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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」157

2016年11月08日 | 物語「水辺ノ夢」

「ただいま」

南一族の自宅に
圭が戻ってくる。

「圭、心配したのよ。
 急に姿が見えなくなったと思ったら
 湶が西一族の村に行ったと言うから」

圭の母親が、安堵の息を吐く。

「ごめん」
「これ以上心配させないで。
 もう、用事は済んだのね」

「そのことなんだけど」

圭は母親を見つめる。

「話があるんだ」
「……話って」
「みんなに聞いて欲しい」
「………」
「………」
「……大事な、話なのね」

母親は、そう、と
圭に触れかけていた腕を下ろす。

「父さんを呼んでくるわ」

さてと、と
少し離れて聞いていた湶が
先に席に着く。

この家で、家族が集まって話す場所と言えば
この居間だ。

「どうだった?」

「子ども生まれていたよ」
「そうか」
「女の子だった」

「俺も伯父さんかぁ」

で、と湶は問いかける。

「杏子と話せたんだ」

「少しだけ」

それから圭は
ふぅっと、長いため息をつく。

「あれ言おう、これ言おう、って
 色々考えていたんだけど。
 思っていたよりも度胸がなかったというか」

「まぁ、気まずいよな」

「次は、もうすこし
 きちんと話さないと」

そう、と
湶は頷く。

「良かったな」

「いや、杏子にはもう巧も居るし
 もう来ないでと言われるかもしれない」

何が良かったなのか
圭には分からないが、
湶は少し嬉しそうだ。

圭は首を捻る。

やがて、父親も揃い
圭は皆に報告をする。

杏子に会ってきた事。
子どもが生まれた事。

そして、

「今回、南一族の村に戻って来たのは、
 荷物をまとめるためだよ」

「それは」

父親が言う。

「西一族の村に戻ると言うことか?」

圭は頷くと
母親は声を上げる。

「でも、あの子には
 新しい相手も居るのでしょう。
 戻ってどうするのよ」

「それでも」

圭は、両親に言う。

「俺は、やっぱり
 西一族の村で生きていく」

「でも」

「仕事も何か探そうと思う。
 むこうで透にも相談してきた」

「俺は、圭がやりたいように
 やれば良いと思うよ」

良い仕事が見つかると良いな、と、湶が言う。
圭は、この兄に
随分と助けられている。

「戻ってきたのは、
 荷物の事もあるけど」

それに、母親が言うことは
自分を心配しているから
出てくる言葉だとも、分かっている。

「皆に、話してから行かないと
 と思ったから」

自分が言えた事ではないけど、
なおのことそう思う。

「勝手に居なくなるなんて
 いけないよな。
 家族なのだから」



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