梨子の言葉に、麻樹は立ち止まる。
辺りを見る。
東一族の村の入り口には、彼らしかいない。
梨子が云う。
「杏子姉さんが、・・・心配なのですね?」
麻樹は、答えない。
「その気持ちは、わかります。でも、どうか、水辺には近づかないでください」
麻樹は、梨子を見る。
「罰する?」
「いいえ」
梨子は、首を振る。
「あなたを、罰することは出来ません」
「そう」
「ただ、あなたを危険な目にあわせたくありません」
「・・・杏子は」
「え?」
「杏子は、危険な目に、あっているのだろうか」
「・・・・・・」
梨子は、うつむく。
「私も、杏子姉さんが、心配です」
麻樹は、何も云わない。
「そして、杏子姉さんを心配して動こうとする、みなさんのことも心配です」
云って、梨子は、麻樹を見る。
麻樹は、目をそらし、歩き出す。
「待って!」
麻樹は立ち止まらない。
梨子は、慌てて、麻樹の後を追う。
「待ってください!」
梨子は、麻樹を呼ぶ。
「これを」
梨子は、麻樹に近付き
その手に、取り出したものを握らせる。
「梨子・・・?」
麻樹は、それを見る。
そこに、東一族の装飾品、が。
中でも、結婚の相手に贈る、特別なもの。
「大兄様が、・・・光院が、杏子姉さんに渡そうとしていたものです」
梨子が云う。
「杏子姉さんに渡せなかったので・・・」
梨子は、麻樹を見る。
「代わりに、杏子姉さんのお父様に」
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