TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」57

2014年03月11日 | 物語「水辺ノ夢」

病院からの帰り道、圭は補佐役に会う。

「ばぁさんは、どうだ?」

圭は首を振る。
このまま病態が悪化していくのを見ていくしかないのか。

補佐役はその様子に、ぽつりと呟く。
「村長に、話をしてみるか」
「……え?」
補佐役はそのまま立ち去る。
村長が言えば祖母が手術を受けると言うのだろうか。
圭は首をひねる。

家に帰ると杏子が昼食を盛りつけていた。
「おかえり、そろそろだと思っていたから、
 もう作っていたの」
「あぁ、ただいま。お昼にしようか」
2人はテーブルにつく。
食材は圭が準備した物だが、見慣れない料理が並ぶ。

「これ?東一族の料理?」

野菜が中心となる東一族の料理は
西一族と味付けから違う。
「そうなの、材料があったから、出来そうだなって。
 どうかしら?」
「……初めて食べる味だけど、うん、
 たまにはこっちを作ってよ」
「そう、ありがとう」

食事が済み片付けが終わった頃、杏子は1つの紙を差し出す。

「あのね」
昨日手紙を書きたいと言っていたから、朝、杏子に渡した物。
「湖に流して貰えないかしら」
私は外に出られないから、と。
圭はその紙を受け取る。2つに折られていて中身は見えない。
見てはいけないような気もした。
「……これ誰に?」

杏子は言う。

「家族に宛てたの。私は、元気だよ、って」

圭はぐっと言葉を飲み込む。
自分が祖母を心配するように、
杏子にも家族が居て、急に居なくなった彼女を案じている。

「それなら、きちんと出そう。
 北一族にうまく渡せれば、もしかしたら」

「いいの」

杏子は首を横に振る。

「きっと圭に迷惑をかけてしまうわ。
 北一族に会うのだって難しいんでしょう」

「……杏子」

圭は気付く。
さっきの料理だって、きっと手紙を書きながら
東一族の事を思い出したのだろう。
故郷の味は、家族の味だ。

沈黙した圭に杏子は笑う。

「言いたかったの。結婚したよって」


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「水辺ノ夢」56

2014年03月07日 | 物語「水辺ノ夢」

麻樹(あさき)は、家を出る。

まだ、誰も動かない時間。
麻樹は、村を歩く。
村を出て、そのまま、水辺へと向かう。

そこには

誰も、近寄らない。

水辺には、草と木々が生い茂り、道もない。
麻樹は、草をかき分け、進む。

ここ最近、そうやって、水辺へと通っている。
そのせいか、
はじめて水辺に来た時より、ずいぶんと歩きやすくなっている。

自分が、道を作っているのか。

そう思うと、少しおかしくなる。
麻樹は口元を緩め、水辺へと進む。

しばらく進むと、水辺にたどり着く。

静かな水辺。

もちろん、誰もいない。

水辺は、霧でおおわれている。
肌寒い。

麻樹は、辺りを見る。
そして
水辺の向こうを、見ようとする。

けれども、見えない。

麻樹は、待つ。

霧は、一向に晴れない。

ため息をつく。

水辺に背を向け、村へと戻りだす。

いつも、そうだ。
長い時間、ここにいることは出来ない。
早く戻らないと、村人が動き出してしまう。
自分が、ここに来ていることに、気付かれてしまう。

麻樹は、早足で、村へと入る。

しかし

「梨子・・・」

麻樹は、立ち止まる。
息をはく。

東一族の村の入り口に、梨子がいる。
麻樹を、待っていたかのように。

梨子は、麻樹を見る。
云う。
「水辺に近付くことは、禁止されています」
「ああ」
麻樹は、歩き出す。
「わかっている」
そのまま、梨子とすれ違うように、村へと向かう。
「待ってください」
麻樹は、立ち止まらない。
「私も、兄も、あなたの行動に気付いています」

梨子が云う。
「ここ最近、・・・水辺に向かわれていますね」


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「水辺ノ夢」55

2014年03月04日 | 物語「水辺ノ夢」

圭は病院を訪れる。
病室に行くと祖母が出迎える。

いつも通りの事。

「ばあちゃん、具合はどう?」

「この通りさ。
 圭が来てくれてるから良くなるんだねぇ」

圭はその様子を見る。
無理をして空元気を装うときもあるが、今日は本当に調子が良さそうだ。

「ばあちゃん。……あの、俺、さ」
「なんだい」

きっとこんな時でなければ言う機会がない。

「俺、結婚したんだ……けど」

「あら、まぁ!!!
 早く言わないかい、そんな事は。
 私からお祝いが出来ない所だったじゃないか、ちょっと待ってなさい」

「お祝いとか気にしなくていいよ!!
 それで、あの」

圭は祖母に向き直って、言う。

「東一族の人、なんだ」

祖母は目を見張る。
今の病状だ。
下手な心配はさせまいと、高子は何も伝えていないだろう。

「俺の事、選んでくれるのは
 後にも先にも彼女しかいないと思う」

あらー、と、気の抜けた声を祖母は出す。
驚かせすぎたか、と圭は慌てる。

「そんな時代になったんだねぇ」

ひっそりと祖母が言う。

祖母の世代は、まだ東一族との争いが激しかった。
若い世代より東一族を憎む人が多い。

「良いことじゃないか、圭」

病室の窓を眺めながら、祖母は笑う。
きっと、遠く、湖の方を見つめながら。



しばらく話した後、圭は病室を出て診察室に向かう。

「高子」

「居るわよ、入って」

病室で高子は、圭の腕の傷跡を見る。
狩りの際についた傷だ。

「傷跡は残るけど、後遺症は無さそうね。
 あとは年に数回注射を打ちに来て。
 菌が体に残っているかもしれないから」

「高子」

「うん?」

「ばあちゃんに、杏子の事、話した」

「……そう。驚いていたでしょう」

「でも、認めてくれた。お前が選んだ人ならって」

杏子が居て、祖母が居て、
高子や透達のように声をかけてくれる人が数人いる。
それだけで、圭は幸せだ。

「ばあちゃんに手術の話をするんだけれど」

結局狩りで実績は残せなかった。
けれど、高子と相談して、手術代は少しずつ返していくという事で落ち着いた。
何十年がかりになるか分からないが、それでも構わなかった。

「自分にそんなお金を使うなって」

だが、肝心の祖母は手術を拒否している。

「うんって言わないんだ」

圭はうなだれる。



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