して
いましたが、しかしそれでもこの現実になんとも言えない怒りを感じます。
政府がこのことを明らかにしなかったために確実に多くの方が被曝したからです。

プルトニウムはα線を出す放射性物質であり、内部被曝したときの危険性は
他の核種と比べて格段に高いです。原子力推進派のICRP(国際放射線防護委
員会)でさえ、エネルギー量を20倍に換算すべきだと指摘しています。ECRR
(ヨーロッパ放射線リスク委員会)の場合、プルトニウムに限らずですが、
同じ線量の場合、内部被曝を外部被曝の600倍(平均)の脅威とみなすべきだ
と指摘しており、これらを考えたときに、α線による被曝の影響は甚大です。

また記事から読みとれることとして重要なことは、この調査が、原発80キロ圏
内の100か所という極めてわずかな規模でしかなされていないこと。しかもそ
の程度の調査でもストロンチウムに関しては79キロ地点で観測されており、
より広範囲への拡散の可能性が極めて高いことです。早急にもっと徹底した
調査が行われる必要があります。

同時に、汚染濃度の高い地域からの住民の方々の避難をさらに急ぐ必要があり
ます。そのために避難への公的賠償せよという声を高めていくことが重要です。
すでにさまざまな深刻な健康被害がはじまっていることが報告されています。
被害を少しでも減らすために、汚染地域におられる方は、今からでもぜひ
移動して欲しいです。

今日はこれからある組合大会に招かれて、神戸に向かうので、続きは後ほど
書きたいと思います。ともあれこのニュースは極めて重要です。重大ニュース
の連発に慣れてしまわずに、いまここにある私たちの危機を見据えましょう。
何よりも、もっとも被曝している可能性のある方たちを助けるための活動を
強化しましょう。

なお末尾に、参考までに、これまでプルトニウム汚染等の可能性について
論じた記事を貼り付けておきます。


****************

東日本大震災:福島・飯舘でプルトニウム検出 原発から45キロ地点

毎日新聞 2011年10月1日 東京朝刊
文部科学省は30日、東京電力福島第1原発から約45キロ離れた福島県飯舘
村を含む同県内6カ所の土壌から、同原発事故で放出されたとみられる毒性の
強い放射性物質のプルトニウムが検出されたと発表した。事故後、同原発の
敷地外でプルトニウムが検出されたのは国の調査では初。原発80キロ圏内の
広範囲で放射性物質のストロンチウムも検出され、影響が広範囲に及ぶことが
改めて裏付けられた。

調査は6~7月、原発80キロ圏内の100カ所の土壌で実施。同村と双葉町、
浪江町の計6地点から今回の事故の影響とみられるプルトニウム238が検出
された。多くの地点でプルトニウム239、240も検出されたが、事故の
影響か特定できないという。

文科省によると、いずれの地点も過去の大気圏核実験によって日本に降ったと
みられるプルトニウムの最大値を下回ったが、238は事故前にほとんど検出
されていなかったため、今回検出された238は、同原発でできたものと分析
した。

検出された最大濃度は、プルトニウム238が土壌1平方メートルあたり4ベク
レル(浪江町)、239と240の合計で同15ベクレル(南相馬市)。飯舘
村で検出された238は同0・82ベクレルだった。文科省は「人体に影響を
及ぼす値でない」としている。プルトニウム238の半減期は88年。東電は、
プルトニウムは放射性ヨウ素と比べて重く、拡散しにくいと説明していた。

◇79キロの白河ではストロンチウム
一方、ストロンチウム89は約79キロ離れた同県白河市など半数近い地点で
検出。半減期が約50日と短いことからいずれも事故による影響と分析した。
最大濃度は同2万2000ベクレル(浪江町)。文科省は事故で放出された
放射性セシウムとの分布の違いに注目、ストロンチウムは骨に沈着しやすい
特徴があるため、追加調査する方針。

松本純一・東電原子力・立地本部長代理は30日の会見で「避難住民が戻れる
よう、どのような放射性物質があるのか調べるのは重要。政府と相談しながら
サンプリングの方法を検討したい」と話す。【八田浩輔、河内敏康】
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20111001ddm001040040000c.html

地図
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110930-00000120-mai-soci.view-000

*************

明日に向けて(204)南相馬からSOS プルトニウム・・・!?
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/ecfc5630f05acaf7804b66497782dcc2

明日に向けて(149)キュリウム・アメリシウム・ストロンチウムが検出された!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/29360d5be7cccc6d875fbd108858455c

明日に向けて(141)福島県内11か所からストロンチウムを検出
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/0c666a3aaea2906ae4e6647490e5f7a9

明日に向けて(139)原発敷地外でプルトニウム検出
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3e530cd619639ee55e1caeb1b5fc3deb

明日に向けて(126)福島浜通りはプルトニウムで汚染されているのではないか?
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/f2e0807e72406d79456150285535c63c
コメント (7)
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明日に向けて(275)フォトジャーナリスト豊田直巳さんをお招きします(10月4日)

2011年09月30日 08時00分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110930 08:00)

すでにお知らせしましたが、10月4日にフォトジャーナリスト豊田直巳さんを
京都にお招きし、豊富な写真とともにお話をうかがいます。18時30分から
始めます。豊田さんのお話に先だって、僕が内部被曝の脅威について、30分
ほど解説します。みなさま、どうぞお越しください。以下、転送・転載、
大歓迎です!

**************************

フォトジャーナリスト豊田直巳の見た福島・原発震災のまち
10月4日(火)18:30
ひとまち交流館3F第4会議室 参加料500円

フォト・ジャーナリスト豊田直巳、311以降、福島原発のすぐそばまで
接近し取材を行い、被災地とそこにいる人々の状況をカメラに収め続け
てきた。放射線測定器は警報を発し続け、その針は振り切れたまま動か
なかった。まさに「命がけ」の取材。

豊田さんはこれまでにもイラクでの被曝米兵やチェルノブイリなど各地
を取材し、放射線と人の関係を丹念に記録してきました。チェルノブイ
リ原発事故から25年のドキュメンタリー制作の取材を終え、ウクライナ
・ベラルーシから帰国した翌週の12日には「日本での原発取材」を
はじめるべく福島に立っていた。

以前から、イラクでの「劣化ウラン弾」の子どもたちへの影響を心配し、
訴え続けて来た彼はまさに放射線被曝の問題を第一線でおいかけてきた
第一人者です。そんな豊田さんを京都へお招きし、ふんだんな写真と
共に原発震災のまち福島とその人々の様子をうかがいます。原発作業員
への取材をはじめ、飯館村の酪農家の長谷川健一さんとの触れ合いの話
などを予定。

豊田直巳講演19:00~/質疑応答20:00~

豊田直巳のプロフィール
1956 年、静岡県生まれ。フォトジャーナリスト 。2003年、平和・協同
ジャーナリスト基金賞奨励賞。日本ビジュアルジャーナリスト協会(JVJA)
会員。イラクやパレスチナなどの紛争地を巡り、人々にとっての「戦争と
平和」を写真や映像で報道。劣化ウラン弾問題やチェルノブイリ取材の経験
から、原発震災以降はフクシマを中心に取材し、新聞、雑誌やテレビで報道。
最新刊に『フォトルポルタージュ 福島 原発震災のまち』(岩波書店)、
『豊田直巳編 TSUNAMI 3・11』(第三書館)、『JVJA写真集 3・11 メルト
ダウン』(凱風社)、その他に『戦争を止めたい』(岩波書店)、『子ども
たちが生きる世界はいま』(七つ森書館)、『大津波アチェの子供たち』
(第三書館)、『イラク戦争下の子供たち』(第三書館)、『イラク 爆撃と
占領の日々』(岩波書店)など写真集、著書多数。DVD作品に『知られざる
DU(劣化ウラン)の恐怖』(日本語・英語二ヶ国語版)などがあります。

当日は最新刊、『フォト・ルポルタージュ福島 原発震災のまち』
(岩波ブックレット)のサイン即売会を行います。


豊田さんの講演に先立って、守田敏也さんの内部被曝についてのお話も
行います。18時30分より30分。

守田敏也のプロフィール
1959年生まれ。京都市在住。同志社大学社会的共通資本研センター客員
フェローなどを経て、現在フリーライターとして取材活動を続けながら、
社会的共通資本に関する研究を進めている。原子力政策についても独自の
研究を続けている。震災後のデータ収集と鋭い分析力により、震災後、
精力的に講演活動を行い、多忙な毎日を送っている。


主催 : 豊田直巳さんの話を聞く会
問合せ先 : 090-6005-6878(片岡)
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明日に向けて(274)除染活動を通じて見えてきたこと(細川弘明さん)

2011年09月29日 22時00分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110929 22:00)

明日に向けて(251)で「避難と除染についての考察」という一文を書きました。
9月4日のことです。もともと放射能除染活動は、一部の方たちが止むにやまれず
に始めたものですが、その後に福島県などの行政が着目し、住民に避難を思い
留まらせる手段としても取り組み始めた面があります。

これをどう考えるのか、どのように線引きをするのか、自分ではよく見えない
ものがある中での考察だったのですが、このとき、誰よりも早く除染活動に
着手してきた京都精華大学の細川弘明さんが、ご自分が書いて、雑誌に投稿中
の原稿を送ってきて下さいました。非常に明快に論旨が整理されていました。

そのときはまだ雑誌が発行されていないので、公表は控えて欲しいとのこと
だったのですが、先程、ご自身のブログでも紹介したので、公表可能ですとの
ご連絡をいただけました。みなさんにご紹介しますのでぜひ読んでいただきた
いと思います。


なお、9月22日と昨日28日に信楽を訪れましたが、僕の持っているRADEX RD
1503というガイガーカウンターで計測したところ、、信楽小学校校庭真ん中
1mで0.17マイクロシーベルト(毎時)、10㎝で0.20マイクロシーベルト(同)
という値が出ました。またある方の庭で、10㎝で0.23マイクロシーベルト
(同)が出ました。

RD1503はこれぐらいの数値だと高めに計測されると言われているので、確実
な値とは言えません。この機械をもっと性能の高い機種と一緒に測って、
大まかにでも誤差の目安を把握すべきことを痛感しましたが、それでも京都
の僕の自宅では0.12~14ぐらいの値のなのでやや高いのは間違いない。

それで細川さんたちが行っている除染活動の紹介などから得てきた知識と
して、まずは庭の雑草を刈ってみることをお勧めしました。それで昨日、計測
しなおしたところ、庭の10㎝の値が0.14ぐらいにまで下がっていました。
実際の値がどうであれ、草刈が効果があったのは間違いないと思います。

しかしその庭に面している部屋の中が0.22マイクロシーベルト(毎時)ぐらい
あり、その値はこまめな掃除や、屋根の上の雨トイの泥をのぞくなどした
ものの、あまり下がりませんでした。それで続いて、壁際に生えている雑草
も刈ることを提案しています。

福島での値を考えるならば、RADEX RD1503でのこの計測値で除染を行うことを
大げさという方もいるかもしれない。しかし放射線を浴びることは可能な
限り避けるに越したことはないし、何より、値が高ければ、可能であれば
下げたいと思うのが当然の心情です。

そのために細川さんたちの実践知を援用してみたのですが、効果があることが
部分的にせよ証明できたように思います。この方法なら手軽に行えるので、
もっと多くのところで実践可能だと思います。それで多くの方の被曝を少し
でも軽減させることができる。

そのためには、この実践について、僕自身がもっと実地で教えていただく
必要を強く感じています。それで細川さんにお願いして、次回の福島での除染
活動に参加させていただくことにしました。実践知を得て、それをまた多くの
地域に伝搬させていきたいと思います。

ただしそれで避難すべきものをマスクしてはいけない。あくまでもこの点を
明確にしながらの除染活動に取り組んでいかねばなりません。その上で、
細川さんの書かれている「除染活動を通じて見えてきたこと」という文章は
非常に重要です。以下、お読みください。

*****************

【Nuke】除染活動を通じて見えてきたこと 
京都精華大学 細川弘明
http://itacim.blogspot.com/2011/09/nuke_29.html

月刊『解放』11月号(10月中旬発行予定)の巻頭コラムに寄せた文章
(8月末執筆)をもとに、若干手を加えたものを以下、公開します。

----------------------------------------------
2011年3月11日の原発震災(東電事故)により、政府が住民の避難や避難準備を
指示した区域からさらに数十キロ離れた地域でも法定の「放射線管理区域」を
はるかに上回るような汚染が生じている。本来、ただちに避難(最低限でも
小児と妊婦の退避)がなされるべきだが、事故をなるたけ小さく見せかけたい
政府は消極的な対応に終始し、「ただちに健康に影響しないので心配するな」
との大本営発表が繰り返された。小さな子供や胎児を抱える親たちの中には
意を決して自主的に避難した人も少なくないが、住居・仕事・学校・介護など
様々な制約のある中で汚染地に住み続けざるをえない人々も多い。安心情報を
鵜呑みにして危機感をもたず「普通の日々」を送る人もまた多い。

このような異常な事態を憂慮した私たち(いくつかの大学の教員と福島住民の
協働チーム)は《放射能除染・回復プロジェクト》を立ち上げ、5月中旬の第1
回調査を始めとして、福島市(おもに北東部のホットエリア、すなわち放射能
汚染濃度の高い区域:渡利地区、御山地区、大波地区など)に通って、通学路
や公園や駐車場などの放射線測定、家屋や農園の除染実験、企業との話し合い、
記者会見などを展開してきた(プロジェクトの基本的な考え方や進行状況は7月
19日の記者会見資料を参照されたい)。

事態のあまりの深刻さとスケールの大きさ故、私どもたかだか十数人の活動は
ドンキホーテの如き混乱と滑稽さを伴う。しかし、活動を毎月重ねるにつれ、
少し見えてきたこともある。

当初、国も県も市も、汚染は心配ないレベルだから避難も除染も必要ないとの
姿勢だった。5月頃は「じょせん」という言葉を聞いても一般の人には何のこと
か分からないのが普通だったろう。しかし、私たちのグループ以外にも放射能
除染を試みる動きは日々増えていき、それらが報道されたり、土壌汚染濃度に
ついてのデータが次々と明らかになるにつれ、「このまま住み続けてよいのか」
という問題意識を明確にする住民も増えた。行政の側からすれば「住民の不安」
が放置できないレベルに達したのである。

7月中旬あたりを境に、行政側は突如「除染計画」に積極的になり、そこに
ビジネスチャンスを嗅ぎつけた企業や原子力業界団体の動きもにわかに活発化
した。だが、行政主導の除染は「住民を安心させる」ことが目的化しており、
「避難させない」ための口実にされている。

継続居住が可能な地域の除染は急ぐべきだが、そもそも「継続居住が可能かど
うか」の判断ができるほど綿密で徹底した線量測定を行政が怠ってきた(ある
いは測定結果を公開しないできた)というのが実情である。除染作業では、
ホットスポットの確認や高線量の要因(たとえば児童公園であれば芝地や滑り
台着地点の土など)の特定と除去を優先しておこなうが、地域全体として線量
が高すぎるところでは、まず立入禁止にしたり住民を避難させたりして、そこ
の除染は後回しにするという判断も時には必要となる。

除染の可能性だけを強調して、食品による内部被曝を過小評価するのも大きな
間違いだ。校庭の土を削って放射線量が下がったのでもう大丈夫、さぁ「地産
地消給食」を、といった倒錯した押しつけは受け入れがたい。

私たちのプロジェクトでは、「避難させないための除染」という考え方をとら
ず、除染と避難は「放射線被曝低減」のための総合対応の一環として連携して
実践されるべきもの、との考え方に立つ。また、放射能を拡散させないための
配慮として、できる限り水を用いず、固めて剥ぎ取る方式を追求している
(詳細は前掲ウェブサイトを参照)。

福島県やいくつかの市町村では、圧力水洗浄、つまり放射性物質を含む汚れを
高圧ポンプで洗い流す方法を提唱している。この方法だと、除染現場から汚染
を移動させることはできても回収することができない。汚染水の行き先を考え
ずに「洗え、洗え」では、放射能を拡散させ二次的な汚染(たとえば下流での
ホットスポット形成や農業用水への混入)を招く。現時点でも下水処理場の
労働者の放射線被曝は深刻な問題であるが、それがさらに悪化する恐れも高い。

洗い流すことによる一時的効果は、住民にひとときの「安心」を与えるかも
知れないが、落ち着いて考えれば、人々がたがいに汚染を押しつけ合う結果と
なる。自らを守るために放射能を洗い流そうとする人も、下流でそれを押し
つけられる人も、ともに原発事故の被害者なのである。被害者どうしを分断し、
被害を押しつけ合うような「除染」であってはならない。行政主導の除染事業
では東京電力の責任と義務が不問に付されているが、加害者企業の「汚染物
引き取り責任」と賠償責任を見過ごすわけにはいかない。

原発震災によって脅かされているのは人々の健康であり、経済の基盤である
土地と水であるが、同時に、避難や移住のための正当な支援を受ける権利の
著しい侵害でもあり、被害者が加害者になる状況を強いられるという悲劇で
もある。原発震災は人災であると同時に「人権災害」でもあるということを
銘記したい。
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明日に向けて(273)福島・郡山市土壌汚染濃度 チェルノブイリ被害地匹敵

2011年09月29日 13時00分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110929 13:00)

琉球新報に、「福島・郡山市土壌汚染濃度 チェルノブイリ被害地匹敵」
というタイトルで、矢ヶ崎さんの分析を紹介した記事が載りました。
矢ヶ崎さんはこの内容を、9月16日に行われた神戸講演でも話されており、
すでに「明日に向けて(263)」で紹介していますが、新聞記事はその要約
になっていますので、ポイントをつかむのに便利です。ご活用ください。

ただ記事のタイトルは、必ずしも最も重要な点を表現しているとはいえま
せん。福島・郡山の土壌汚染が、チェルノブイリ被害地に匹敵している
・・・確かに間違ってはいませんが、矢ヶ崎さんがここで強調されている
のは、ウクライナのルギヌイ地区が、国際放射線防護委員会(ICRP)の
もともとの基準である年間放射線許容量を1ミリシーベルトにというライン
を厳格に守ったのに、深刻な健康被害が出たという点です。

つまり年間被曝1ミリシーベルトという基準を守っていても健康にかなりの
害がでるのであり、ICRPの被害想定が大きく間違っていることが明らかに
なっているのです。にもかかわらず日本では1ミリシーベルトすら守らず、
20ミリシーベルトという新たな許容値を出し、健康被害は出ないように
言っている。「棄民政策そのものだ」と矢ヶ崎さんは批判しています。

この点にポイントがあることを踏まえて、以下、琉球新報の報道をお読み
下さい。また参考までに、「明日に向けて(263)」より、当該個所を抜粋
して貼り付けておきましたので、さらに読み進んでいただければと思います。
こうした現実をしっかり把握して、政府の安全キャンペーンに惑わされず、
被曝の脅威を伝えて、放射線からの最大防御をしていきましょう。

************

福島・郡山市土壌汚染濃度 チェルノブイリ被害地匹敵

琉球新報 2011年9月28日
福島第1原発事故で放射能に汚染された福島県内の土壌は、1986年の
チェルノブイリ原発事故で健康被害が続出したウクライナ・ルギヌイ地区
に匹敵する汚染濃度であることが矢ヶ崎克馬琉球大名誉教授の分析で
分かった。同地区は事故後5~6年で甲状腺疾病と甲状腺腫が急増。9年
後、子どもは10%の割合で甲状腺疾病が現れた。通常10万人中数人し
か出ない子どもの甲状腺がんは千人中13人程度まで増えた。矢ヶ崎氏は
「福島で同じような健康被害が出る恐れがある。子どもの遠方避難を含む
被ばく軽減策に全力を挙げるべきだ」と訴えている。

福島県内の土地について文部科学省が8月30日に発表した詳細な汚染度
(放射性セシウムの濃度)調査の結果を基に、ルギヌイ地区の汚染状況と
郡山、福島両市の汚染濃度を比較した。

ルギヌイ地区はチェルノブイリ原発から西へ110~150キロ離れた場
所で、強く汚染された地域。ウクライナの汚染度区分は三つのゾーンに分か
れている。移住の判断基準は国際放射線防護委員会(ICRP)基準を原則
的に適用し「年間自然放射能を除いた1ミリシーベルト以上の被ばく」と
設定されている。1平方メートル当たりで、55万5千ベクレル以上が
「移住義務」、55万5千ベクレル未満~18万5千ベクレルが「移住権利」、
18万5千ベクレル未満~3万7千ベクレルが「管理強化」となっている。

ルギヌイ地区の汚染程度は「移住義務」と「移住権利」を合わせた地点数の
割合は13・3%に対し、郡山は14・4%、福島市は33・0%。両市の
方が汚染度の高い地域が多い。汚染の少ない「無管理地域」の割合はルギ
ヌイ地区が1・5%で、郡山市27・1%、福島市10・6%と両市の方が
多い。濃淡分布の幅の違いはあるが平均値などをみると「汚染度はほぼ
同程度とみなせる」という。

ルギヌイ地区では、子どもの甲状腺疾病の罹患率が上がったほか、同地区全
病院全ての患者に免疫力の低下や感染症の増加・長期化などが確認された。
90~92年の死亡率を事故前の85年と比べると、死期は男性で約15年、
女性で5~8年早まっていた。

矢ヶ崎氏は「ウクライナの法定放射能定義はICRPの基準に従っているの
に、その基準は健康管理の点ではあまりにも甘すぎたことを示している。
健康被害は年間1ミリシーベルト以下でも深刻だ。だが日本政府は緊急時の
措置として20ミリシーベルトを設定した。許し難い。住民を『被ばく
されっぱなし』の状態に置く『棄民』政策そのものだ。国民の健康管理の
面から、その点は厳しく追及されねばならない」と強調した。(新垣毅)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-182154-storytopic-1.html

****************

明日に向けて(263)内部被曝-怒りを胸に、
楽天性を保って最大防護を-(矢ケ崎さん講演碌)より抜粋

http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b19e726f856b3d9ac679c9658610e683

それで福島について、文科省がメッシュ測定をおこなって、線を網目にして福島
県だけで2200か所測定したものがあります。それでちょうど福島市と郡山市の
青色のゾーンがありまして、ここが線量が高くなっています。この部分は栃木県
や埼玉県や千葉県にもあります。ホットスポットといわれる地帯です。

これをチェルノブイリと比較しました。チェルノブイリのルギヌイ地区のデータ
があります。それがまず私たちが比較していい汚染内容を持っています。なので
かなり突っ込んで分析しました。

ウクライナの法定汚染ゾーンがあります。1年間にどれだけ被曝するかの数をみて
いきますが、一番高いところは移住義務、次が移住権利、次が管理強化という
ゾーンになります。注目するところは、移住権利のところが、自然の放射線より
1ミリシーベルトだけ高い所とされていることです。この地域はもともと年間0.6
ミリシーベルトで、1.6ミリ以上だと、1ミリ高い場所になるのです。

ウクライナはこの年間被曝許容量1ミリシーベルトという条件をきちんと守って
いるのです。日本はそんなことをやるどころか、20ミリシーベルトと値を上げて、
我慢しなさいといっています。「頑張ろう福島」とかいいますが、「我慢しな
さい福島」と私には聞こえます。その点、ウクライナには1ミリを守ろうとした
誠実さがあります。

ここで強調したいのは、1ミリとはどれぐらいの放射線なのかです。誰もが少ない
値だと思ってしまいます。しかしこれは毎秒1万本の放射線があたる値です。1年
では億になります。けして放射線量が低いなどとは言えたものではないです。
ウクライナの誠実さは厳格に実施されていますが、しかしこれによって住民が救わ
れているかというと、まるっきりそうではないのです。

ルギヌイ地区の分布は大部分が管理区域です。85.2%です。移住権利地区と、
移住義務地区は、14.8%です。それに対して福島市は義務と権利を加えて33%に
もなります。これをみると福島はルギヌイ地区より高い放射線を浴びていること
がわかります。郡山市は、ルギヌイと同じぐらいの線量です。ただし管理地区に
入らないところも福島・郡山の方が多いところにも特徴があります。これは今後
のこれらの地域の健康状態をかなり示すことになります。

ルギヌイ地区の健康状態がどこに乗っているかというと、今中哲二さんが、
「チェルノブイリ事故による放射能災害、国際共同研究報告書」を書いています。
これをみると、100ミリ以下ではデータがないなどというのがいかにでたらめか
分かります。実際には100ミリ以下でいっぱい病気がでてきているのに、いかに
公式記録に載せないかが苦慮されてきたことがわかります。

ルギヌイ地区では、免疫力の低下がまず第一にあげられています。感染症の増加
長期化などさまざまな症状があらわれています。特徴的なのはガンの第3期から
4期にある人の平均余命が、胃がんで60ヶ月だったものが、1992年には8ヶ月に
落ちています。肺ガンでは40ヶ月が、8ヶ月です。さらに1996年には、2.3ヶ月
と2ヶ月にまで落ちています。

新生児の病気にかかる率や、先天性形成障害、精神神経的障害も増えています。
これについてICRPの医師たちは、これらの原因を、放射能を浴びたのではないか
心配するころからくるストレスのせいにしています。

一番ショッキングなのは、老化がもの凄く早まっていることです。年齢別に比較
するとピークの死亡率を一番高くカウントする年齢が10歳若くなってしまった。
平均余命では1985から1990、1992年で男性の死期は15年近く短縮し、女性は5年
から8年短縮しています。女性の方が子孫を残していくために強さがあるのですが、
そこでも5年から8年短くなっている。

子どもの甲状腺の病気と癌については、特徴的に事故から5年経ったときに、突然、
もの凄い数であらわれてきています。1995年で9年後で1000人中100人の子どもが
病気になり、1000人中12、3人が癌になっています。こういう実情があるのに、
政府からたくさんの研究者を派遣して病気の痕跡がないという報告が出ている。
科学をかたっているので余計に怖さが際立ちます。



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明日に向けて(272)内部被曝はなぜどのように恐ろしいのか

2011年09月28日 09時00分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)

守田です。(20110928 09:00)

今日はこれから信楽に向かいますが、今日のお話で触れたいことは何よりも内部被曝の恐ろしさについてです。9月16日に神戸で行われた矢ヶ崎克馬さんが語られた内容を紹介しようと思うのですが、いまここで僕は、自分自身が内部被曝の恐ろしさについて、311まで、けして十分には理解していなかったことを捉え返しておきたいと思います。

もちろん僕は311までも原発に反対でしたし、集会やデモにも参加してきました。多くの文献で、原発の危険性についても学んできました。しかしその危険性は、主に大事故の可能性を孕んでいることについてで、原発が通常運転の状態でも微量の放射能を出し続けていること、それが私たち生きものにとって極めて危険であることを十分に捉えてこれませんでした。

低線量被曝の恐ろしさが十分に分かっていなかったのです。そのため広島・長崎の被爆者の方々の苦しみも十分には理解してこれなかった。悔しいような、申し訳ないような気がします。今一度、被爆者の長年にわたる訴えに耳を傾け、その中から歩んできた肥田先生や、矢ヶ崎さんに学び続けていこうと思います。


矢ヶ崎さんは、神戸のお話で、放射線被曝の恐ろしさを二つの相に分けて語られました。放射線は、電離作用という力を持っています。物質は原子が周りをまわっている電子の軌道を共有することで接合し、分子を形成しているのでが、放射線はその電子をはじきとばすことで、分子を切断してしまいます。これを電離化、あるいはイオン化といいます。

私たちの遺伝子情報の鎖であるDNAに則して電離作用をみていくと、放射線があたることにより、DNAもまた切断されてしまいます。しかしDNAは二重らせんになっていて、切断されても修復する力を持っています。しかしたくさん
の放射線を浴びると、修復が追い付かず、切断状態を回復できずに、DNAが死んでしまいます。これが重なると急性症状がでて、危険性が高まります。

これに対して、それほど高線量ではないけれども、ダメージが大きかった場合、修復はなされるのだけれども、遺伝子情報の誤った再生、間違った修復がなされてしまうことがあります。これが危険性の二つ目の相です。間違った遺伝子情報は、さらに細胞分裂でコピーが繰り返されていき、やがてガンになっていくのです。

DNAの死滅と誤った再生という二つの危険相は、高線量でも低線量でも起こりますが、どちらかというと、高線量の場合に細胞の死滅が起こりやすく、急性症状になりやすい。反対に低線量の場合は、染色体の誤った再生とコピーによりガンにいたっていく可能性の方が高くなります。このため低線量被曝では、急性症状よりも晩発性のガンが発生しやすくなります。


つぎに重要なのは外部被曝と内部被曝の違いです。放射能、ないし放射性物質が発する放射線は、α線とβ線とγ線ですが、α線とβ線は空気中で、それぞれ45ミリ、1メートルぐらいしか飛ばないため、外部被曝で体にあたるのほとんどγ線です。3つの放射線の中で一番エネルギーが少ない。これが全身にバラバラに、粗い密度であたります。

これに対して内部被曝の場合、核種によって違うものの、3つの放射線の全てが照射されます。α線とγ線をだすもの、β線とγ線を出すものなどがあります。γ線よりもα線やβ線の方がエネルギーが大きく、打撃力が高い。もちろんその方が人体に対する影響も大きいのですが、問題は、内部被曝の場合、放射線が局所に集中的に、高い密度であたることです。

ここに外部被曝と内部被曝の大きな違いがあります。外部被爆ではおもにγ線しかあたらない。γ線も量が多ければ人体に深刻な影響を与えますが、α線やβ線に比べると、分子との衝突の可能性が低いのです。そのためにα線やβ線よりも遠くまで飛んでいく。衝突でエネルギーを失うことがより少ないから、いろいろなものを通過しやすいのです。

これに対してα線やβ線が、あまり飛ばないのは、すぐに近くにある分子と衝突し、電子を弾き飛ばす電離作用を及ぼすからです。そのときにエネルギーを失う。α線が空気中でも45ミリしか飛ばないのは、その間に激しく空気中にあるさまざまな分子に衝突し、電離作用を繰り返すからです。β線も、γ線より激しく分子にあたるので、空気中では1メートルしか飛ばない。

これが体内に入るとどうなるか。α線やβ線は、チリとなってとりこまれた放射線物質のすぐそばの細胞に激しくあたっていく。こうなると何ミクロンという距離しか飛ばなくなる。その間にある細胞の分子を切断し、激しく損傷させてしまいます。これが高い密度であたるという意味です。そのため細胞は修復不可能なダメージを受けてしまう。

細胞がそのまま死滅してしまうことがたくさん起こると急性症状が出てきて、死に至ることもあります。そこまで悪化しなくても、免疫力が大きく落ちて、あらゆる病気が発症しやすくなり、体力や気力が突然維持できなくなる、「原爆ぶらぶら病」と呼ばれてきた症状もでてきます。生命活動の源が大きく破壊されてしまうことでこの症状が出て来る。

これに対して、細胞の中のDNAが必死になって修復を行うのだけれども、正しい修復ができずに、間違った修復がなされてしまうことも起こります。先にも述べたように、間違って修復されたDNAは、細胞分裂の繰り返しで、何度も
コピーされていき、どんどん増えていく。それが何十年という時間を経てガンとしてあらわれてきます。晩発性の障害といわれるものです。


外部被爆でも、線量が多ければこのような症状がでてきますが、線量が同じだった場合、外部被曝ではいわば体のあちこちにバラバラに放射線があたるので、それぞれの箇所で、細胞が行う必死の修復作用が成功する可能性が高い。しかし内部被曝では、体の一部でしか作用が起こりませんが、その場所は修復が難しいダメージを被ってしまいます。

比喩をしてみましょう。10本の細い針で皮膚をつつくことを考えてみてください。軽くつつくなら皮膚は破れないかもしれない。ところが針を10本束ねて一か所だけを刺す場合ではどうでしょうか。刺される場所は10分の1ですが、針の太さは10倍になっています。そのため同じ力でつついても、皮膚が破れて針が通ってしまいやすくなる。

ただしこの比喩ではまだ内部被曝の外部被曝に比べた恐ろしさを十分には伝えていません。両者の密度の差がここでは10対1になっていますが、実際にはもっと大きな差があるからです。ではどれぐらいでしょうか。ヨーロッパ放射線
リスク委員会(ECRR)は、同じ線量の被曝の人体に対する影響は、内部被曝の場合、平均して外部被曝に対して600倍して考えるべきだと指摘しています。


こう考えてくると、内部被曝と外部被曝を単純に足し合わせて、被曝量の総計としている今の主流的な考え方、国際放射線防護委員会(ICRP)の計算式がまったく間違っていることが見えてきます。かりに内部被曝1ミリシーべルト、内部被曝1ミリシーベルトなら、内部被曝に600をかけなければならない。つまり足し合わせて2ではなく、601とみなすべきなのです。

にもかかわらず、食物の中に含まれた放射線物質何ベクレルを年間これぐらい食べると、何シーベルトになるという計算が繰り返されています。こうすると1キログラムあたり500ベクレルもの高い値のものを毎日食べても、「レント
ゲンと比べても気にするほどの量ではない」ということが語られるようになります。

そもそも病を発見するメリットのために被曝のデメリットをおかすレントゲンを比較対象にすること自身も大きな誤りですが、ここには外部被曝であるレントゲンと、内部被曝である食べ物から被曝をまぜこぜにして語っている誤りもあります。比較するなら食べ物からの被曝を600倍しなければいけない。そうすればどれほど大きな被曝なのかが浮かび上がってきます。


まとめます。内部被曝の恐ろしさは、外部被曝に比べて被曝が高密度でなされ、私たちの人体が持っている細胞の修復能力を上回る被曝が行われる可能性が高いことです。しかも外部被曝ではエネルギー量の低いγ線が主役であることに対して、内部被曝では、よりエネルギー量が高いα線やβ線が主役になってしまう。それが高密度で細胞を攻撃するのです。

このため内部被曝と外部被曝はまったく違うものであると考えたほうがよい。両者を足し合わせて人体の影響を測るのなら、内部被曝の線量を600倍して考えるべきですが、そもそも人体への影響の仕方がかなり違っています。注目すべきことはこの両者の抜本的な違いが無視されてきていることです。内部被曝は今なお隠された被曝なのです。

飲食物の放射線物質に対する安全基準も、放射性物質の付着した汚泥やがれきを燃やすときの安全基準も、この内部被曝を無視した考え方の上に成り立っています。大きな危険性が隠されています。だからこそ汚染物質を徹底して避け、がれきの移動や焼却も認めないことが大事です。
とりあえず、今回はここまでとしておきます・・・。


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