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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」155

2016年11月01日 | 物語「水辺ノ夢」

圭は複雑な表情を浮かべながら病院を出る。

受付に居た医師見習いの男の姿は無い。
居たら、
今の圭に何か言っていただろうか。

巧が圭を殴ったのは当然のこと。

一発で済んだのは
巧の優しさだろうか、
それとも
これ以上関わる気は無いという事か。

「子どもの名前」

杏子が大変な時、
側に居なかった自分に
そんな資格があるのだろうか。

名前を、と
急かされて、とっさに出た名前。

「そもそも。
 ああいうのは
 もう少しじっくり考えた方が」

西一族の女の子には
【子】が多いが
最近は【葉】を付けるのが流行っている。

「真、は、
 南一族の名前に多かったな」

そう呟きながら圭は立ち止まる。

「………なんだ」

おそらく、あの子が男の子でも
すらりと名前は出てきていただろう。

きっと、
子どもが出来たと分かったときから。

「名前、考えていたんじゃないか」

黒髪の、杏子に似た女の子だった。
圭と杏子の子ども。

「真都葉」

圭は病院を出て、
家へ向かって歩き始める。

「圭、久しぶりだな」

声に振り向くと
透が手を振っている。

「沢子に聞いたよ。
 帰って来ていたのだって」

話が伝わるのが早いな、と
圭は苦笑する。

近づいた透は
圭の顔を見て
少し言葉を濁らせる。

「杏子と話してきた?」
「ああ」
「まぁ、色々あると思うけど
 話しておいた方が良い」

少しずつ腫れてきた頬に
何か想像を巡らせているのだろう。

けれども、
こうやって圭に話しかけてくれるのは
ほんの限られた人達だけだ。

「透」

彼に頼ってばかりだと思うが、
他に手立てもない。
圭は言う。

「何か仕事をしたいんだけど」
「仕事?」

透が驚いている。
それもそのはず。
狩りが出来ない圭に
出来る仕事など限られている。

「小遣い稼ぎのような
 小さな仕事でもいいんだ」

慌てて付け足す圭に
透は頷く。

「良い事じゃないか。
 分かった。
 あてが無いか探してみるよ」


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