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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」161

2016年11月22日 | 物語「水辺ノ夢」

「もう、こんな時間」

もうそろそろ、日が沈む。
肌寒さを感じて
杏子は立ち上がる。

真都葉は眠っている。
今は静かだが
すぐにまた泣き出すだろう。

扉を開け真都葉の様子を見られるようにして
庭に出て、急いで洗濯物を取り込む。

僅かな間だが、
こうやってそばを離れる時も
何か起きるのでは、と
少しも目を離す事が出来ない。

「………」

ドサッと何かが床に落ちる音が聞こえる。

「真都葉!!」

もしかして、真都葉が落ちたのでは、と
慌てて杏子は家の中に駆け戻る。

「真都っ……!!」

真都葉は先程見たときと同じ
静かに眠っている。

今の音は、
荷物が床に落ちた音。

そこに、人が立っている。

「………圭」

圭は、驚いた顔で
杏子と真都葉を見ている。

「え?杏子!!なんで?」

驚いたのか、
圭が大きな声を上げかけたので
杏子は慌てて静かに、と
人差し指を唇に当て
そして、真都葉の方を見る。

「あ、ああ、
 ……ごめん」

落ちた荷物は
圭が持ってきた物だ。
今、帰って来たのだろう。

本当に、

帰って来た。

「杏子、あの」

圭は必要以上に
声を潜めて杏子に話しかける。

余程驚いたのか、
今まで見たことが無いと言うくらい
目を見開いている。

「圭」

圭が病室を尋ねてきた時
自分もこうだったのだろうか。

杏子は言う。

「おかえりなさい」

圭は、思わず言葉を無くす。
それから、
部屋のあちこちを見回し、
杏子がここで暮らし始めたのは
昨日今日の話ではないと知る。

「巧の所に居るんじゃ」

杏子は首を横に振る。

暫く黙り込んでいたが、
絞り出すように圭が尋ねる。

「杏子は、良いのか、……ここで」

杏子は答える。

「ここが、良いわ」


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