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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」61

2014年03月25日 | 物語「水辺ノ夢」

「君は、西一族……か?」

東一族の男が、圭に問いかける。

東一族と接触するつもりは無かった。
ただ、杏子の手紙を置いてくるだけのつもりで
こんな時間に、人が居るとは思っていなかった。

うかつ過ぎた。
圭は問いかけに答えていないが、
相手には西一族だと言うことはばれているだろう。

「俺は、手紙を届けに来ただけで、すぐに引き返します」
「……手紙?」

幸い相手に攻撃の意志はなく、様子を見ているところだ。
親ほどの年齢だろうか、それならば、
もしものときは振り切って逃げられるかも知れない。

圭は覚悟を決め、舟を岸に着ける。

「これを」

瓶ごと、その手紙を渡す。

「これを、彼女の家族に」

その言葉に東一族は驚いたように顔を上げる。

「待ってくれ!!」

舟に戻ろうとしていた圭は、思わず立ち止まる。
東一族は瓶から手紙を取り出し、慌てて中を確かめる。

圭は読まなかった杏子の手紙。
家族に宛てられた物。

「……」

東一族は深いため息をつく。

「この子は、今、幸せか?
 私はこの手紙を、どこまで信じたらよい?」

圭は向き直る。

「俺からは信じてくれとしか言えない」
「……そう、か」

東一族は懐から装飾品を取り出す。

「これを君に預ける」

圭は首をひねる。
東一族の意図が分からないが、それを預かると急いで舟に乗り込む。
圭を攻撃する意志はないようだが、いつまでも敵対する村には居られない。

東一族に見守られながら舟は岸辺を離れる。

「娘を……杏子を、頼む」

圭はその声に振り返る。
東一族の男が、麻樹が、圭に頭を下げている。

杏子の……父親?
そんな偶然があるのだろうか、と、ふと気づく。

偶然ではない。
それはそうだ、家族が、娘が突然いなくなったのなら
必死で探すだろう。
こんな深夜の、危険な場所にまで。

「その装飾品は、杏子の婚約者からの贈り物だ」

麻樹の言葉が追い打ちのように、圭に届く。
圭は預かった装飾品が急に重みを増したように錯覚する。

「渡すか、渡さないかは君が決めると良い」



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