TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」159

2016年11月15日 | 物語「水辺ノ夢」

「困ったものだわ」

西一族の村の病院で
医師の高子がため息をつく。

「先生、どうしました?」

医師見習いの男がカルテを整理しながら
目線は向けずに尋ねる。

「杏子が、圭の家に居るらしいの」
「・・・・・・あんず」

医師見習いの男は、
少し頭を整理させて言う。

「あの、東一族の女ですね」

「その言い方は止めなさい。
 ウチの患者なのよ」
「気をつけます」

そう返事はするが、
見習いの男に反省の色は見られない。
東一族は西一族と敵対する一族。

村人達の杏子への態度は
今の彼の返答に現れている。

「でも、誰だって東一族は嫌でしょう。
 巧も保った方じゃないですかね」

「そういう風には見えなかったわ」

高子も杏子の事は気にはかかるが
一人だけを集中して見る事は出来ない。
この村の医師は不足している。

「一人っきりなんて。
 圭の家には誰も居ないじゃない」

あぁ、そういえば、と
医師見習いの男が言う。

「先日、圭が来ていましたよ」
「圭が、いつ??」
「東一族の女が退院する
 数日前だと思いますけど」

先生がちょうど
外出されていた時です、と
男が付け足す。

「そういう事は
 ちゃんと報告して!!」

「すみません」

「圭は、杏子に会いに来たのね。
 子どもが生まれた事を
 聞いて来たのかしら」
「いや、まさか生まれているとは知らず
 尋ねて来たとう感じでしたよ」
「それから」
「その日のうちに、南一族の村に
 帰ったそうですよ」

高子はほおづえをつく。

「圭は、戻ってくるかしら」

子どもの顔を見たのならば、と
高子は圭を信じたい。

「どうですかね。
 あそこは母親が強いですから」

それに、と医師見習いは言う。

「帰って来てどうします。
 出て行く前と同じでしょう。
 圭に誰かを養う事が出来るんですかね」

「出来る出来ないの話じゃないの。
 もう、子どもは生まれているのだから、
 どうにかするしかないのよ」

おや、と男が答える。

「先生が一番厳しいな」


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