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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」56

2014年03月07日 | 物語「水辺ノ夢」

麻樹(あさき)は、家を出る。

まだ、誰も動かない時間。
麻樹は、村を歩く。
村を出て、そのまま、水辺へと向かう。

そこには

誰も、近寄らない。

水辺には、草と木々が生い茂り、道もない。
麻樹は、草をかき分け、進む。

ここ最近、そうやって、水辺へと通っている。
そのせいか、
はじめて水辺に来た時より、ずいぶんと歩きやすくなっている。

自分が、道を作っているのか。

そう思うと、少しおかしくなる。
麻樹は口元を緩め、水辺へと進む。

しばらく進むと、水辺にたどり着く。

静かな水辺。

もちろん、誰もいない。

水辺は、霧でおおわれている。
肌寒い。

麻樹は、辺りを見る。
そして
水辺の向こうを、見ようとする。

けれども、見えない。

麻樹は、待つ。

霧は、一向に晴れない。

ため息をつく。

水辺に背を向け、村へと戻りだす。

いつも、そうだ。
長い時間、ここにいることは出来ない。
早く戻らないと、村人が動き出してしまう。
自分が、ここに来ていることに、気付かれてしまう。

麻樹は、早足で、村へと入る。

しかし

「梨子・・・」

麻樹は、立ち止まる。
息をはく。

東一族の村の入り口に、梨子がいる。
麻樹を、待っていたかのように。

梨子は、麻樹を見る。
云う。
「水辺に近付くことは、禁止されています」
「ああ」
麻樹は、歩き出す。
「わかっている」
そのまま、梨子とすれ違うように、村へと向かう。
「待ってください」
麻樹は、立ち止まらない。
「私も、兄も、あなたの行動に気付いています」

梨子が云う。
「ここ最近、・・・水辺に向かわれていますね」


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