補佐役は顔を上げる。
会議室で仕事をしていたところだった。
そこに、誰かが部屋へと入ってくる。
「なんだ、巧」
巧を見て、補佐役は書類をまとめる。
「生まれたんだってな」
「ああ」
「子どもは黒髪だったと」
「・・・ああ」
「どうしたもんか」
補佐役は肘をつく。
「南に移住した西の者に、託すか」
「そのことなんだが」
巧は立ったまま云う。
「子どもと母親は、うちには不要だ」
「・・・・・・」
補佐役は一瞬目を細める。
が、
すぐに、頷く。
「まあ、そうだろうな」
云う。
「家に黒髪がふたりもいるのは、な」
とりあえず坐れ、と、補佐役は手を出す。
「だが、あいつらにはほかに居場所はない」
「圭の家に住まわそうと思う」
「何?」
「あそこは今、空き家だ」
「おいおい」
補佐役が云う。
「空き家ではなく、あくまでも留守の家だ」
そして、そんなことはどうでもいい、とも。
「とにかくそれは出来ない」
「なぜだ」
「誰が面倒を見るんだ」
「自分で何とかするだろう」
「ダメだ。お前の家に連れて帰れ、巧」
「うちには不要だと云っている」
「早いうちに、生まれた子どもは南へ出してやる」
補佐役が云う。
「お前との子は、白い髪の男かもしれん」
巧は首を振る。云う。
「魔法を使う西一族でも考えているのか」
「巧」
「俺には不要だ」
巧は云う。
「沢子だか、誰だか面倒を見るだろう」
「お前は、あの女の見張りも兼ねているんだぞ」
「東の女が逃げるわけがない」
「巧」
「話は終わりだ」
「おい、巧!」
巧は立ち上がり、部屋を出る。
そのまま、病院へと向かう。
部屋の前に来ると、
ちょうど、病室から高子が出てくる。
「巧」
「退院はいつだ?」
「杏子のことかしら?」
高子は診療簿を持ち直す。
「明後日には子どもも一緒に退院していいわよ」
「わかった」
「迎えに来てあげてちょうだい」
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