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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」63

2014年04月01日 | 物語「水辺ノ夢」

水辺の舟の上で、圭は座り込んで考える。

村に戻らないといけないが
船着き場には、見張りも戻っているだろう。
霧が出ているとはいえ、夜の見張りが終わる明け方まで村へは近寄れない。

家を出るときに、杏子は眠って居たが
圭が居ないことに気付いたら、また心配するかも知れない。

「……杏子」

圭は麻樹、杏子の父親から預かった装飾品を取り出す。

杏子の婚約者から、と、言っていた。
麻樹の言葉が間違いでなければ、光の事だ。

次期宗主だと言っていた。
彼が病で死ななければ、杏子は今、圭の元には居なかっただろう。

「あぁ、俺は」

圭は呟く。
杏子と出会ったのは本当に偶然だった。
そばに居てくれる事が、奇跡のような物だ。

杏子を帰したくない。

「せめて、もう少しだけ」

装飾品はとても美しい作りの物で
とても趣向を凝らしている。
圭が杏子に贈ったブレスレットとは大違いだ。

これを渡す事で杏子がまた光を思い出すのが怖い。
それでも光の装飾品を付けずに
自分を選んでくれる自信がない。

圭は装飾品を握りしめたまま立ち上がる。

湖に立ちこめる霧に、
光の姿が見えた気がした。

「光」

厳しい目つきで、圭を見つめる。
全て自分が作り出した幻想なのだろう。
圭は光に会ったことも無い。

「お前のことを考えるたび、自分がとても惨めに思えるよ」

圭は、腕を振り上げる。

小さな水音が夜の湖に響く。


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